“ディズニーグッズ転売”中国人グループ同行取材で分かった意外な素顔と動機 「日本で就職しても手取りは20万円、やってられない」

限定グッズから生活必需品まで、ありとあらゆるモノを買い占め、高額で売り飛ばす「転売ヤー」が社会問題化している。“ディズニーグッズ転売集団”やポケモンカード売買、日本で大量に“仕入れ”母国で売りさばく中国人たち……。組織的な手口が指摘され、自由経済の中でグレーな形で荒稼ぎする、その実態はどんなものなのか。約2年にわたる潜入取材に取り組んだ、裏社会事情にも詳しいフリーライターの奥窪優木(おくくぼ・ゆうき)氏が意外な真相を明かした。

転売ヤーの驚がくの実態が明らかに(写真はイメージ)【写真:写真AC】
転売ヤーの驚がくの実態が明らかに(写真はイメージ)【写真:写真AC】

見え隠れする複雑事情 「民主主義社会での暮らしを切望、『中国本土には帰りたくない』」

 限定グッズから生活必需品まで、ありとあらゆるモノを買い占め、高額で売り飛ばす「転売ヤー」が社会問題化している。“ディズニーグッズ転売集団”やポケモンカード売買、日本で大量に“仕入れ”母国で売りさばく中国人たち……。組織的な手口が指摘され、自由経済の中でグレーな形で荒稼ぎする、その実態はどんなものなのか。約2年にわたる潜入取材に取り組んだ、裏社会事情にも詳しいフリーライターの奥窪優木(おくくぼ・ゆうき)氏が意外な真相を明かした。(取材・文=吉原知也)

「日本社会はあまりにも、『転売ヤー憎し』一辺倒になっていますが、それだと転売問題に取り組む時に、冷静な議論や的確な判断ができないと考えています」。奥窪氏は深い洞察を示す。

 その場でしか買えない限定商品を売り出し続ける販売者がいて、何が何でも欲しいと転売品にお金を出す買い手がいて、売買サイトのプラットフォーム側は対策を口にしながらも売上確保にひた走る。その隙間を、ひともうけしたい転売ヤーが埋めている――。「結局は、みんな自分が一番得になる動き方をしている。その結果が今の状態なのかなと考えています」。

 奥窪氏はこのほど、著書『転売ヤー 闇の経済学』(新潮新書)を上梓。これまであまり見えてこなかった数々の事例と実情を、白日の下にさらしたのだ。

 例えば、高値の取引が一時話題となったポケモンカード。奥窪氏は2023年5月、ある作業所を取材した。そこで、金属探知機や0.001グラム単位まで量ることのできる重量計などを駆使し、パックの中から“レアカード”を探し出す、驚がくの転売集団を目の当たりにした。「このグループは国内向けに活動していて、見つけたレアカードは、主にメルカリで転売。その他の“カス”はゲームセンターなどの景品に使われるため、専門業者に卸されていきます。また、レアカードの価格を“現金と同じ価値”とみなして取引する、裏社会のマネーロンダリングにも悪用されている実態もあります」。知られざる闇の世界の一端を明かした。

 中でも注目に値するのが、開園前の行列や園内での大量購入がネット上でたびたび批判されている、“ディズニーグッズ転売”だ。

 奥窪氏は、中国人の転売ヤー組織に密着取材を敢行した。日本の園内でグッズを大量購入し、本国で求める買い手に売りつけるという手口だ。組織と言っても、中国人の個人が仲間内を集めた5人組。こうした小さなグループ単位でも横行しているという。

 記念グッズ発売のタイミングとなった23年4月の取材で見たのは、驚く光景ばかりだった。まず、当時の同一商品の購入個数制限に合わせて、複数枚の入場チケットを事前購入。入園ゲートでは1人ずつ自分のチケット枚数分のチェックインを行い、実際は5人なのに“15人”として入場。入園後に取得できるスタンバイパスの争奪戦を経て、グッズ売り場へ。ここから“仕入れ”が始まった。その日に買い漁った会計の総額は約250万円に及んだ。

