「筋トレのしすぎで背が伸びなくなる」は本当? 松坂大輔氏を指導した専門家が語る理想のボディーの作り方
新年を迎え、1年の抱負として「今年こそはダイエットを!」と意気込んでいる人も多いだろう。男女問わず、美しい肉体を維持したい思うのは人間の根源的な欲求の1つだが、筋トレやダイエットにまつわる知識や用語は、一般人にはなじみがなく分かりづらいものも……。最も効率よく筋肉をつけ、強く美しい肉体を作るためには何が必要なのか。ボディビルで2度の世界王者に輝き、プロ野球の松坂大輔氏をはじめ、多くのプロアスリートを指導してきたトレーナーとしても知られる“筋肉博士”の山本義徳氏に、筋トレの基本と新常識を聞いた。
プロ野球の松坂大輔氏をはじめ、多くのプロアスリートを指導
新年を迎え、1年の抱負として「今年こそはダイエットを!」と意気込んでいる人も多いだろう。男女問わず、美しい肉体を維持したい思うのは人間の根源的な欲求の1つだが、筋トレやダイエットにまつわる知識や用語は、一般人にはなじみがなく分かりづらいものも……。最も効率よく筋肉をつけ、強く美しい肉体を作るためには何が必要なのか。ボディビルで2度の世界王者に輝き、プロ野球の松坂大輔氏をはじめ、多くのプロアスリートを指導してきたトレーナーとしても知られる“筋肉博士”の山本義徳氏に、筋トレの基本と新常識を聞いた。
高校時代、ラグビー部のウエートトレーニングで取り入れたベンチプレスをきっかけに、筋肉の世界に魅せられた山本氏。大学卒業後、勤め先の会社を半年で辞めてジムトレーナーに転向すると、24歳の時に東京ボディビル選手権「ミスター東京」で初優勝を飾り、本格的にボディビルダーの道へ。米国のボディビル大会「NPC」では、1998年にライトヘビー級、2005年にヘビー級で優勝し、2度の世界王者に輝いた。トレーニングと並行して独学で栄養学を学び、近年はプロテインをはじめとするサプリメントの開発や、YouTubeチャンネル「VALX 山本義徳 筋トレ大学」でトレーニングのアドバイスなどの発信を行っている。
運動能力向上をはじめ、痩せたり、疲れにくくなったりと、何となく美容や健康にいいというイメージのある筋トレだが、実際のところ、どんなメリットがあるのだろう。
「筋肉自体が分泌するマイオカインという物質に、がんを防いだり、骨を強くしたり、動脈硬化を予防する効果があることが報告されています。また、ウエートトレーニングを行うことでBDNF(脳由来神経栄養因子)という神経細胞を活性化させるたんぱく質が増加することも分かっている。単に体を強くするだけでなく、脳の働きを高めてアルツハイマーを予防するような効果もあるのです。この他、うつ病などの改善にも効果があると言われています」
逆に、筋トレをやりすぎることによるデメリットはあるのだろうか。
「私のように極めすぎると、着られる服がない、夏に暑い、食事やサプリにお金がかかる、ハマり過ぎて家庭や社会生活がおろそかになる……といったところでしょうか(笑)。冗談はさておき、やればやるほどいいというものではなく、適度に筋肉を休ませたり、十分な栄養を取らないと、逆に筋肉を壊すことにもつながります。また、正しいフォームでやることが何より大切。間違ったフォームでは関節を痛めたり、けがにつながることもあります」
一般的な社会人では、筋トレのためにまとまった時間を取れないこともしばしば。山本氏は意外にも、「トレーニングは週に90分で十分」と語る。
「トレーニング時間が週に90分を超えると良くないという論文もあります。30分を週に3回、1日おきにやるくらいがベストで、現役時代の自分もそれと大差ないくらいでした。週に90分というと少ないイメージがあるでしょう。野球やサッカーといった技術的な動作は反復練習が必要ですが、筋トレはそれらとは別物。短い時間に集中してやるぶん、負荷をかけ、自分がこなせる限界の重量や回数に挑戦するのが効率のよい鍛え方と言えます」
