キャリア18年の女子レスラーが最前線で闘い続けられるワケ「他人と一緒のことをやってもしょうがない」
最近はさまざまな角度から女子プロレスが話題になる機会が増え、局地的ながらも人気が倍増したように見える。理由は多岐に渡るが、1つには新旧織り交ぜながら、色とりどりの個性豊かなキャラの選手たちがいること。これも大きい。その中に昨今、その存在感を示し始めた女子プロレスラーに野崎渚がいる。年末にはSareeeの持つ、シードリング王座への挑戦が決定している野崎を直撃した。
キャッチフレーズは“Angel of Death”
最近はさまざまな角度から女子プロレスが話題になる機会が増え、局地的ながらも人気が倍増したように見える。理由は多岐に渡るが、1つには新旧織り交ぜながら、色とりどりの個性豊かなキャラの選手たちがいること。これも大きい。その中に昨今、その存在感を示し始めた女子プロレスラーに野崎渚がいる。年末にはSareeeの持つ、シードリング王座への挑戦が決定している野崎を直撃した。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「誰ですかね? みんな頭おかしいですからね。みんなヤバかったですね」
キャリア18年を数える女子プロレスラー・野崎渚は、フリーとして令和女子プロレスを縦横無尽に駆け巡っている。付けられたキャッチフレーズは“Angel of Death”。直訳すると「死の天使」だが、このフレーズを背負えるのはかなりの修羅場をくぐってきた証拠。そこで「一番狂っているというか、頭がイカれていたのは?」と質問すると、返ってきたのが「みんな頭おかしい」だった。
勝手ながらこういう話を聞くと、自然と笑みがこぼれてしまう。リングに上がる資格を持つ者はこうでなくてはいけない。もちろん、リング下で法を犯す行動をとられては迷惑千万だが、リング上はデスクワークとは無縁と思えるくらいの無法者や常識知らず、頭のおかしなヤツらの集う場所であってほしい。路上でやったら警察沙汰でも、リング上なら許される。それが非日常の「プロレス」という世界のはずだから。
そんなところで野崎の話に戻ると、野崎が信条としているのは「強くカッコよく美しく」。だからなのか野崎にはビジュアル的にも先鋭的なものが感じられる。
また、決して不器用には思えないのに、あえて技の数を制限した古風な試合スタイルを貫いている。
「それこそプロレスを初めてすぐくらいは、練習で三角跳びとかやって、できてはいて、飛んだりとかしてたんですけど、プロレスをはじめて気づいたのが、意外と身長がデカいほう(※167センチ)。だからクルクル回るよりもとか。いろいろ削って削って今みたいな。怪我も多かったので、怪我してできなくなった技もありますけど、気づいたら今のスタイルが確立された感じです。だから、やれと言われればやります」(野崎)
実際、観客への伝わりやすさを考えれば、圧倒的に技の数は少ないほうが伝導率は高くなる。
また、各団体問わず、最近はどこも試合後のインタビュースペースを用意しているが、とくにマリーゴールドでの野崎は、なぜかそこにある椅子を使わない。立ったまま、もしくは地べたに腰を下ろして話をする。そんなヘソ曲がりさ加減が野崎の魅力でもある。いや、どの程度かはともかく、ある程度はヘソが曲がっていないと、路上でやったら警察沙汰なことをリング上だからといってできるはずがない。仮の話、できたとしても生き残っていくなんて到底できるわけがない。
「ホントそうだと思います。へそ曲がり、へへへ。確かに。何か人と違うことができる子。人と同じじゃ嫌だと思っている子じゃないと無理ですね」(野崎)
「今は娯楽が多いからこそ、闘っているだけじゃなくてもアリはアリ」(野崎)
さて、野崎はSareeeの持つSEAdLINNNG(シードリング)シングル王座に挑戦することが発表されている(12月27日、後楽園ホール)。これに関して野崎は、「そもそも私はラスエゴ(※シードリング内の無法者集団)ってユニットに入っていて」という大前提があってSareeeへの挑戦を表明したと話す。
「(8月にシードリングのエースだった)中島安里紗が引退して、1個(大きな穴が)空いているわけじゃないですか。これからシードはどうするんだってなった時に、ラスエゴは最強でありたいって思っていて。その中で1つのきっかけとしてラスエゴにベルトがほしいってSareeeに挑戦しているので。ラスエゴはラスエゴの正義を持って、Sareeeを徹底的に潰そうと思っていますね」(野崎)
