小川直也「俺の前の重々しい雰囲気が嫌だった」 山下泰裕、斉藤仁…今だから明かす後を継ぐ“苦悩”

昨年末、YouTubeチャンネル「小川直也の暴走王チャンネル」では、日本人柔道女子初の金メダリストであるアトランタ五輪の恵本裕子氏を迎え、恵本氏の体験記を原作にした「JJM女子柔道部物語」の作画を担当する、漫画家の小林まこと先生が出演。バルセロナ五輪柔道銀メダリストの“暴走王”小川直也との共演を果たした。

小川直也(右)が恵本裕子氏(左)とメダリスト対談、間に挟まれているのは漫画家の小林まこと氏
小川直也(右)が恵本裕子氏(左)とメダリスト対談、間に挟まれているのは漫画家の小林まこと氏

パリ五輪柔道での阿部詩の号泣騒動

 昨年末、YouTubeチャンネル「小川直也の暴走王チャンネル」では、日本人柔道女子初の金メダリストであるアトランタ五輪の恵本裕子氏を迎え、恵本氏の体験記を原作にした「JJM女子柔道部物語」の作画を担当する、漫画家の小林まこと先生が出演。バルセロナ五輪柔道銀メダリストの“暴走王”小川直也との共演を果たした。(文=“Show”大谷泰顕)

 三者が共演を果たしたのは、昨年8月にあったパリ五輪から程なくした頃。内容は多岐に渡ったが、当然ながら誤審も含め物議を醸したパリ五輪の柔道を振り返る。

 大前提として恵本氏は、「私も50代になったのでお母さんの気持ちで、選手が泣いているともらい泣きをして見ちゃう。私は母親に気持ちだから、苦しいんだったらヤメなさいみたいな気持ち」と話し、どちらかというと親心に近い面持ちで日本人選手の活躍を見ていという。

 それでも、例えば前回覇者の阿部詩が2回戦でまさかの敗退を喫し、号泣しすぎて他の試合の進行を妨げてしまった件に触れ、恵本氏は「(詩が)パニックになっちゃって。本来なら見せない姿じゃないですか」「私だったら抱き抱えて奥に連れていく」「人間らしいところを、すごくスポットを浴びたところで出してしまった、という感じがします」と独自の見解を述べると、小川も「あそこは男子のコーチだと気遣いの部分が難しい」と語り、女子選手には女子のコーチが付いたほうが精神的なケアはしやすいのでは、との視点で話をしていた。

 ちなみに恵本氏は「私は世界選手権で負けて大泣きしたんですけど、次、敗者復活戦があるかもしれないと思えたので(抑えられた)。だからタイプによるのかな」とも話す。

 それでも長らく柔道界に関わってきた小川にとっても、物議を醸すまでの騒動に至ったことは珍しいのか、「初めての感覚」と話しつつ、「彼女の場合は、前回王者としてパリ五輪に出ている。その中での振る舞いだったから、あの時はコメントも控えたけど、もうちょっとチャンピオンらしく振る舞ってほしかった」と本音を覗かせた。

 これには恵本氏も「相手の子(ウズベキスタンのディヨラ・ケルディヨロワ)もすごく敬意を持っていて。(勝ったのに)喜ばなかったですよね」との見解を述べると、小川も「そこを考えちゃうと、相手のほうが精神的に上だったのかなって」と続けた。

 小川によれば、「あれがフランスの会場じゃなかったらどうだったのかなって。いろいろ俺も考えちゃってね。(フランスには)観客も柔道家が多いんだよ。柔道王国だから」とのこと。これには小林氏も「詩コールが起こっていたもんね。みんな柔道知っている」と話し、柔道に対するフランス側の理解度の高さを絶賛していた。

日本を背負って闘う

 これには小林氏も「詩コールが起こっていたもんね。みんな柔道知っている」と話し、柔道に対するフランス側の理解度の高さを絶賛していた。

 ところで、小川は柔道を始めてから10年で世界王者に登り詰め、恵本氏は8年で世界の頂点に立つという、計り知れない才能の持ち主だが、その両者から見て、今の柔道と当時の柔道は変わっているのか。この問いに対し、恵本氏は「(当時とは)ルールが変わっているから。私の頃は判定をいかに取るか。後半に(攻めて)行けば、旗が上がる(※勝てる)可能性が上がるから、後半の1分くらいで私自身が倒れるかぐらいの盛り上げ方を私自身はしていたんですね」と話した。

 現在はゴールデンスコアに方式になっているため、本戦で決着がつかない場合はそのまま時間無制限の延長線につながり、どちらかの選手が先に有効(または指導2回)以上のポイントを勝ち越した時点で勝負を決する。

 また、1992年バルセロナ五輪では銀メダルに甘んじたが、世界選手権に4回優勝した経験を持つ小川は、日本代表選手の日本を背負う意識について、「それぞれじゃないかな。それぞれのストーリーがあるから。例えば(五輪は)初めてですっていうのと2回目ですっていうのでも違うし」と話し、「3回目、4回目って自分でやっていくわけじゃん。そういう中で気持ち的には全然変わってくる。やっとの思いで代表をつかんだって選手もいれば。ただ単に通過点なのか。いろんな角度で観れるから」と各々の取り組み方によって意識は変化するとコメント。

 さらに小川は自身の経験を振り返り、「(自分の場合は)背負う背負わないじゃなくて生活のルーティンだから、背負うも何もやらなきゃダメでしょ。狙うべきオハチが回ってきているなあっていう感じだったよ」と話した。

 特に小川の場合は、「俺の上の世代が(国民栄誉賞の)山下泰裕先生と(五輪連覇の)斉藤仁先生だから、重々しい雰囲気が嫌だったから。それは変えて行かなきゃって」と思っていたことも明かしたが、いずれにせよ、尋常ではない重圧がのしかかっていたことは間違いない。

 興味深いのは、恵本氏が「私は会社から代表選手を出すっていうのが目標だったので、入社した時からそれを思っていて。キツかったなと思ったのは、五輪の1年前に世界選手権に負けてから代表権を取りに行ったりとか、あの辺がキツくて。五輪になってしまえば、日本を背負っているという感覚はだいぶ、薄れました」と話したこと。

近づくクライマックス

 これに関しては、小林氏が捕捉する。

「(国によって)出場枠っていうのがあって、日本人選手が全員、各階級に出られるわけじゃないんですよ。その階級から(一定の)成績を出さないと、その階級には出られないっていう。この人(恵本)は一回、落としたことがある」と説明した。

 そんな話を踏まえながら、恵本氏は「他の国の子が計量を失敗したんです。その瞬間にその国のその階級は取れない、五輪に出れないとか。それを見ていて畳の上で震えました。計量から震えましたね」と、国によって代表権を失うことの重圧を語ったが、そうした重圧の先に五輪が開催されているのだと思うと、改めて国を背負うことの重さを考えさせられた。

 なお、現在連載中の「JJM」は学生編を終え、社会人編にすでに突入しているが、いよいよ五輪に向けての話になる。小林氏は、「(今後の構想を)考えている時は楽しい。クライマックスは(金メダルを獲得した場面に)決まっているわけですよ。そこを勝手に妄想してると、一人で感動してますね。その通り描ければ、絶対に面白いなと思う」と話す。

 果たして、日本女子柔道に初めて金メダルがもたらされる日はどう描かれるのか。クライマックスの日は近い――。

次のページへ (2/2) 【動画】小川直也が日本人初の女子柔道金メダリスト恵本裕子氏とのメダリスト対談を公開した実際の映像
1 2
あなたの“気になる”を教えてください