佐々木崇の異色の歩み「一度きりの人生」 新卒でテーマパークダンサー→ミュージカル俳優に転身
俳優の佐々木崇(38)が座長を務めるホラーミュージカル『キッチュ&ホラー・イン・モータース』が10月31日から東京・浅草九劇で上演される。ミュージカル俳優になることに憧れ、テーマパークダンサーを経てたどりついた現在地。ここまでの道のりを聞いた。
小6の頃と同じ場所で石丸幹二と再共演「本当に人生って面白い」
俳優の佐々木崇(38)が座長を務めるホラーミュージカル『キッチュ&ホラー・イン・モータース』が10月31日から東京・浅草九劇で上演される。ミュージカル俳優になることに憧れ、テーマパークダンサーを経てたどりついた現在地。ここまでの道のりを聞いた。(取材・文=中村彰洋)
佐々木の役者人生は、早稲田大在学時にミュージカルサークル「Seiren Musical Project」でスタートした。当時は立ち上げ2年目のサークルだったが、そこでの経験が人生を大きく変えた。
「1年生の4月に、歌うことも体を動かすことも好きだったので新入生歓迎の体験に参加しました。初めてダンスを経験して、そのままサークルに入って活動していく中で、みんなで一つの作品を作ったり、人前で何かをすることに楽しさを感じたことが始まりです。見るよりもやることが楽しいというところからのスタートでした。サークル活動を続ける中で、プロの演技も見るために『エリザベート』という作品を観劇した時、『なんだこの作品は』と衝撃を受けたんです。『いつかこの舞台に立ちたい』と思い、プロを目指すようになりました」
見るよりも演じることが先行する珍しいケースだったが、小学6年生の頃の印象的だったエピソードも明かす。
「当時『はなまるマーケット』という番組で、夏休みに小学生が有名人にインタビューをするという企画がありました。母親が応募して、たまたま僕が選ばれたんです。TBS赤坂ACTシアターで劇団四季の『美女と野獣』を観劇した後に、石丸幹二さんにインタビューをさせてもらいました。それが人生初の舞台鑑賞でしたね。
数年たって、『スカーレット・ピンパーネル』という作品で石丸(幹二)さんと、奇しくもACTシアターで共演させてもらったんです。石丸さんに『こんなに大きくなりました』とお伝えすることができました。感動しましたし、本当に人生って面白いなって思いましたね」
ミュージカルへの憧れは持っていたものの、大学卒業後に選択した進路はテーマパークダンサーだった。「僕の中では歌が1番のめり込みやすかったので、まずはダンスに挑戦したい」という思いで選択した道だった。「でもいつかミュージカルはやりたいと思っていました」。
テーマパークダンサーは、週5で人前でのパフォーマンスをするため、毎日が本番だった。「その場の雰囲気みたいなものが体に染みついているので、そこは今も武器になっています。空いてる時間は自分のトレーニング時間にも使えましたし、いろいろなことを本番で試すこともできたので、とても貴重な経験でした」
掲げる目標は「生涯現役」
新卒で飛び込んだテーマパークダンサーの世界だったが、28歳のタイミングで俳優業への挑戦を決意した。「絶対にこのショーのあのポジションをやりたいという目標があって、それが決まった瞬間に今年で辞めようと決めました」。また、頭の中では将来のビジョンも思い描いていた。
「死ぬまで踊れるのであれば、ダンサーを続ける道もあったかもしれません。でも、そういうわけにもいきませんし、一度きりの人生です。歌うことも好きなので、踊りじゃない表現をやってみようと思いました」
そこから約10年。ミュージカルを主戦場にあまたの舞台を経験してきたが、「お芝居を、面白いと思えたのは最近なんです」と意外な言葉を口にする。
「お芝居って資格があるわけでもないですし、セリフを話していれば成立すると思われるかもしれないですが、実際は違います。お芝居をする上での知識だったり、アウトプットの仕方だったり、そういうノウハウが必要なんです。僕はそれは武器だと思っているのですが、それがようやくそろってきた感じがしています。歌も楽しくなってきたのは最近ですね。好きと得意って違うじゃないですか。ようやく自分の中でこれなのかなという感覚をつかみ始めたところです」
板の上で生の声を届けるのが舞台。「いい作品を作ることは大前提。お客さまがそれで喜んでくれるかは正直分かりません」と作品を作り上げるうえでのポリシーを語る。
「喜んでもらえる選択肢を選ぶことはありますが、演劇としてそればかりではダメだと考えています。『絶対に面白いから信じて!』と伝えられる確信を持つ必要があると思います。大学のサークルの頃から、大事にしてきた“3つのwin”があります。『お客さまが面白いと思う』『共演者が一緒にやっていて面白いと思う』『スタッフさんが一緒にやってよかったと思う』。この3つをそろえることを目標にして、日々臨んでいます」
今後の目標は、帝国劇場や日生劇場の大舞台の作品で、1曲ソロを歌うこと。「そこは絶対に経験したいです」と語気を強める。「お芝居は年齢によって演じる役も変化するので、一生楽しめると思っています。今後もいろんな人と関わりながら学んで成長していきたいです」。
掲げるのは「生涯現役」。「お話があれば、声の仕事や映像作品にも出てみたいです。こればかりはご縁だなと考えています」。形にこだわらずエンターテインメントというフィールドで笑顔を届け続ける。
□佐々木崇(ささき・たかし)1986年1月28日、東京都出身。早稲田大在学時はミュージカルサークル「Seiren Musical Project」に在籍。卒業後にテーマパークダンサーを6年経験。2014年から俳優として活動をスタートさせた。ミュージカル『エリザベート』(19年、22年)、ミュージカル『新テニスの王子様』シリーズや舞台『刀剣乱舞』など話題作に出演した。24年10月31日から上演のホラーミュージカル『キッチュ&ホラー・イン・モータース』では座長を務める。