『虎に翼』で強烈インパクト、のどかの婚約者役俳優が明かす舞台裏 大声で「許せない」と叫んだ“義父”

俳優・伊藤沙莉が主演を務めたNHK連続テレビ小説『虎に翼』で、星のどか(尾碕真花)の婚約者・吉川誠也を演じた俳優・松澤匠。誠也はサイズの合わない大きなスーツに髪を肩の下まで伸ばした個性的な風貌で物語の終盤に登場。のどかの父・星航一(岡田将生)だけでなく視聴者をも驚かせ、Xでもトレンド入りするほど話題になった。演じた松澤の思いや素顔、舞台裏を取材した。

インタビューで『虎に翼』の思い出を語る俳優・松澤匠【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューで『虎に翼』の思い出を語る俳優・松澤匠【写真:ENCOUNT編集部】

俳優・松澤匠、個性的な風貌の役を演じXでトレンド入り

 俳優・伊藤沙莉が主演を務めたNHK連続テレビ小説『虎に翼』で、星のどか(尾碕真花)の婚約者・吉川誠也を演じた俳優・松澤匠。誠也はサイズの合わない大きなスーツに髪を肩の下まで伸ばした個性的な風貌で物語の終盤に登場。のどかの父・星航一(岡田将生)だけでなく視聴者をも驚かせ、Xでもトレンド入りするほど話題になった。演じた松澤の思いや素顔、舞台裏を取材した。(取材・文=中野由喜)

 まず出演のオファーがあった際の心境を聞いた。

「一人の視聴者として『虎に翼』をすごく面白くて素晴らしい作品だと思って見ていました。オファーがあった際には、義理ですけど主人公の寅子さん(伊藤沙莉)と航一さん(岡田将生)の家族になれるのはすごくうれしかったですしワクワクしました」

 朝ドラは昨年の『らんまん』に続いて2回目の出演。大河ドラマも3作に出演経験があるが、今回、演じた芸術家を目指す誠也は視聴者に強烈なインパクトを与えた。登場した際にはSNSで「パンチ効いてる」「クセ強」といったコメントが飛び交った。そんな強烈なキャラを演じると聞いた際の思いが気になる。

「事前にメールで長髪のカツラの可能性があると聞いていましたので、実際に衣装合わせでカツラをつけた時の感想は『なるほどな』でしたが、『なんだ、これは』という驚きが込められた『なるほどな』です(笑)。僕が衣装を着て監督さんの前に出るたびにスタッフの皆さんは大爆笑して盛り上がっていました。私の姿に合わせて昭和歌謡を歌っているスタッフさんも。スタッフさんが楽しむことに一役買った感じです。遊んでいただきました(笑)」

 家族や友人の反応はどうだったのだろう。

「みんな朝ドラ出演と風貌の両方にビックリしたと言っていました(笑)」

 松澤は現在39歳。若い頃は髪を伸ばしていたこともあったという。

「20代の頃、60年代、70年代のカルチャーが好きで鎖骨ぐらいまで髪を伸ばしていたこともありました」

 役作りにその年代のカルチャーが関係していたのか。

「いえ。役作りについては、あまり足し算をしてしまうと、見ている視聴者の方々が朝から胃もたれを起こしてしまうので、鏡に映った自分からできるだけ引き算をするように意識しました。着慣れない、しかも大きいスーツという設定の衣装を着た時、イメージしたのはお金もなく食べていけない芸術家志望の人。ただ志だけは高い。出演したのは航一さんに結婚の挨拶をしに行くシーンでしたので、真剣に結婚のごあいさつをする、という思いで臨みました」

星のどかの婚約者・吉川誠也を演じる松澤匠【写真:(C)NHK】
星のどかの婚約者・吉川誠也を演じる松澤匠【写真:(C)NHK】

 ここで義理の父となる航一を演じる岡田将生の面白いエピソードを紹介してくれた。

「誠也とのどかの結婚写真を撮った後に行われたリハーサルで、岡田さんが写真を見て突然、大声で『許せない』と叫び、笑っていました。自分の大事な娘の結婚相手がこれか、という感じで。もちろん、そんなシーンはないですが、岡田さんがお父さんになりきって叫んだので、演じる上でいいヒントになりました」

 誠也の風貌について伊藤の反応はどうだったのか。

「面白がってくださり、演じる寅子と同様に受け入れてくれました。『この作品で一番キャラが濃いかも』と言われました。僕は途中から撮影に参加したのですが、座長としてちゃんと受け入れてくれる体制を作ってくれて、すごく居心地のいい空間でした」

 芝居の世界で生きる松澤にとって芸術家を志す誠也と重なる部分もあるのだろうか。

「結構、共通点が多いです。いい方向に思い込み、それに全力でアクセルを踏む誠也には憧れすらあります。夢をみることが大変な時代に僕も夢をみていられるのは幸せなこと。長髪に憧れていた時期があったことや誠也ほどではありませんがいい方向への思い込みも多少あります。言いたいことはハッキリ言うべきだと考える部分も似ています」

 俳優デビューして17年になる。きっかけが気になる。

「友だちと家で02年のドラマ『私立探偵 濱マイク』を見ていて主演の永瀬正敏さんが本当にカッコよくて、友人と俳優をやってみる?と話したんです。思い込みなんでしょうね。それからいろんな人に俳優をやりたいと話し、20歳ぐらいの時に俳優の道に進みました。最初の頃、出番は多くなく、11年に劇団ポツドールの舞台『おしまいのとき』に出演した際、いろんな方に見ていただき知ってもらって今がある感じです」

 俳優の仕事の魅力をどう感じているのか。

「人が書いてくれたセリフで、用意してもらった環境で役を通じて相手とうまくコミュニケーションが取れた時は楽しいなと思います。それがお客さんに伝わって今回の誠也のように反響があるのもうれしいこと。やっていて良かったなと思います」

 まだ俳優として主役の経験はない。今後の目標を聞いてみた。

「僕も来年40歳なので、どしっとした存在感のある俳優になれたらと思っています。少し前に尾野真千子さんと共演した際、芝居でも芝居以外でも、きちっと人を受け入れ、与えるということをしっかりやっていたので、俳優としても人としてもカッコいいと思いました。僕もそんな存在感のある俳優になれたらと思います」

 誠也は物語の終盤、のどかによってニューヨークで個展を開催するほど“出世”したことが紹介された。志を貫いた形。松澤も笑顔で一言「良かったです」と喜んだ。松澤は終始、穏やかな口調で話し、謙虚な印象。笑顔もさわやか。だが性格を尋ねると誠也に近いと感じる言葉が…。芯の強さ、志を持って生きる姿勢が垣間見えた。

「周りから『穏やかそうに見えるけど、たまに毒があるよね』と言われます。思ったこと、自分の考えをハッキリ言うからでしょうか」

□松澤匠(まつざわ・たくみ)1985年5月13日埼玉県生まれ。ドラマは2017年に『おんな城主 直虎』(NHK)、19年『坂の途中の家』(WOWOW)、『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)、21年『コールドケース3』(WOWOW)、『青天を衝け』(NHK)、『それでも愛を誓いますか?』(朝日放送)、22年『ヒル』(WOWOW)、『タクシー飯店』(テレビ東京)、24年『高速を降りたら』(NHK)に出演。映画は15年に『味園ユニバース』、16年『オーバーフェンス』、17年『おじいちゃん、死んじゃったって。』、19年『長いお別れ』、20年『浅田家!』、21年『さんかく窓の外側は夜』、『すばらしき世界』、『ずっと独身でいるつもり?』など。その他舞台でも活躍。趣味はサッカー、水泳、歌。

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