坂東龍汰、映画単独初主演で父に感謝 NYから北海道へ移住「自給自足生活の中、許された娯楽が映画だった」
俳優の坂東龍汰(27)が映画『君の忘れ方』(1月17日公開、作道雄監督)で初の単独主演を果たした。本作は結婚直前の恋人・美紀(西野七瀬)を失った青年・昴(坂東)が喪失と向き合いながら再生への道を模索する物語。坂東が初の単独主演映画の思い、映画の道へのきっかけを作った父親について語った。
映画『君の忘れ方』で恋人を失った青年・昴を演じる
俳優の坂東龍汰(27)が映画『君の忘れ方』(1月17日公開、作道雄監督)で初の単独主演を果たした。本作は結婚直前の恋人・美紀(西野七瀬)を失った青年・昴(坂東)が喪失と向き合いながら再生への道を模索する物語。坂東が初の単独主演映画の思い、映画の道へのきっかけを作った父親について語った。(取材・文=平辻哲也)
ニューヨーク生まれ、北海道育ちという異色の経歴を持つ坂東は、2017年のドラマ『セトウツミ』でデビュー以来、映画『十二人の死にたい子どもたち』『弱虫ペダル』など話題作に次々と出演。繊細な表現力と確かな演技力で注目を集め、ダブル主演した映画『フタリノセカイ』では第32回日本映画批評家大賞の新人男優賞(南俊子賞)を受賞するなど、注目の若手俳優の一人だ。
坂東は、初の単独主演ということもあり、大きなプレッシャーを感じていたという。
「2時間ずっとスクリーンに映るプレッシャーを感じました。観客に見飽きられないよう、常に昴の感情を大切に表現しました」と語る。しかし、監督から「主観でいろ」と指示を受け、役に集中することで、次第に自分が昴になっていくような感覚があったという。
「結婚直前に恋人を失うという設定は、僕自身が経験したことのない感情と向き合わなければならず、非常に難しい役だと思いました。でも、監督としっかり話し合いながら、役を丁寧に作っていくことができると確信しました」
映画は、昴が故郷・飛騨高山を訪れるところから始まる。東京での生活に疲弊し、グリーフケア(死別した遺族へのサポート)も拒否していた昴だったが、飛騨で出会う人々との交流を通して、少しずつ心を開いていく……。
「脚本を読んだ時に、喪失と向き合うことの方が重要だと感じ、役作りもその点に注力しました。監督も意図的に余白を残し、観客が想像力を働かせられるように構成されていると感じました」
坂東は、クランクイン前に昴と生前の美紀の写真を撮影したことが役作りの上で非常に重要だったと振り返る。
「西野七瀬さんとは初めましてでしたが、物腰が柔らかく、接しやすい方でした。透明感とともに儚さや憂いを感じるところがあり、美紀というキャラクターに非常に合っていると感じました。撮影初日に恋人同士としての写真を撮るという状況でも、自然にその雰囲気を作れたのは西野さんのおかげです。写真撮影を通じて、昴の感情が徐々に形作られていきました」
喪失の感情を表現には、父から大切な身内との死別体験を聞いたことが大きなヒントになった。
「喪失をただ『悲しい』と表現するだけでなく、受け入れられない混乱や、リアリティのある感情の揺れを重視しました。すぐに悲しみを受け入れるのではなく、10年、20年と時間が経ってから実感が湧くという話が役作りに影響を与えました」
3歳で北海道に移住、シュタイナー教育を受ける
坂東の父は「一言では言えないくらいユニークな人」だという。20歳の頃に映画監督を目指して米ロサンゼルスに渡り、その後、ニューヨークで資格を取って、歯科技工士として働き、歯科医院の経営を引き継いだ。その時、陶芸家の母と出会い、結婚。姉と坂東が生まれ、坂東が3歳の時に家族で北海道に移住。子どもには芸術家を多数生み出したシュタイナー教育を受けさせた。
「父は夢だったワイン作りをするために、家財を一切処分して、北海道に移住したんです。周りに何にもないところにプレハブを買って、畑を耕して、ほぼ自給自足。3年かけて、自分ひとりで家を建ててしまう人です。シュタイナー教育によりネットや電子機器が禁止されていた中、唯一許可してくれた娯楽が映画だったので、自然と影響を受け、映画の道を選んだことに繋がったと思います。父も僕が映画の道に進んだことを喜んでいます」
本作はシリアスなテーマを扱いながら、時折、ほほ笑んでしまうコミカルな場面も。描写には空白も多く、それが観客に想像力をかき立てる。
「観客が昴の背景や心情を想像できるよう、あえて全てを見せずに余白を残している作品です。『再生』というテーマを通して、人が失ったものとどう向き合い、乗り越えていくかを観る人それぞれに考えていただける作品だと思います」と新境地となった単独主演作に手応えを感じているようだ。
□坂東龍汰(ばんどう・りょうた)1997年5月24日、ニューヨーク生まれ、北海道育ち。2017年デビュー。『フタリノセカイ』(22/飯塚花笑監督)で映画初主演を務め、第32回日本映画批評家大賞の新人男優賞(南俊子賞)を受賞。主な出演作に映画『春に散る』(23/瀬々敬久監督)、『バカ塗りの娘』(23/鶴岡慧子監督)、『一月の声に歓びを刻め』(24/三島有紀子監督)、『若武者』(24/二ノ宮隆太郎監督)、『シサム』(24/中尾浩之監督)、劇場アニメ『ふれる。』(24/長井龍雪監督)、ドラマ『RoOT/ルート』(24/TX)、『366日』(24/CX)、『ライオンの隠れ家』(24/TBS)など。出演舞台『ベイジルタウンの女神』(25/作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が5月より上演される。
ヘアメイク:後藤泰(OLTA)
スタイリスト:李靖華