募集と異なる月給や待遇…“求人詐欺”はなぜ減らない? ハローワークでも防げないワケとは

人手不足が叫ばれて久しい。帝国データバンクは7月上旬、従業員の退職や採用難などを原因とする「人手不足倒産」が2024年1~6月に182件起きたと発表した。23年1~6月の人手不足倒産の件数が110件であることを鑑みると、人手不足が加速していることがうかがえる。人手不足になれば企業間で人材の獲得合戦が起き、それに伴い求人の質が向上する傾向がある。しかし、実際の求人では、賃金が低かったり、実際の待遇や環境が募集条件と異なったりする「ブラック求人」 の目撃情報が定期的にSNSで見られる。そこで求人サイトにブラック求人が掲載される背景を、労働問題に取り組むNPO法人POSSEで理事を務める坂倉昇平氏に聞いた。

入社して初めて事実が分かる(写真はイメージ)【写真:写真AC】
入社して初めて事実が分かる(写真はイメージ)【写真:写真AC】

月給28万円のはずが… 入社後の“実際の待遇”にがく然

 人手不足が叫ばれて久しい。帝国データバンクは7月上旬、従業員の退職や採用難などを原因とする「人手不足倒産」が2024年1~6月に182件起きたと発表した。23年1~6月の人手不足倒産の件数が110件であることを鑑みると、人手不足が加速していることがうかがえる。人手不足になれば企業間で人材の獲得合戦が起き、それに伴い求人の質が向上する傾向がある。しかし、実際の求人では、賃金が低かったり、実際の待遇や環境が募集条件と異なったりする「ブラック求人」 の目撃情報が定期的にSNSで見られる。そこで求人サイトにブラック求人が掲載される背景を、労働問題に取り組むNPO法人POSSEで理事を務める坂倉昇平氏に聞いた。

 まず坂倉氏は「ブラック求人はさまざまな求人サイトで掲載されています」と現状について明かす。例えば賃金面では、求人票の「月給」に残業代を含んで、高く表示することがトラブルの原因になっているという。「日本の求人票や雇用契約は基本的に月給ベースになっており、加えて固定残業代を足してパッと見で月給を高く見せるために“水増し”する企業も一定数あり、最低賃金を下回っているかどうかがあいまい化されやすいこともブラック求人が見られる要因と言えます」。残業代はもちろん、最低賃金には含まれない。月給が異常に高い場合も含め、求人票を読む際は注意が必要だ。

 入社後に待遇面の変更がなされる「求人詐欺」も、ブラック求人の問題点だ。不当な扱いを受けた労働者から数多くの相談を受けている坂倉氏は、「保育園の栄養士として就職した人から『ハローワークの求人票では月給28万円と書かれていたけど、実際は月給17万円ほどだった』という相談が寄せられたこともありましたが、実際に給料面が異なるケースは少なくありません。また、同じくハローワークを通じて応募した産業廃棄物の処理業務をする企業に事務職として採用された人からは、『事務仕事ではなく重労働の現場仕事をやらされた』という声もありました。他にも、正社員として就職したものの、試用期間という名目で非正規雇用として働かされた人もいます」。このような悪質な求人は以前から聞く話だが、いまだになくなっていないというから驚きだ。

ブラック求人であっても… 不受理のハードルは高すぎる

 求人サイト運営側はなぜブラック求人を食い止めることができないのか。

 坂倉氏はハローワークを例に挙げて説明した。

「まずハローワークの場合、公共機関ですので、(原則)求人票の掲載の申し込みは拒否できません。疑わしいブラック求人であっても不受理という選択は簡単ではありません。また、ハローワークに勤めている職員から聞いた話によれば、仮に求人票に月給30万円と記していながら実際は月給20万円だった企業に是正指導したとしても、企業は『求人票と実際の条件を合わせればいいんですよね』と、給与を月給30万円に上げることはせずに求人票に書かれている給料を20万円に修正する手口があるそうです。このように開き直る企業も少なくなく、求人詐欺を防止することもやはり容易ではありません」

 特に労働環境が劣悪で長時間労働を強いるブラック企業では、まともに求人しても人が集まってこないことが多い。そのため、あの手この手で求人票の待遇をよく見せようとする。公的な職業紹介事業者であるハローワークでも“監視の目”をかいくぐっているというのだから、他は推して知るべしだ。

 NPO法人POSSEでは少しでも不健全な求人をなくそうと、10年前から声を上げ続け、そのかいあって2020年3月に職業安定法が改正され、職業紹介事業者は「一定の労働関係法令違反の求人者による求人」の申し込みは拒否できるようになっている。

 とはいえ、このハードルもあまりに高いというのが坂倉氏の考えだ。

「『一定の労働関係法令違反の求人者による求人』に該当する求人とは、まず労働基準監督署(労基署)から1年間に2回以上、同一の対象条項違反によって是正指導を受けたものを指します。ただ、労基署は簡単に是正指導に動いてはくれず、なにより1年間に2度も同一の対象条項違反で是正指導を受けるケースはかなりレアです。また、労基署が対象条項違反によって書類送検した場合も含まれますが、これも相当悪質なケースでなければ動くことはなく、年間400件ほどしかありません」

 ブラック求人や求人詐欺の実質的な抑止力にはなっていないという。

危険なブラック求人の“放置” 撲滅のための方法とは

 労働者の自衛手段も限られている。

「条件面からブラック求人と判断できるものは比較的避けやすいが、求人詐欺は働き始めなければだまされているかどうかは分かりません。求人詐欺だと分かった瞬間に辞めたり交渉できたりすればまだ良いのですが、それができずに変更後の劣悪な待遇に合意してしまい、働き続けて心身を壊してしまう人は多いです」。坂倉氏は労働者を搾取したり、だましたりする求人票を放置することの危険性を訴えた。

 転職のハードルが下がり、多くの企業で副業も認められるようになった。よりよい職につきたいという人々の思いを逆手に悪用するブラック求人を少しでも減らす方法はないのだろうか。

「『一定の労働関係法令違反の求人者による求人』の条件をもう少し緩和して、(ブラック企業からの)申し込みを不受理にしやすくする。

 加えて、ハローワークでは『ハローワークが企業に対して是正指導できる』ということはあまり知られていないと思います。また、企業が求人票から条件を変更する際には、どこを変更したかを採用時に明示しないと違法になります。労働者も、求人票とは異なる働き方・労働条件を提示された場合に備えて、そのやりとりを録音するなど、証拠を残しておいてほしい。証拠があれば、ハローワークも活用しやすくなると思います。そして、ハローワークもブラック求人を載せる企業に毅然とした対応をすることを望みます」と坂倉さんは結んだ。

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