一方、Sareeeは野崎の挑戦を受けるに際し、「セコンドをつけるな」と要求。Sareeeとしてはタイトル戦の最中に、ラスエゴの横槍が入ることを懸念してのものだが、これには野崎も「ふざけんじゃねえ。何を言っちゃってるんだ、チャンピオン!」と語り、王者は王者らしくデンと構えていろ、との見解を示す。
振り返るとSareeeは、昨年3月、WWE(NXT)との契約を円満に満了し、日本で久々の会見を実施した際、「キラキラしてかわいいとかキレイもいいですよ。でもプロレスなので“闘い”でなければ嘘はバレてしまう」と発言。
令和女子プロレス界に物議を醸したが、これに関して野崎は、「プロレスラーが他人と一緒のことをやってもしょうがない。だからそれが個性なのであれば、かわいいだけだろうが、かわいくて強い、かわいくて弱いもアリ。みんながみんなかわいいだけを求めてとかやっているんだったら違うんじゃないと思いますね」と語る。
野崎的には、そういう選手がいても「他人は他人」といった雰囲気で、そこまで気に留めることはない様子だった。
「いても別に(構わない)。その子がプロレス以外のことで注目されて、プロレスやっているんだって注目されて、女子プロレスを知るきっかけになったりとか。いろいろあると思うので。今は娯楽が多いからこそ、闘っているだけじゃなくてもアリはアリなんじゃないかと私は思います。でも、プロレスができていなかったら、成立していなかったら、プロレスってこんなもんなんだで終わっちゃうから、ただかわいいだけじゃなくて、最低限のプロレスもちゃんとできるほうがいいとは思いますけど」(野崎)
取扱注意の“大怪獣”ボジラ操縦法
このコメントからも分かる通り、野崎の考え方には柔軟性がある。そのスタンスにある野崎の姿勢は、マリーゴールドを暴れ回る、取扱注意の“大怪獣”ボジラの扱いのうまさにも現れている。
これに関して野崎は、「ボジラ自身がたぶん私と組むことを楽しんでくれているからだと思っています。他の人と組んだ試合を見ているかっていうと見てないんですけど、SNSに書かれたものを見ると、ボジラってこんなに笑うんだとか、野崎渚と組んでいる時のボジラは楽しそうとか。そう書かれているのを見ると、楽しいんだなって」と明かす。
ちなみに、ボジラの操縦法に関するツボはあるのか。そう問うと、野崎は「基本的にないです」と話しながら、「ボジラはデカくて強い。だったら、それを生かしたチームってなったら、別に私も弱いわけではないので、お互いが強く行けば自然と強くなれる。特に連携技があるかといったらないですし。たぶんその考え方が自然と噛み合っているから楽しいんだと思いますね」と話した。
野崎は言う。「(ボジラは)選手の中で飛び出たパワーと身長の高さを生かしている。デカくても、どっか身長の高さを生かしていない選手っているじゃないですか。この人、身長は高いのにデカく見えないなあっていうのがボジラにはまったくない。たぶん、それは彼女が考えて動いているからだと思います。だからプロレスに対して、いろいろ考えているんだろうなっていうのは感じますね」(野崎)
なお、ひと通りの取材が終わって野崎と雑談中、野崎が自身のX(11月1日)に、タイムリープがテーマになっている人気漫画『東京卍リベンジャーズ』の展示会に出向いたことに触れた際のこと。野崎に対し、「過去に戻れるとしたらいつがいいか」という話を振ってみた。
すると野崎は「戻りたくないですね。嫌だ……」と即答。この発言は、それだけ嫌なことだらけだったのか、逆に明日だけを見ていたい、という意味なのか。それは定かではないが、「戻りたいと思わないですね。人生変えたくないですね。しっかり考えたら(戻りたい瞬間が)あるかもしれないけど、今パッと思い浮かぶ時はないですね」と答えた。「人生変えたくない」との野崎に、異様なたくましさを感じた。
昨今、Sareeeの裏投げによって、改めてプロレス技の危険度がクローズアップされたことに関しては、「危険な裏投げだとは思いますけど、私は食らっといてよかった」とコメント。確かに、どの程度のダメージが残るのかを知るには、食らってみるのが手っ取り早い。そう発想を前向きに転換できるのも、実は野崎の強みの1つと見た。
要は、すべてをプラスと捉えられる生き方こそ、次への明るい未来が開けてくる。あくまで前向きに物事を考える姿勢。これは年末のSareee戦はもちろん、今後の野崎の動向には、最大限注視する必要がありそうだ。