令和の那須与一と闘う僧侶が悲願のタッグ王座を奪取したワケ
大日本プロレス8・10後楽園ホール大会で「アストロノーツ」野村卓矢&阿部史典が、関本大介、佐藤耕平組を破り、第50代BJW認定タッグ王座を奪取した。
関本大介からフォール勝ちの快挙
大日本プロレス8・10後楽園ホール大会で「アストロノーツ」野村卓矢&阿部史典が、関本大介、佐藤耕平組を破り、第50代BJW認定タッグ王座を奪取した。
タッグを組んで3年。なかなか結果が出せずにいた若い2人だが、独自の練習を重ねて研鑽を積み、見事ベルトを腰に巻いた。
決り手は、野村のドラゴンスープレックス。昨今は投げっぱなしドラゴンを繰り出す選手が多いが、野村はきれいなブリッジできっちりホールド。先輩・関本から鮮やかにフォール勝ちを収めた。コロナ禍で声援は禁止されている客席で、涙するファンもいた。まさに感動の戴冠となった。
「プロレス界に入って最高と呼べる友だちと出会えて、その最高の友だちと最高のタッグベルトを巻けたことを本当に嬉しく思います」と阿部。その素直なコメントも胸を打つ。
この2人はリングを降りても仲が良く、先日は連れ立って、東京・南千住の回向院にカール・ゴッチさんの墓参に訪れた。
「プロレスの神様」の墓前で緊張の面持ちのアストロノーツ。長いこと神妙に手を合わせていた。
実は、ゴッチさんのお墓参りの後、ベルトを巻いた選手は多い。西村修、征矢学、鈴木秀樹、岡林裕二。みな、墓参の後にチャンピオンになっている。もちろん武運長久のご利益を期待してのお参りではないにしろ、プロレスの神様のご加護があったのではないか。
阿部は浄土宗の僧籍を持つ「闘うお坊さん」。ゴッチさんのお墓のある回向院も浄土宗のお寺である。
BASARA所属の阿部だが、変幻自在な小気味いいファイトで、あちこちの団体から引っ張りだこ。コロナ禍で、大会の中止、延期が続いた時期があったものの、参戦試合数では群を抜いている。
何より、阿部本人がプロレスを心から楽しんでおり、充実した毎日を送っている。様々な団体、フリーの選手との人脈を誇っており、年齢の割には経験豊富。いろいろなファイトスタイルに対応できる器用な選手だ。
大日本所属の野村は、栃木出身で那須与一ゆかりの家系。那須与一は源氏の武将。源平合戦の屋島の戦いで「この扇を射ってみよ」という平家の挑発に、70メートルも先の船上の扇を見事一矢で撃ち落とし、源氏の士気を高め勝利に導いたという弓の名手だ。
その際「2本あれば次もあると油断が生まれる」として、1本しか矢を持たなかったという。まさに一矢必中。野村は故事にならい「自分も次があると思わないで、試合に臨んでいます」と神妙だ。
那須与一は弓の練習のし過ぎで、左右の手の長さが違ったという逸話が残っている。野村の武器は蹴り。蹴りの練習のし過ぎで、左右の足の長さが微妙に違ってしまった。
お坊さんと那須与一という何とも絶妙な組み合わせのアストロノーツ。この先、経験を積んで、ますます成長してくれるはず。
「ベルトは第一歩。勝って兜の緒を締めよ、です。強くなりたくてプロレスラーになった。もっともっと強くなりたい」と、2人は決意も新たに前を見つめる。
強さの追求。ストロングクエストともいえるアストロノーツの進む道。その道のりを見守りたい。