グローバル視点のSKY-HIが語った海外アーティストとコラボする意義と理由「世界進出の手段ではない」
チェコのシンガー・MIKOLAS(ミコラス)がラッパーのSKY-HIとコラボレーションした楽曲『LALALALALALALALALALA (Tokyo Version)』が10月25日に配信リリースされた。MIKOLASによるオリジナルバージョンは2020年に発表。22年に一般の人が投稿した日本語訳付き動画が拡散し、バイラル(口こみによる)ヒットになった。そんな話題作が今回のコラボでどう生まれ変わったのか。MIKOLASとSKY-HIが、ENCOUNTに同作の魅力やコラボの意義などを語った。
チェコのMIKOLASと楽曲リリース
チェコのシンガー・MIKOLAS(ミコラス)がラッパーのSKY-HIとコラボレーションした楽曲『LALALALALALALALALALA (Tokyo Version)』が10月25日に配信リリースされた。MIKOLASによるオリジナルバージョンは2020年に発表。22年に一般の人が投稿した日本語訳付き動画が拡散し、バイラル(口こみによる)ヒットになった。そんな話題作が今回のコラボでどう生まれ変わったのか。MIKOLASとSKY-HIが、ENCOUNTに同作の魅力やコラボの意義などを語った。(取材・文=よもつ、構成=柳田通斉)
都内のスタジオ。29歳のMIKOLASはスタッフ、記者を目の前に笑顔で「Hello guys.」と言った。ご機嫌だ。37歳のSKY-HIは顔見知りの記者を見て「お久しぶりです。よろしくお願いいたします」とあいさつ。取材が始まると、MIKOLASの言葉が通訳される前にSKY-HIがうなずき、英語でリアクションした。
MIKOLAS「自分の曲が日本で想像もしない形でヒットして驚きました。そして、日本でのレコード会社が決まったことを機に始動しました。何人か挙がった候補の中で、僕が『SKY-HIがぴったりだ』と思い、オファーしました」
20年発表の『LALALALALALALALALALA』は、2年半後にファンが投稿した日本語訳付き動画が話題になり、それが500万回再生を超えた。そして、今回リリースされた『Tokyo Version』では、SKY-HIが歌詞の一部を日本語訳し、ラップを担当した。MIKOLASがSKY-HIを指名した決め手となったのは「(人として)自分と合うかも」といったフィーリング。そして、SKY-HIの評判だった。
MIKOLAS「日本の人に相談すると必ず彼の名前が挙がった。アーティストとしての実績も今の活動も説明する必要がないくらい素晴らしい」
SKY-HIもオファーを快諾。理由は明快だった。
SKY-HI「僕は韓国のCHANGMO(チャンモ)やフィリピンのNo Rome(ノー・ローム)のように、もともと交流がある人とコラボしてきました。MIKOLASとは会ったことはなかったけど、曲を聴いたらすてきだった。それが(オファー受けた)一番の理由。音楽的にいろんなジャンルの交ざり方がユニークで、声もすてきだった。どんな人が、どんなバックグラウンドで作ったのか興味が湧き、MIKOLASを通してチェコにも興味が湧きました」
実際に会って制作を始めたのは今春。4月にはSKY-HIがナビゲートするJ-WAVEの番組『DIVE TO THE WORLD』にMIKOLASがゲスト出演し、互いの理解を深めた。
SKY-HI「当初は(日本語の歌詞を)何パターンか用意して、オンラインで進めていたけど、結局、MIKOLASが日本に来てくれました。BMSGのスタジオに入って、歌詞を作っていきましたね。MIKOLASが原曲のフローを大事にしながら、『こういう音だったらどうなる?』などと音の響きを提案してきて、僕が『だったら、この言葉はどう』と日本語の歌詞を提案する。MIKOLASは『この小さく入っている音はどういう意味か』と聞くなど、子音までちゃんと聞き取る耳の良さがあるので、綿密に子音と母音と意味を擦り合わせて作っていきました」
海外アーティストの既存楽曲の和訳について、普段の作曲と違いはあったのだろうか。
SKY-HI「BMSG設立後は年間に60~70曲くらい作っているけど、90~95%くらいはコライト(複数人で楽曲を制作する手法)なので違いはないです。ただ、言語差があるだけです。それにMIKOLASの判断基準が明確だったので、やりやすかったですね。レコーディングは別のタイミングで、MIKOLASはその時の来日の際でした。大きなキャリーケースを持って来ていたのに、トランジットでロストバゲッジして(笑)。日本に来てすぐに、ユニクロに行ったんだっけ?」
MIKOLAS「YES!」
SKY-HI「それで、キャリーケースが届いた頃にレコーディングでした(笑)」
MIKOLAS「(SKY-HIのラップは)完璧だった。もっと時間がかかると思っていたが、彼は書くのが速い。年間に60~70曲くらい書いているのも信じられる」
