【おむすび】避難所シーンにリアリティー NHKが取材で決めた被災者の気持ちと向き合う覚悟
俳優・橋本環奈が主人公・米田結を演じるNHK連続テレビ小説『おむすび』(月~土曜午前8時)では第5週から本格的に阪神・淡路大震災が描かれる。演出を担当する松木健祐氏が取材に応じ、震災を描くにあたり心掛けたことや当時の避難所の描写などにどう臨んだのか舞台裏を明かしてくれた。物語はギャル文化と出会った主人公が、やがて栄養士として“縁・人・未来”と大切なものを次々結んでいく平成青春グラフィティーだ。
28日からの第5週から本格的に描かれる阪神・淡路大震災
俳優・橋本環奈が主人公・米田結を演じるNHK連続テレビ小説『おむすび』(月~土曜午前8時)では第5週から本格的に阪神・淡路大震災が描かれる。演出を担当する松木健祐氏が取材に応じ、震災を描くにあたり心掛けたことや当時の避難所の描写などにどう臨んだのか舞台裏を明かしてくれた。物語はギャル文化と出会った主人公が、やがて栄養士として“縁・人・未来”と大切なものを次々結んでいく平成青春グラフィティーだ。
本格的に震災が描かれるにあたり、まず同席した制作統括・宇佐川隆史氏が「数えきれないほどの多くの人に取材し、多くの資料を読み込み、何度も議論を尽くした中で表現した」と語った。さらに、「このドラマをきっかけに神戸のこと、震災のこと、そして今、置かれている状況、身の回りのこと、人々に思いをはせる形になっていければ」と思いを口にした。
その後、松木氏が震災を描く際の心情や舞台裏などを語ってくれた。
「震災に遭った人の気持ちは被災者しか分かりません。最後まで分からないということに向き合い続ける覚悟をスタッフ、キャストと共有しました。震災後に生まれた主演の橋本さんが、震災のことを一生懸命に悩みながら語ろうとする姿が印象的でした」
撮影する際、松木氏はどんなことを最も心掛けたのだろうか。
「時間という視点ですね。取材して思ったのは、被災して次の日には前向きになった人もいれば、1週間後の人もいます。1か月後、1年後と時間を重ねるにつれて震災との向き合い方がそれぞれ変化していったのだと感じました。ドラマでは米田家が歩んできた9年という時間の流れをどう想像させるかということに重きを置き、撮影しました。もう一つ、これも取材で感じたことですが、家族であっても悲しみを共有することの難しさです。被災者100人いたら100人のエピソードがあり、それぞれ感じ方が全く違います。震災を扱うことに当初は戸惑いましたが、同じ家族でも悲しみを分かち合えないことが大きな気づきだったかもしれません。米田家にそれを体現してもらえるよう、根本さんを中心にみんなで話し合いました」
第21回では地震で家が揺れる映像の前に約7秒間、「このあと地震の描写があります」というテロップが流れる。
「第21回の準備していたのは2023年の夏頃でしたが、まさか24年1月にまた大きな地震があるとは思っていませんでした。能登半島地震で被災した人たちへの配慮が必要だと思いました」
避難所の映像はざわついた雰囲気など臨場感がにじむ
避難所の映像は日が暮れるとランプの灯りだけで人の顔が分からないほど暗いとか、廊下も人であふれ、ざわついた雰囲気など臨場感ある映像になっている。
「とにかく取材を重ねました。当時、避難所(学校)の管理をしていた先生や市役所の職員、地域のリーダーといった人たちに撮影現場に来てもらい、当時の状況をインタビューしました。『今、地震発生から3時間後です。3時間後の状況はどうでしたか。カーテンは開いていましたか、ストーブはどうでしたか、窓ガラスは、張り紙はどれくらい落ちていましたか』と、時系列を追って一つひとつ聞きました。一つの文献ですべてが分かることではありませんので、そういった方々の多大な協力があり撮影に臨むことができました」
当時、実際に避難所にいた人たちの話に驚き、作品に取り入れたこともあるだろうか。
「実は地震発生から2、3時間後くらいの実際の映像はすごく少ないんです。これまでのドラマも震災からしばらく時間が経過した後を描いた作品が多いです。そんな中、取材で聞いた話ですが、当時の避難所の被災者の方々はちょっと興奮気味というか、おのおのが思い思いにしゃべりまくっていたそうです。私はショックで暗い顔でうなだれているとか泣いているとか、悲鳴という光景を想像していましたが、ある種そう状態というのが意外でした。そのあたりは少し反映できているかなと思います。あと印象的だったのは配給がなかなか来ないこと。1日たっても翌朝はバナナ1本とか、地震当日は水さえ飲んでいないとか。1日、2日目の配給が本当に少なかったという話が意外でした」
一度取材が終わった後、松木氏はまだ印象的なエピソードがあるとして紹介してくれた。
「地震直後から皆さん、避難所のことは自分たちの力で何とかするんだという思いが強く、その思いから発揮された知恵と工夫にすごく感動しました。避難所でのルールを作ったり、食料を自分たちで集めたり、支援が来る前に被災者自ら動いていました。震災4、5日目には名簿を作り、段ボールを使って居場所を区分けするとか自分たちでやっていました。そこはドラマでもしっかり描きたいと思いました」