井樫彩監督が感じた配信ドラマの可能性「地上波と違い、尺の自由度高く、表現の幅がある」 14回撮り直しワンシーン・ワンカットに挑戦

倉科カナ主演(37)のLeminoオリジナルドラマ『情事と事情』(各話約30分、全8話)が配信中だ。7人の男女の複雑な人間関係を描いた恋愛群像劇。演出を手掛けたのは映画、ドラマ、ミュージックビデオで活躍する井樫彩監督(29)だ。井樫監督が本作への思いを語った。

インタビューに応じた井樫彩監督【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた井樫彩監督【写真:ENCOUNT編集部】

Leminoドラマ『情事と事情』の井樫彩監督がヒロイン2人より浮気性の夫に感情移入したワケ

 倉科カナ主演(37)のLeminoオリジナルドラマ『情事と事情』(各話約30分、全8話)が配信中だ。7人の男女の複雑な人間関係を描いた恋愛群像劇。演出を手掛けたのは映画、ドラマ、ミュージックビデオで活躍する井樫彩監督(29)だ。井樫監督が本作への思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

 井樫彩監督は、繊細な心理描写と美しい映像表現で注目を集める若手監督の一人。映画だけでなく、ドラマやMVなど様々なジャンルの映像作品を手がけ、最近では松本若菜主演の復讐劇『復讐の未亡人』 (2022年)、倉科カナと菊池風磨が歳の差カップルを演じたラブコメディー『隣の男はよく食べる』 (23年)などドラマも好評だ。

『情事と事情』は小手鞠るいさんの小説が原作。裕福な家庭で育ち、実業家の修(金子ノブアキ)と結婚、自身も装幀家として活躍する結城愛里紗(倉科カナ)、7年下のカメラマン・世良晴人(佐藤寛太)にひかれていくフリーランスライターの中条彩江子(さとうほなみ)を中心に、男女7人の人間模様が絡み合う。ほかに、森香澄、寺西拓人、真飛聖らが出演する。

「今回は感情の機微をシンプルに描き、それを丁寧にブラッシュアップしたいと考えました。原作の不思議な世界観に少しファンタジー的な印象を受けたので、それを“ドロドロと”ではなく、“美しく、きれいに”表現したいと思いました」

第1話では、ホテルのロビーを使って、登場人物がすれ違っていく描写をワンシーン・ワンカットで撮影。映画のようなダイナミックな映像表現になっている。

「群像劇で登場人物が一堂に会するシーンなので、人物と人物が繋がっているということを表現するために『ここはワンカットで繋げてみたら面白いのでは?』というアイデアから始まりました。ただ、実際の撮影はとても大変で、時間も限られている中で14回ほど撮り直しました。俳優部の皆さんも『自分がミスできない』と緊張感を持って臨まれ、撮影が完了した瞬間には全員に一体感や達成感が生まれました」

 配信ドラマは地上波と違って尺の自由度が高く、物語の表現に幅が持てる点が魅力だという。

「その一方で、視聴者の『次を見たい』と思わせる工夫も大切だと感じています。また、映像表現の質にもこだわり、配信だからこそ可能なクオリティーを目指しました」

 主演の倉科とは『隣の男はよく食べる』に続くタッグとなった。前作では料理上手で家庭的だが、彼氏いない歴10年のシングルキャリアウーマン役だったが、本作では金、仕事、家庭も手にしながら、どこか満ち足りないところを持ったヒロイン結城愛里紗。劇中では、自由奔放な双子の妹役と1人2役にも挑戦している。

「長く活躍されていることもあり柔軟なお芝居と、役に感情を乗せる深みが非常に印象的でした。双子の役を演じたときも、キャラクターの違いを見事に表現されていて、役への入り込み方が素晴らしいと感じました」

 一方、もう一人の主人公である中条彩江子役のさとうほなみとは初めての仕事となった。

「(ゲスの極み乙女のドラマーとして)アーティストでもある、ほなみさんは感性が非常に豊かな方だなと思いました。感情的なシーンを多く担っていただきましたが、その場の状況や相手のお芝居を汲み取りつつ独自の表現を見せてくれる方で、表現者としての魅力をとても感じました」

 男女ともに多彩な人物が絡み合う群像劇だが、監督として「理解できる」という感情を持ったのは、ヒロイン2人ではなく、愛里紗の夫でやり手実業家の修(金子)だという。

「修はいろんな女性(森香澄ら)と遊んでいるんですが、本当に求めているのは妻の心。既に手に入れているようで、手に入らない。そんな切ない感じが分かるなぁと思ってしまうんですよね(笑)」

 劇中の男女のインティマシー(親密)シーンには、インティマシー・コーディネーター(IC)の浅田智穂さんが参加している。ICはヌードなどの体の露出、性描写のあるシーンに立ち合い、現場を安全に導く専門職。浅田さんは、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』のコーディネーターも務めており、最近では製作現場でのIC導入の認知も広まっている。

「ICが入った現場は『けむたい姉とずるい妹』(23年)に続き2つ目です。私個人的には過度な露出を伴う描写を好むタイプではなく、その行為によって生まれる心の描写を重視する方ではありますが、それでも『ICという立場の人間が第三者として存在することは重要』と感じています」

 ドラマは1月23日に最終話を配信し、全話が見られる状態。「一人称の物語とは違って、メインキャストが7人いますので、全てに共感することはなくても誰かの1つの感情には共感できるんじゃないかと思っています。誰かと関わることで傷ついたり、幸せな気持ちになれる。全話配信していますので、イッキ見で楽しんでいただきたい」と期待した。

□井樫彩(いがし・あや)1996年1月16日生まれ、北海道出身。卒業制作『溶ける』(16)が第70回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門に正式出品。初長編作『真っ赤な星』(18)で劇場デビュー。その他の作品に『NO CALL NO LIFE』(21)『あの娘は知らない』(22)、ドラマ『復讐の未亡人』(22)『隣の男はよく食べる』(23)など。今年公開の映画待機作も控える。

□Lminoオリジナルドラマ「情事と事情」全8話独占配信中 ※第1,2話無料配信
・公式サイト:https://lemino.docomo.ne.jp/ft/0000084/
・視聴はこちら:https://lemino.docomo.ne.jp/contents/Y3JpZDovL3BsYWxhLmlwdHZmLmpwL3ZvZC8wMDAwMDAwMDAwXzAwbTJpZHB1NjU=?pit_git_type=SERIES

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