『SHOGUN』真田広之が「誇らしかった」と絶賛、ハリウッドからも評価される42歳気鋭監督がアイヌの世界を撮ったワケ
山田杏奈主演の映画『山女』(2022年)などを手掛けた福永壮志監督(42)は、今年のエミー賞史上最多18冠を成し遂げた米ドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』などを手掛け、世界で活躍する気鋭の監督だ。最新ドキュメンタリー映画『アイヌプリ』(12月14日公開)では自身の出身地である北海道で暮らすアイヌ家族の生活を追っている。福永監督が『SHOGUN 将軍』での経験、本作への思いを語った。
14日公開の最新ドキュメンタリー映画『アイヌプリ』への思い
山田杏奈主演の映画『山女』(2022年)などを手掛けた福永壮志監督(42)は、今年のエミー賞史上最多18冠を成し遂げた米ドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』などを手掛け、世界で活躍する気鋭の監督だ。最新ドキュメンタリー映画『アイヌプリ』(12月14日公開)では自身の出身地である北海道で暮らすアイヌ家族の生活を追っている。福永監督が『SHOGUN 将軍』での経験、本作への思いを語った。(取材・文=平辻哲也)
福永監督は北海道伊達市生まれの42歳。2003年に渡米し、ニューヨーク市立大学ブルックリン校映画学部で学び、2015年にアフリカからニューヨークに渡った移民の姿を描いた初長編映画『リベリアの白い血』で監督デビューし、世界の映画祭で高く評価されてきた。以降、自身の企画として、アイヌの血を引く少年の成長物語『アイヌモシリ』(2020年 ※「リ」の正式表記は小文字)、18世紀の東北の因習を背景に、女性の生き様を描く『山女』を送り出してきた。一方、『SHOGUN 将軍』7話、『TOKYO VICE』シーズン2といった大作ドラマの演出にも参加している。
『SHOGUN 将軍』は、所属するエージェント会社から推薦を受けたことがきっかけだった。
「ショーランナー(脚本総指揮者/制作総責任者)が、僕のピッチ(アイデア提案)と過去作を気に入ってくれたのが始まりです。『アイヌモシリ』も観てくれたそうです。いきなり未経験の大きな予算の作品をやることになったので、不安もありましたが、『失敗しても死ぬわけではないから(笑)』と思いながら、全力で取り組みました。終わってみると案外やれるものだと実感しました」と振り返る。
現場では、主演・プロデュースを手掛けた真田広之の高い熱量を間近で感じた。
「スタッフ全員が『真田さんのプロジェクト』という意識を持ち、そのために頑張ろうという空気がありました。僕が担当した第7話の後の回でも、一部の演出を任されました。日本人が出ない英語でのシーンでしたが、真田さんから『英語で演出している姿を見て誇らしかった』と言っていただけたことが印象に残っています。エミー賞受賞は、本当にうれしい出来事でした」
福永監督は、メジャードラマで確かな演出力を発揮したが、自ら企画する作品と、制作会社から依頼される仕事との間には明確な意識の違いがあるという。『リベリアの白い血』『アイヌモシリ』『山女』、そして最新作『アイヌプリ』は、最初から自身の手で作り上げた「作品」だと感じている。
『アイヌプリ』は、北海道・白糠町でアイヌプリ(アイヌ式)を実践し、祖先から続く鮭漁(マレプ漁 ※「プ」の正式表記は小文字)の技法や文化を息子の基輝君に伝えている天内重樹(シゲ)さんと、その家族を追ったドキュメンタリーだ。
「アイヌへの興味はずっとありましたが、知る機会が全然なかったんです。アメリカに行ってから、先住民族への意識、歴史への理解が進んでいるのを目の当たりにして、恥ずかしくなり、アイヌのことをもっと知りたいと思ったのが、『アイヌモシリ』制作のきっかけです」
『アイヌプリ』では劇映画からドキュメンタリーへと形を変えたが、それには、シゲさんの存在が大きい。
「アイヌの鮭漁は、すごくストイックな伝統文化です。シゲさんが2011年に復活させるまでは誰もやっていなかったんです。ただ、シゲさんが鮭漁を始めた理由は、『ただ自分がやってみたい』という純粋な思いで、誰かに見せるためではありません。その姿勢に感銘を受け、映像として記録に残したいと思いました。シゲさんという人間や、目の前で起きていること自体が魅力的だったので、それを脚色してストーリーを紡ぐ必要はないと思いました」
カメラは、シゲさんに寄り添い、ありのまま出来事を捉える。その独特な距離感が作品のトーンを形つくっている。
「非当事者である自分がアイヌの映画を撮ることはとてもセンシティブなことですし、慎重になりました。自分のイメージを押し付けず、目の前の現実をそのまま映画として形にすることを目指しました。作り手として『社会に良い影響を与えたい』という気持ちはありますが、現実とのギャップには葛藤もあります。しかし、シゲさんは屈託なく、目の前のことに真っすぐ向き合って行動しています。そして、その行動が結果的に大きな意義を持っています。その姿が本当に素晴らしいのです」
自身の映画表現を実現しつつ、ショービジネスからも引く手あまたの福永監督。今後はどんな作品を手掛けていくのか。
「僕は、長期的なビジョンを持って行動できるタイプではありません。一つ一つ目の前のことに取り組み、気がつけば今に至るという感じです。点と点が結果的に線になり、何かが残ればと思っています。これまで手掛けてきた作品は、社会の中で光が当たりにくい人々や場所、届きにくい声を可視化することに意義を感じてきましたので、今後もそれはやっていきたい」。その独自の視点と揺るぎない情熱が、これからどのような物語を紡ぎ出すのか。福永監督の今後にも注目が集まる。
■福永壮志(ふくなが・たけし)1982年9月10日、北海道出身。2003年に渡米し、ニューヨーク市立大学ブルックリン校映画学部を卒業。15年に初長編映画『リベリアの白い血』がベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品、ロサンゼルス映画祭で最高賞受賞、16年のインディペンデント・スピリットアワードでジョン・カサヴェテス賞にノミネートされた。長編2作目の『アイヌモシリ』は、20年のトライベッカ映画祭の国際ナラティブ・コンペティション部門で審査員特別賞、グアナファト国際映画祭で最優秀作品賞を受賞。『山女』が長編3作目となる。近年では、米ドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』の7話、『TOKYO VICE S2』の5話、6話の監督を務める。