「あそこにもいる」岸田前首相の演説、現場は厳戒態勢 ビル屋上にもスーツの警護員

見渡す限りの警察官、常に感じる鋭い視線……。現場は静かな緊張感が張り詰めた。衆院選(27日投開票)東京8区に自民党から出馬している女性新人候補の街頭演説が20日、東京・杉並区のJR阿佐ヶ谷駅前で行われ、岸田文雄前首相が応援演説に駆け付けた。近年、政治家要人を狙った暴力事件が相次ぎ、前日19日には自民党本部と首相官邸が襲撃される事件が起きたばかり。“最大レベル”の警戒が敷かれ、演説を聞きに来た人からは、不安感をぬぐえない現状に対する本音が漏れた。

JR阿佐ヶ谷駅前で街頭演説を行った岸田文雄前首相【写真:ENCOUNT編集部】
JR阿佐ヶ谷駅前で街頭演説を行った岸田文雄前首相【写真:ENCOUNT編集部】

“政治とカネ”問題「前総裁として、心からお詫び申し上げます」 謝罪シーンも

 見渡す限りの警察官、常に感じる鋭い視線……。現場は静かな緊張感が張り詰めた。衆院選(27日投開票)東京8区に自民党から出馬している女性新人候補の街頭演説が20日、東京・杉並区のJR阿佐ヶ谷駅前で行われ、岸田文雄前首相が応援演説に駆け付けた。近年、政治家要人を狙った暴力事件が相次ぎ、前日19日には自民党本部と首相官邸が襲撃される事件が起きたばかり。“最大レベル”の警戒が敷かれ、演説を聞きに来た人からは、不安感をぬぐえない現状に対する本音が漏れた。

 今回の選挙の“ラストサンデー”となった同日午前10時過ぎ。演説開始の約1時間30分前から、警察官たちが慌ただしく会場設営の準備を行っていた。駅周辺には、大量の警察車両が。青と白のカラーリングが特徴的な大型の警備車両に加えて、覆面パトカーなども止まっていた。

 駅前ロータリーは、路線バス運行を除いて“完全閉鎖”。来場者は報道陣も含めて、手荷物チェックに加えて、金属探知機などの検査が実施された。

 報道スペースから駅方向を見ると、制服の警察官だけでも30人以上。「警視庁」の腕章を付けた警護担当者や、眼光鋭いスーツ姿のSPが至るところに配置されていた。「あっ、あそこにもいるよ」。報道陣のカメラマンがビル屋上にレンズを向ける。演説会場の前後に位置する複数のビルには、スーツの警護員の姿が。双眼鏡かカメラのようなものを用いて、会場を監視していた。終始、“誰かに見られている”感覚だった。

 この日、街頭演説を行ったのは、自民新人の門寛子候補。経済産業省の元官僚で、2児の母。岸田内閣の官邸スタッフとして、ビジネスと人権問題を担当していたという。

 門候補が会場入りし、続いて岸田氏も到着。岸田氏は地元政治関係者らと笑顔であいさつを交わす。聴衆からは「岸田総理が来てるの?」「リアル岸田だ」と、率直な声が聞かれた。

門候補は第一声からガラガラ声

 少し意外だったのは、演説会場の壇上の設計だ。オープンな屋外の場所だが、選挙カーの上ではなく、高いステージが組まれているわけでもない。数十センチの段が黒い布で覆われただけのシンプルな造りになっていた。警護の観点からの措置だったのかもしれない。

 門候補は第一声からガラガラ声。「新人なのでペース配分を間違えました」。この日、演説の合間に区民センターで休憩をして外に出たところ、新聞社スタッフから声をかけられたという。「『読売新聞の出口調査です。どなたに入れられましたか?』を聞かれまして……」と自虐ネタを繰り出した。選挙戦では、一連の“政治とカネ”問題による自民党への逆風を感じていること、自身の知名度にも課題を抱えていることについても明かした。さらに、官僚時代に自民党と接した経験から、「20年間、役人をやってきて、なんだこりゃと思ったことは1度や2度ではありません」とぶっちゃけ。自らが政治改革を推し進める覚悟をアピールした。

 演説中に感情があらわになる場面が。門候補の声が震え始めたのだ。「5歳の子どもが、『ママ、僕も頑張るから、ママも頑張って受かってね』と声をかけてくれました」。子どもたちからエールを受けたエピソードを披露し、涙であふれた。

 いよいよ岸田氏にマイクが渡る。何かの無線指令が飛んだのか、制服警察官や警護担当者はイヤホンに耳を傾け、緊張感が走る。

 スピーチで熱弁をふるう岸田氏の両脇は、防弾バッグを携えた屈強なSPが、鬼の形相で目を光らせている。後方では複数人のSPが背を向けて警戒に当たった。

 岸田氏は“政治とカネ”問題に言及し、「前総裁として、心からお詫び申し上げます」と改めて謝罪。自身が進めた経済政策、子育て支援、外交・安保について力説した。経済を語る場面では、聴衆から拍手が沸き起こった。

 演説が終わると、岸田氏と門候補は聴衆の前に向かう。写真撮影や握手をしながら練り歩いた。岸田氏は若い男性と“自撮り2ショット”に笑顔で応じた。ミニバンに乗り込んで会場を後にする際も、窓を開けて手を振った。

 近年、要人を狙った事件が頻発。2022年に安倍晋三元首相が銃撃され、命を落とした。23年には岸田氏の演説会場に爆発物が投げ込まれるなど、警備・警護の重要性はさらに増している。世界的にも、米国でのドナルド・トランプ前大統領銃撃事件が記憶に新しい。

 小学生の子どもを連れて演説を聞いていた50代母親の有権者は、今回の厳重な警備体制について、「これぐらいやらないと、子どもを連れて演説を聞きに行くこともできません」と真剣な目つきで語った。「もし流れ弾が当たったら、聞きに来ている人たちを無差別に狙う事件が起きたらと考えると、怖くなります。こういった形の相応の警備は必要だと思います」と、複雑な心境を口にした。

 東京8区はほかに、立憲民主党の吉田晴美氏、参政党の大森紀明氏、日本維新の会の南北ちとせ氏が出馬している。

次のページへ (2/2) 【写真】SPの“鬼の形相”…物々しい現場の様子
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