伊澤星花×RENAはジョシカクの起爆剤になり得るか 五輪でもプロレスでも際立った女子の躍進

2025年がスタートし、早くも1週間がすぎたが、昨今はどのジャンルでも女性の活躍が目立つようになった。「昭和100年」と呼ばれる今年はその傾向に拍車がかかるだろう。今回はこれを考える。

大みそかのRIZINで圧倒的な強さを見せた伊澤星花(左)【写真:山口比佐夫】
大みそかのRIZINで圧倒的な強さを見せた伊澤星花(左)【写真:山口比佐夫】

令和女子プロレスは正月3日から“興行戦争”

 2025年がスタートし、早くも1週間がすぎたが、昨今はどのジャンルでも女性の活躍が目立つようになった。「昭和100年」と呼ばれる今年はその傾向に拍車がかかるだろう。今回はこれを考える。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

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 アマチュアとプロの厳密な境界線がなくなってから久しいが、昨年はスポーツの祭典であるパリ五輪も開催され、数多くの人気選手が生まれつつ、数多くの話題を振りまいた年だった。

 ちなみに日本が昨年のパリ五輪で獲得したメダルは金20個、銀12個、銅13個の合わせて45個。金メダルの数、メダル総数ともに海外で行われた五輪では過去最多となった。なかでも今回は女性の活躍が目立ち、メディアに取り上げられる頻度も圧倒的に女子の場合が多かった。

 例えば女子柔道の48キロ級金メダリストの角田夏美はオフショットの私服や水着姿にも反響が集まり、最近では五輪の賞金で新車を購入したことが話題になった。レスリング53キロ級金メダリストの藤波朱理は試合終了後の取材スペースで『嵐』の櫻井翔さんを見つけて大興奮。ツーショット写真を撮影し、レスリング界最強のアスリートが普通の女の子に戻った瞬間を披露した。

 オンナの時代といわれて久しいが、令和女子プロレスも話題にはこと欠かない。年商15億円といわれているスターダムが業界トップに君臨しているが、昨年はそこからロッシー小川代表がジュリアら数名の人気選手を引き連れ、マリーゴールドを立ち上げた。

 7月30日には両国国技館という大会場でジュリア対Sareeeという令和女子プロレス界屈指のキラーカードを実現させ、正月3日には大田区総合体育館という大箱で大会を開催。同日、スターダムは東京ガーデンシアターという、こちらも大会場で大会を行い、早くも新春から興行戦争で火花を散らした。

 マリーゴールドのウリはワールド王者Sareee対林下詩美(結果は林下が悲願の勝利を果たし、ワールド王座を初体感)と、“UN王者”青野未来VS桜井麻衣の情念対決だった。特に青野VS桜井は、記者会見やSNS、さらにはリング上でも舌戦を繰り返し、五社英雄監督による映画『吉原炎上』を思わせた。女性がその路線を打ち出されると、男性は太刀打ちができない。

 ロッシー代表は「今までと違った面が二人とも出れば。どちらかというとお互いに内に引き込むタイプだったから。それがこの試合を通じて、バーッて感情が出てきているんで、いい傾向だと思いますよ。それは詩美にしてもそうだけど、みんなね、内向的な人が多いんですよ、MGの選手たちは」と語り、感情を一気に開放してほしいと期待を込める(結果は桜井が勝利し、第二代UN王者に輝いた)。

ウナギ・サヤカの指摘に好感

 一方、スターダムでは2022年10月に同団体と袂(たもと)を分かったウナギ・サヤカが2年ぶりに復帰。同団体の人気選手・中野たむと一騎打ちを行い、敗れはしたものの、ウナギは一部メディアでタイトル戦を実施しなかった同団体の姿勢の甘さを指摘。「クビになった女をこんないい番手で出すような岡田太郎は、ロッシー小川を超えられないと思う」と岡田社長を批判したが、自由な言論が許されている雰囲気には好感を持った。

 時代錯誤の言論統制は、ジャンルの成長を阻害する。選手や関係者、メディアによる自由闊達な丁々発止がジャンルの活性化を呼ぶからだ。

 おそらく令和女子プロレスは、今年もこのウナギや、昨年の女子プロレス大賞に輝いたSareeeを中心に、内外に向けて大きく話題を振りまいていくことは必至。もちろん、さらなる市場規模の拡大を狙っていくに違いない。

