NHKの旧ジャニ起用再開に疑問…会長見解「予想とは異なる展開」とSMILE-UP.補償本部長の心ない対応を考えて
NHKは今月16日に定例会長会見を行い、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)のマネジメント業務を引き継いだSTARTO ENTERTAINMENT所属タレントの新規起用を再開すると発表し、『NHK紅白歌合戦』出演オファーの可能性も示唆された。一方で、その4日後に放送のNHKスペシャルでは、SMILE-UP.社の補償本部長が被害者遺族に「なんで東山(社長)が(謝罪を)しなきゃいけないのか、僕、分からないんですよ」と発言した映像を流し、本部長に対して批判の声が上がっている。では、なぜNHKは今、起用再開を決めたのか。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、NHKが公表した会長会見の議事録を分析し、「ある発言」に注目した。
元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘
NHKは今月16日に定例会長会見を行い、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)のマネジメント業務を引き継いだSTARTO ENTERTAINMENT所属タレントの新規起用を再開すると発表し、『NHK紅白歌合戦』出演オファーの可能性も示唆された。一方で、その4日後に放送のNHKスペシャルでは、SMILE-UP.社の補償本部長が被害者遺族に「なんで東山(社長)が(謝罪を)しなきゃいけないのか、僕、分からないんですよ」と発言した映像を流し、本部長に対して批判の声が上がっている。では、なぜNHKは今、起用再開を決めたのか。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、NHKが公表した会長会見の議事録を分析し、「ある発言」に注目した。
16日のNHK定例会長会見で一つの言葉が異彩を放っていた。旧ジャニーズタレント起用を1年ぶりに再開する経緯を振り返り、稲葉延雄会長がこう述べたのだ。
「私の予想とは、異なる展開だった」
この発言に、私はNHKの「本心」を見た気がした。
性加害問題を受けてNHKがSTARTO社所属タレントの新規起用を見送ると発表したのは、昨年9月だった。見送りは「被害者への補償や再発防止への取り組みが着実に実施されていることが確認されるまで続ける」とした。
あれから約1年がたって起用を再開する理由について、NHKは被害者への補償、再発防止の取り組み、旧ジャニーズ事務所とSTARTO社の「経営の分離」が着実に進んでいることを挙げた。
しかし、起用再開が「なぜ、今なのか」という肝心な点については、はっきりした説明はなかった。確かに補償は徐々に進んでいるが、全員の補償が済んだわけではないし、再発防止策も具体的にどんな策をNHKが評価したのか、不明だ。さらに「経営の分離」については、STARTO社が旧ジャニーズ事務所と「分離した」と言えるためには、両社の「オーナー」つまり「株主」が別々である必要があるが、STARTO社の株主が誰なのかは、いまだに謎だ。本来なら「旧ジャニーズ側がこういう目標を達成したので、起用を再開しました」と理由をはっきり説明しなくてはならないはず。だが、NHKは旧ジャニーズ側の取り組みが、「着実に進んでいる」つまり「まだ途中の段階」なのに、起用再開に踏み切った。だったら、なぜ「今」なのか。
もちろん、おおみそかの「紅白」が近づき、「旧ジャニーズタレントを出演させたい時期だから」という理由もあるのだろう。だが、もう一つ、NHK会長会見の議事録で気付いたことがある。それは「旧ジャニーズの現在の状況が、1年前にNHKが予想したのと違う」という事実だ。
稲葉会長は会見で、旧ジャニーズ側への対応にタレント個人が巻き込まれることは「あまり好ましいことではない」とした上で、こう述べた。
「そういう方々には、新会社から出て独立したり、別の事務所に行ったりすれば、NHKと契約をすることができるということを明らかにして、不当にタレントの側に不利益なことがないように配慮したつもりです」
つまり、NHKとしては当初、旧ジャニーズ側に厳しく対応すれば、有力タレントが次々と「独立したり、別の事務所に行く」と想定していたようなのだ。だが、それから1年が過ぎた現在について、稲葉会長はこう語った。
「実際そういう(独立などした)タレントも若干名おられましたが、大方の方々は残留されるということで、私の予想とは異なる展開だったと感じています」
結局、タレントの独立は一部にとどまり、人気のグループのSnow ManやSixTONESらはSTARTO社に残ったまま事態が鎮静化しようとしている。こうした「予想とは異なる展開」になったため、NHKはこれまでの方針を転換してSTARTO社との付き合いを再開することにしたのか。NHK会長会見の言葉からはそんな思惑が感じられた。
性被害者の痛みは風化しない
だが、果たしてそれでいいのか。「タレント個人が旧ジャニーズ事務所の影響の外に移ったら出演依頼する」という考えは、実はとても分かりやすかった。しかし、1年たっても移籍者があまり出なかったので「じゃあ、仕方ない」と根負けして起用を再開するのなら、そこに大義名分はない。
くしくも会見の4日後、NHKスペシャルで旧ジャニーズ問題のドキュメンタリーが放送され、SMILE-UP.社の補償本部長が性被害者の遺族に「誰が何を謝るんだというのが、ちょっと今、分からなくて。本人たちが死んじゃってるんで」などと心ない返答をする様子が流された。これでも旧ジャニーズ問題の被害救済は「着実に進んでいる」と言えるのか。
1年たとうと2年たとうと性被害者の痛みは風化しないのに、「1年たったから、そろそろ」という理由で旧ジャニーズへの出演依頼を再開するのなら、国民から受信料を集める公共放送として説明責任を果しているとは言えない。一歩一歩、丁寧に理由を説明しないければ、この問題は次には進めないのではないだろうか。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。