「リーダーの中国人女性が、『中国人の客はうるさいから、ちょっとでも汚れたら返品しろと言ってくる』と教えてくれました。興味深かったのが、ぬいぐるみです。『よく見ると、顔が全部違っていて、たまにブスなのがいるから要注意』と話していました」。

著書『転売ヤー 闇の経済学』が話題の奥窪優木氏【写真:ENCOUNT編集部】
著書『転売ヤー 闇の経済学』が話題の奥窪優木氏【写真:ENCOUNT編集部】

「最初は日本でしっかり学んで、社会人として成功したいと希望を持って来日します」

 さらに、24年6月、新エリア開業直後にも同行取材。入場のシステムが変更となっていたのだが、それをかいくぐり、入園直後に外に出て並び直すという手法が編み出されていた。

 いたちごっこの様相。「取材した中国人は、施設側の対策強化によって買い付けが難しくなったと言いながらも、中国における転売市場で単価が上がり、利幅が大きくなったという内情について話していました。それに、年間パスポートがなくなったのは痛手で、『転売ヤー対策のためではないか』とも語っていました」。

 大量購入した商品は、中国のSNSを通じて希望者に転売される。中国への配送は、国際スピード郵便(EMS)に加えて、怪しげな手段も。「信頼ある企業の輸出物の中にまぎれ込ませるそうです。中国当局は化粧品と医薬品の輸入品チェックには厳格ですが、裏ルートが存在するようです」とのことだ。

 日本に住みながら日本で転売行為に明け暮れる中国人たちは、どんな人たちなのか。これは、最大の疑問の1つだ。

「留学生が多い印象です。実はみんな、最初は日本でしっかり学んで、社会人として成功したいと希望を持って来日します。しかしながら日本で暮らす中で、『日本で就職しても手取りは20万円ぐらいで、やってられない』と失望し、『じゃあ、転売をやったほうがお金を稼げる』と、どんどん流れていってしまうのです。学生時代に誘われて転売ヤーになり、そのまま続けている中国人の若者もいます。中華圏の人たちが経営している“ガチ中華”のアルバイトを時給1200円で募集しても中国人が集まらないそうです。中国人学生の間では『コンビニでバイトするぐらいなら転売をやる』といった空気感があると聞いています」。複雑な事情が見え隠れしている。

 学生ビザにも期限がある。転売ヤーで居続けるために、自ら貿易会社などを起業して「経営管理ビザ」を取得するケースもあるといい、「要件である500万円以上の資本金は仲間たちから借りまくって、当座で集めてしまえる。聞いたところによると、プラスして3年の日本滞在の“延長”を目指すそうです」。

消費者マインドへの戒め 「意識改革の可能性もあるはず」

 そこまでする原動力はどこにあるのか。「中国人転売ヤーたちは、自発的に動いています。民主主義社会での暮らしを切望しており、『中国本土には帰りたくない』という前提があります。中には、日本を足掛かりに欧米に行くことを目標にしている人もいます。私は、彼ら彼女らにたくましさを感じています。生きるために必死ということなのです。日本人からすれば『人の庭を荒らすな』と怒りの思いがあるかもしれませんが、悪意を持って転売を繰り返しているようには思えませんでした」との実感を語る。

“転売大国”の日本。転売ヤーへの厳格対応はもちろんだが、有効な処方箋はあるのか。奥窪氏はプラットフォーム側に向けて、「例えば、明らかに転売に回されることが予想されたり、問題になっている会場限定グッズや行列の新商品について、一定期間扱わないという対策ができるはずです」と注文を付ける。

 そして、欲望を優先させてしまう消費者マインドを戒める。「やはり、転売されたモノを買わないこと。これに尽きます。それに、意識改革の可能性もあるはずです。キャラクターやIP(知的財産)グッズに関しては、中国のファンは日本のファンを見習って合わせる傾向にあります。日本で『転売ヤーから買うのはダサいよね』という考え方が広まれば、中国ファンによる転売の過熱を抑えることにつながるかもしれません」と強調した。

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