 そんな中、なぜか大きく遅れを取ってしまったのが女子格闘技だろう。

 昨年は“お騒がせ格闘家”のぱんちゃん璃奈が春頃開催された「巌流島ヴァーチャルサバイバル」でルシア・アプデルガリムに顔面を変形させられ、都知事選では彼女のポスターが数十枚並ぶなど、さまざまな意味で話題を呼んだが、女子格闘技で話題を振り撒いたのは彼女くらい。2023年には大麻不法所持で逮捕→不起訴と世間を賑わせた、もう一人の“お騒がせ格闘家”のKINGレイナも昨年は鳴りをひそめていた。

 強いてあげれば、“フライ級クイーン・オブ・パンクラシスト”の杉山しずかがベストボディジャパンで日本一の肉体美を披露し、話題を呼んだことで多少なりとも女子格にスポットは当たったが、そこから爆発的な何かが生まれることはなかった。

 また、本来であれば、年末のRIZINでは、“RIZIN女子スーパーアトム級王者”の伊澤星花が“ツヨカワクイーン”RENAと頂上決戦が実現するところまで行ったようだが、RENAが海外での練習中に怪我を負い、実現は今年以降に持ち越しとなった。

 伊澤は大みそかのRIZINでは、ぱんちゃんをボコったルシアを140秒殺したかと思うと、RENAに対し、「この試合を見たらもっと怖くなって、ビビってもう出てこないかなと思います」と自信たっぷりに言及。「格下の相手とやってもしょうがないんで、もっと世界の強い選手と闘わせてください」と続けた。

 伊澤は世界最大の総合格闘技団体UFCでも通用するとの声もあり、それだけ才能を高く評価されているが、いかんせんライバルがいないのが痛い。良くも悪くもライバルの存在こそがファイターを光らせるからだ。

RENAは女子格そのもの

 その点で言えば、マット界において一時期は独自の存在感を放っていたが女子格が、最近はパッタリその熱も鎮火してしまったのは、主だった選手の「ライバル物語」を現出できていないのも大きな要因に違いない。さらに言えば、一時期に比べて地位と名声、報酬が付いてこない、という雰囲気があるのだろう。

 そうは言っても伊澤―RENAのキラーカードは残されている。

 ただし、RENAは女子格そのもの。だからこそ、単にこの一戦をマッチアップするだけではなく、女子格全体の起爆剤にするためにもうひと工夫ほしいところ。

 昨年、Netflixでは「極悪女王」が話題を振り撒いたことで、当時のダンプ松本やクラッシュギャルズらにスポットが当たったが、同じくNetflixで公開されている、世界最大のプロレス団体WWEのビンス・マクマホン氏の道程を描いた「悪のオーナー」では、ビジネスのためならなりふり構わない姿勢が随所に描かれていた。

 なにせ、モハメッド・アリやマイク・タイソンといったレジェンドプロボクサーから、今や大統領となったドナルド・トランプ氏まで登場し、ビンス氏も一時はWWE王座まで登り詰めたかと思うと、性加害容疑で訴えられた相手との裁判に決着がつくや否や、その女性をリングに上げる破天荒ぶり。まさにそこにはモラルやマナー的なものを逸脱した愛憎劇が繰り広げられつつ、これ以上ない“虚実皮膜”の世界が広がっている。

 実際、ビンス氏の愛妻・リンダ・マクマホン氏は前回のトランプ政権下では中小企業局長官を務め、今季の政権下では教育長官に起用されているのだから、政府との強固な結びつきもうかがえる。要は、女性の力がいかんなく登用されているイメージが、彼の国のWWEには存在する。

 極論すればビジネスと割り切った無茶苦茶な理屈がリング上で発揮されないと、女子格闘技が再び隆盛を極めることは難しいと思われる。そう考えると、もしかしたら女子格の選手はこだわりが強い選手が多いのかもしれない。

 とはいえ、伊澤―RENA、ぱんちゃん、杉山を含め、キャラの立った選手がいることは確認ができているのだから、あとはこれを束ねる方向性が導き出せれば。女子格は可能性を秘めたジャンルだけに巻き返しに期待したい。

 なぜなら、これだけどのジャンルでも女子の活躍がクローズアップされているのだ。勝機は必ずある。

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