史上初のJリーグ出身プロ雀士・田島翔、異色転身で“二刀流”に挑戦のワケ “超大物”から激励「歴史を作れ」

麻雀界はプロ麻雀リーグ「Mリーグ」が人気を博し、エンターテインメントとしても関心度が高まっている。トップリーグを目指して過酷な麻雀の世界に飛び込んだのが、史上初となる元Jリーガーでプロ雀士となった田島翔だ。41歳で今なおサッカーも現役。“二刀流”で挑戦を続けるパイオニアが思い描く未来とは――。

元Jリーガーの田島翔は2022年にプロ雀士となり、“二刀流”を続ける【写真:本人提供】
元Jリーガーの田島翔は2022年にプロ雀士となり、“二刀流”を続ける【写真:本人提供】

【前編】田島翔、8か国を渡り歩いたサッカー選手がなぜプロ雀士に?

 麻雀界はプロ麻雀リーグ「Mリーグ」が人気を博し、エンターテインメントとしても関心度が高まっている。トップリーグを目指して過酷な麻雀の世界に飛び込んだのが、史上初となる元Jリーガーでプロ雀士となった田島翔だ。41歳で今なおサッカーも現役。“二刀流”で挑戦を続けるパイオニアが思い描く未来とは――。(取材・文=小田智史)

 田島は高校卒業後にシンガポールへ留学。2004年に当時Jリーグ入りを目指していたFC琉球に入団し、その後、社会人リーグやクロアチア2部、スペイン5部のクラブでプレーしたのち、東日本大震災をきっかけに帰国して、12年にJ2ロアッソ熊本とプロ契約を結んだ。

 しかし、熊本では公式戦出場どころか1試合もベンチに入れず、わずか1年で退団。フットサル転向を挟んで再びサッカー界に戻ると、ニュージーランド、アメリカ、韓国、サンマリノと海外での挑戦を続け、2021年に帰国した。

 日本人選手として初めてサンマリノ1部リーグでプレーしたものの、当時はコロナ禍真っ只中。ロックダウン(都市封鎖)で家から出られず、練習もできない日々の中で、元々好きだったという麻雀への思いが強まっていった。

 田島は2022年4月7日、麻雀プロ団体「RMU」への入会を申し込んだ。現在の麻雀界は、プロスポーツ化を目指して2018年7月に発足したプロリーグ戦「Mリーグ」に認定されているプロ団体が5つあり、2007年6月に立ち上がった「RMU」はその1つ。2022年4月に入会を申し込み、江の島FCでサッカーに打ち込みながら勉強明け暮れ、7月の試験(男女34人が受験)で見事に一発合格。RMUだけでなく、麻雀界でも史上初となる“元Jリーガーのプロ雀士”が誕生した。

 近年、麻雀は「ギャンブル」という立ち位置から、互いの知性を競い合う「頭脳スポーツ」へと進化。Mリーグは絶大な人気を誇り、世間の麻雀に対するイメージも変わってきている。田島も「子どもたちが麻雀をやるようになった」と時代の推移を実感しているという。

「今はもう笑い話ですけど、ロアッソ熊本時代のファン感謝デーで『休みの日に何をやっているか』を聞かれて、『麻雀』と答えたらクラブの社長に『あんな大勢の前で麻雀なんて言ったらイメージが悪すぎるからダメだ』とひどく怒られました(笑)。今は子どもたちがスポーツとしてやっている印象で、下の世代から育ってきている。麻雀は賭け事、ギャンブルの印象が強かった中で、今はそれもなくなってきていて、『将来はMリーガーになりたい』とか、公に発信しやすくなっていると思います」

Mリーグの最高顧問を務める川淵三郎氏からも激励を受けた【写真:本人提供】
Mリーグの最高顧問を務める川淵三郎氏からも激励を受けた【写真:本人提供】

Jリーグ初代キャプテン・川淵氏の存在も原動力

 田島は半年間にわたる計5回の研修をこなし、2023年4月から本格的にリーグ戦や各団体が主催する大会への参戦が可能となった。現在はA、B、C、Dの4カテゴリーがあるリーグ戦の「D-3」に所属し、サッカー選手としてパーソナルトレーナーとのトレーニングを続けながら、“昇格”を目指している。

「RMUはA、B、C、Dまでリーグがあって、そこで優勝すると賞金が約3万円。大きな大会で優勝すれば賞金も数十万円とかに上がりますけど、今は賞金に手が届くカテゴリーでもない。残念ながら、プロ雀士としての賞金はまだほとんどないのが正直なところで、健康麻雀のお店でのスタッフ(先生)と、自分のサッカースクール(埼玉県を拠点にした『アリエテ・サッカースクール』)での収入がメインです」

 田島が出場を目指すMリーグは、最低年俸が推定400万円、エース級は年俸1000~2000万円とも言われる。しかし、プロ雀士が約3000人いるのに対し、最高峰の舞台に立てるのはわずか36人(全9チームで4選手ずつ)。麻雀競技だけで生計を立てられる選手は全体の1割にも満たず、会社員として勤務しながら二足の草鞋を履くなど、生き方は様々だ。

「Mリーグはまだ全然上の世界ですが、プロ雀士なら誰しもが目指す場所です。ただ、ドラフト制で、成績だけで決まるのでもなく、年に2、3人しかMリーガーになれない狭き門です。メンバーの入れ替えがないシーズンもあって、プロサッカー選手になるよりも、もしかしたらMリーガーになるほうが難しいかもしれません。エンタメの要素もあるので、発信力を含めて他の人が持っていない武器がないといけない。自分にとって、それはサッカーだと思っています。プロ野球では近鉄バファローズで活躍した元投手の加藤哲郎さんが(2023年に)プロ雀士になってますが、元Jリーガーでは僕以外にプロ雀士はいませんから」

 田島の“二刀流”を後押しする存在もいる。Jリーグ初代チェアマンであり、Mリーグの最高顧問を務める川淵三郎氏だ。2023年にはサッカーと麻雀をつなぐ大先輩との対面が実現し、直接激励を受けたという。

「サッカーのプロと麻雀のプロになった。そんな人は1人しかいない。麻雀で歴史を作れ」

 受け取った色紙には、そうメッセージがつづられており、麻雀愛の強い川淵氏の熱意と期待を感じたと田島は語る。

「川淵氏さんからは、『初めて元Jリーガーでプロ雀士になったわけだから、とにかく頑張ってほしい。Mリーガーになるのは時間がかかることかもしれないけど、続けて頑張ってくれ』と。川淵さんにいい報告をしたいと思うし、励みになる。リーグ戦やカップ戦があると、川淵さんに結果を報告しています。今までサッカー界からはプロ雀士がいなかったので、すごく期待してくださっていると感じます」

 田島の中では、“他の人にはない武器”であるサッカーでのプランも一歩ずつ進んでいる。

<後編に続く>

□田島翔(たじま・しょう)1983年4月7日、北海道出身。サッカー選手として国内ではJリーグのロアッソ熊本、FC琉球、海外はスペイン、クロアチア、アメリカ、ニュージーランド、サンマリノ共和国、韓国、シンガポール、ブラジルと8か国でプレー。2022年7月に史上初となり元Jリーガーのプロ雀士となり、プロ競技麻雀団体RMUに所属。サッカーとの“二刀流”に挑戦中で、麻雀プロリーグ戦・Mリーグ出場を目指して研鑽を積む。

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