「炭水化物抜きダイエット」は、実は脂肪を取らないとむしろ逆効果に
1日30分、週に90分であれば、忙しい現代人であっても続けられそうだ。具体的には、どのようなトレーニングメニューを組めばいいのだろうか。
「時間帯はたんぱく質が使われやすい朝の方がいいと言われていますが、そこまで気にする必要はないでしょう。空腹状態だと筋肉が分解されてしまうので、食後2~3時間がたったタイミングがベストです。まずは足腰、スクワットはやっておきたいですね。ダンベルなどを持ち負荷をかけた状態で、10~15回を3セット。次は腕立て伏せがおすすめです。10回が理想ですが、できない場合は膝をついてやってもOK。この2つを続けていればだいぶ変わってくると思います。プランクは鍛えられる場所が少なく、ある程度続けると楽にできるようになってしまう。トレーニングをしたことがない方や、高齢者向けのメニューと言えます。
終わってからはできるだけ2時間以内に、卵かけご飯など、たんぱく質とグリコーゲン(糖質)を摂るようにしましょう。プロテインは牛乳や大豆などからたんぱく質のみを取り出したもの。トレーニング中は筋肉の分解と合成が同時に起こっており、たんぱく質は分解を抑え合成を高める材料になります。筋トレ中や直後に飲むのが効果的ですが、40グラムほどで効果は頭打ち。飲み過ぎれば余分なカロリーになるだけで、飲めば飲むだけいいというものではありません」
食事面ではたんぱく質だけでなく、脂質を取ることも重要だ。
「肉や魚、卵などのたんぱく質を豊富に取ることが大切です。体重1キロあたり2グラムを目安に取るようにしましょう。ただ、筋肉の合成にはたんぱく質だけでなく脂肪も必要。トータル摂取カロリーの25%くらいは脂肪でも構いません。外食だとサーモンやマグロ丼、ラーメンならチャーシュー麺などがいいですね。揚げ物やアルコールはできるだけ控えた方がいいでしょう。
何年か前に炭水化物抜きダイエットというものがはやりましたが、あれは効果があると思います。ただ、炭水化物を控えるだけでなく、しっかりと脂肪を取らないといけないことがあまり知られていない。グリコーゲンの代わりに脂肪から作られるケトン体がエネルギーとなるのですが、しっかり脂肪を取っていないとたんぱく質がエネルギーとして消費されてしまいます。炭水化物抜きダイエットをやるなら、例えばステーキなど、しっかりと脂肪もあるものを食べた方がいいのです」
筋トレやダイエットに関しては、さまざまな俗説も存在する。「有酸素運動をしすぎると筋肉が落ちる」「成長期に筋トレをすると背が伸びない」「筋トレをしすぎると寿命が縮む」といったものだ。
「有酸素運動で筋肉が落ちることはありませんが、分解と合成のうち、分解の方が強くなってしまい、ウエイトの効果が落ちることはあり得る。有酸素運動にもいい効果は様々ありますが、筋肉のことだけを考えればやりすぎは良くないでしょう。ちなみにダイエット目的で両方やる場合は、先に有酸素から始めるのがおすすめ。ひと昔前は逆と言われていましたが、有酸素の方が運動後のカロリー消費が少ないため、ウエイトを後にした方が効果が長続きします。
筋トレのしすぎで背が伸びなくなる、寿命が縮むといった話は、エビデンスもなく、眉唾ものと言わざるを得ないでしょう」
2023年に厚生労働省が改訂した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド」では、成人、高齢者ともに「週2~3回」の筋力トレーニングを推奨している。山本氏のような鋼の肉体には及ばずとも、無理のない範囲で体を鍛えていきたいところだ。