SKY-HI「60~70曲は言い過ぎましたけど(笑)」
楽曲の魅力について、SKY-HIは「期待には応えるけど予想を裏切る展開」と語る。
SKY-HI「楽曲自体はずっとフック(サビ)っぽい。そこに一番キャッチーなスーパーフック(『Lalalalalalalalala』のフレーズ)がある。簡単そうに見えて難しい。あとMIKOLASの声がセクシーでした」
MIKOLAS「Thank you! 何度も録り直しました(笑)。実は最初は『Lalalalalalalalala』のフレーズだけ先にあって、サビがなかった。ピッタリのサビが出なかったので、一度寝かせて、3か月後にあるアイデアを思いついて、それがピッタリと合った。『予想を裏切る』と言ってくれたのは、そういうことかな」
SKY-HI「確かにいろんなライターが書いた曲に聴こえます」
MIKOLAS「音楽の世界に言葉の壁はない」
MIKOLAS「それが日本でウケた理由かもしれない。日本の楽曲は1曲の中でラップやロックのパートが入っている。一度寝かせて別の時期に作ったのが、功を奏したのかも」
SKY-HIにとって、海外のアーティストとコラボする意義は何だろうか。
SKY-HI「ストリーミングの普及以降、海外の曲を聴くことも、海外に曲を届けることも以前より簡単になりました。だけど1曲だけでMIKOLASがどういう人か、チェコがどういう国かを知ることはできません。でも、コラボをすればこの通り、MIKOLASは日本のことを知って好きになってくれたし、自分はチェコに興味が湧いた。個人レベルでそれが起こると、組織と組織、国と国で交流が深まります。日本は国としてグローバル化する必要があるし、異文化交流はいろんな形であるけど、最も友好的、文化的、平和的な交流は多分こういうことだと思います」
だが、本人は海外アーティストとのコラボ=「世界進出の手段」とは考えていなかった。
SKY-HI「(コラボも)単純にMIKOLASの楽曲がすてきだったこと、MIKOLASがすてきな人だったということです。そのミニマルな事実を大切にしたいです。例えばBE:FIRSTはK-POPのATEEZ(エイティーズ)とコラボしました。グローバルなK-POPのビジネスモデルは見習うところもあるけど、まず『ATEEZとBE:FIRSTは合いそうだよね』『じゃあ、一緒にやってみよう』という純粋な思いがないと絶対にダメ。It can be businessだけど、not for only that’sというのは大事です」
音楽への純粋な思い、それはMIKOLASと日本の縁にもなった。
MIKOLAS「コネクションがなくても地球の反対側にまで届く。それが音楽の素晴らしさで、音楽の力だと思います。実際に日本に来て、それまで思っていた以上の印象になりました。初来日の時は3日間の滞在中、SKY-HIのチームと一緒に過ごして、いろいろな場所に連れて行ってもらって、友情も芽生えました」
SKY-HI「BE:FIRSTとUVERworldが対バンしたライブにも来てくれましたよ」
MIKOLAS「(BE:FIRSTは)すごく才能もあるし、良いグループだと思います。J-POPやK-POPが注目されているように、音楽の世界に言葉の壁はない。だけど、アーティストは頑張らないといけないし、大きい夢を持つことは大事。自分も15年ほど活動をしてきて、最初に思い描いていた展開にはならなかったけど、どこかに着地して、そこを足掛かりに次の展開へとつながった。そして今回、SKY-HIとコラボすることができた。原曲がバスった時も日本のファンの方が応援してくれたし、来日した時にファンイベントもできたので、いずれ日本でライブもしてみたいです」
SKY-HI「いつか、チェコにも行ってみたいね」
□MIKOLAS(ミコラス) 1995年10月4日、チェコ・プラハ生まれ。シンガー・ソングライター、プロデューサー。2018年、『Lie to Me』のヒットでチェコ代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場し、6位入賞。Spotifyで世界トップ50に入るなど、国際的に注目されている。
□SKY-HI(スカイハイ) 本名・日高光啓。1986年12月12日、千葉・市川市生まれ。2005年、AAAのメンバーとしてデビューし、同時期にSKY-HIとしてソロ活動を開始。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーと幅広く活動。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEOに就任。ボーイズグループのBE:FIRST、MAZZELらをプロデュース。
※日高光啓の「高」の正式表記ははしごだか