初代クラウン、60年乗った亡きオーナーから譲渡“2つの約束” 担当者は涙「息子と言っていただいて」
ピッカピカに輝く初代クラウンに、「わあ、すごい!」と人々の驚きが広がった。現在は神奈川トヨタ自動車株式会社(トヨタモビリティ神奈川)が保有する歴史的価値のある1台だが、もとは男性オーナーが、60年間大事に乗ってきたものだ。1955年製のトヨペット・クラウン(RS型)の初期ロット。“70歳”になるが、今も現役バリバリで走っている。ナンバープレートの100にちなんで、愛称は「ひゃくばん」と呼ばれるこの貴重車は、展示時には実際に座席に乗ることができる。そこには、亡きオーナーと交わした“2つの約束”があるという。
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「Nostalgic 2days(ノスタルジック2デイズ)」会場で圧巻オーラ
ピッカピカに輝く初代クラウンに、「わあ、すごい!」と人々の驚きが広がった。現在は神奈川トヨタ自動車株式会社(トヨタモビリティ神奈川)が保有する歴史的価値のある1台だが、もとは男性オーナーが、60年間大事に乗ってきたものだ。1955年製のトヨペット・クラウン(RS型)の初期ロット。“70歳”になるが、今も現役バリバリで走っている。ナンバープレートの100にちなんで、愛称は「ひゃくばん」と呼ばれるこの貴重車は、展示時には実際に座席に乗ることができる。そこには、亡きオーナーと交わした“2つの約束”があるという。(取材・文=吉原知也)
旧車・絶版車が集う日本最大級のクラシックカーイベント「第16回 Nostalgic 2days(ノスタルジック2デイズ)」(主催:株式会社 芸文社)。恒例イベントが22日からパシフィコ横浜で始まり、初日はオーナー車両の展示会「選ばれし10台」が行われ、数々の名車が走行入場を披露した。会場内では自動車メーカーや販売店、プロショップがブース展開をする中で、この初代クラウンは気品あふれるオーラを放った。
ボンネットを開けてエンジンルームを見ると、タイヤハウスにスリットが入っている。同社の担当者・眞利子譲さんは「スリットが入っているのは初期ロットでも100台しか作られていません」と教えてくれた。
クラウン70周年の原点。そんな超が付くほどの貴重車なのだが、座り心地抜群の運転席や後部座席の感触を確かめることができる。この日も、小さな男の子の家族連れが“乗車体験”をして笑顔いっぱいの光景が見受けられた。
なぜ、“一般開放”をしているのか。「オーナー様のご遺志を受け継いでいます」と眞利子さん。そこには深い物語があった。
オーナー個人が保有し、オーナー家族で大切に乗ってきた1台。同社で整備を担当していた。晩年には貸し出しの形で、同社で展示車として取り扱うなど、オーナーと同社は関係性を深めてきた。亡きオーナーは生前から「みんなに見てもらいたい」と話していたといい、ある時、パーテーションを設けていたところ、仕切りを取り外すように店舗側に言い、その場にいた来店客を手招きして呼んだというエピソードが残されているほどだ。
10年前の夏、大きな区切りが訪れた。病床のオーナーから、同社の担当者が呼ばれた。当時担当を務めていた加藤久雄さんは「オーナー様から書類作成のご依頼を受けました。『譲渡の書類を』とのことでした。法務部と相談し、しっかりと準備をさせていただきました」と振り返る。
初代クラウンを引き継いでもらう――。心に決めたオーナーは、2つの条件を口にした。「転売しないこと」「今後も1人でも多くの人に見てもらうべく努めること」。この2つだった。
約束を守り続けることを伝えると、オーナーは加藤さんに「譲るよ」と優しく言葉をかけたという。オーナーが逝去したのはその5日後だった。
当時の豊田章男社長が「すごいね」と感嘆
託された初代クラウン。同社はレストアに取りかかった。専門エンジニアを集め、傷んでいたボディーを中心に完璧によみがえらせた。オーナーが亡くなった翌年の2016年に、トヨタ自動車の展示企画に合わせて、修復完了。当時トヨタ自動車の社長を務めていた豊田章男会長が「すごいね」と目を細めたほどだ。
後部座席のレギュレーターハンドルは、専門業者が3Dスキャナーを使って復元するなど、何かあればしっかり補修している。フルレストアが完了してから巡回展示を展開。大切に保管しながら店舗展示をしており、来店客に親しまれている。車検をとって、万全の整備でしっかり走れるように維持している。
加藤さんには初代クラウンとこんな縁がある。「実はうちのオヤジがトヨペット・クラウンRSDに乗っていたんです。オーナー様のご担当になって、初代クラウンを見た時は本当に驚きました。オヤジの車だ! って」。まさに、運命的だった。しかし、どうもはばかられ、オーナーにはついぞ、父親が初代クラウンに乗っていたことは伝えられなかったという。「実は、オーナー様と譲渡のご相談をした時、枕元から実印を出されて、私のことを『息子』と言っていただいたんです。本当にありがたく思っています」。涙声になりながら、とびきりの思い出を語った。
受け継がれる絆。加藤さんは「今もこの会場にオーナー様がいて、ニコニコ見守っていただいていると思っています。それに、うちのオヤジも近くにいるような気がしています。(トヨタ自動車創業者の)豊田喜一郎さんをはじめ、先人の思いを大事にさせていただき、これからもこの初代クラウンを大切に残していきたいです」と実感を込めた。
ノスタルジック2デイズは、多くのファンや愛好家でにぎわいを見せている。23日は、ショップデモカーによる走行入場に加えて、「ロンブー亮のラリー挑戦記」や「石原良純と刑事ドラマの話」などのステージイベントが展開される予定。
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