26歳・葵わかな、ハードだった10代を回顧「気を張って肩の力が抜けず」 20代で「メリハリをつけられ」

俳優・葵わかなが、今月16日に開幕した舞台『セツアンの善人』(白井晃演出、東京・世田谷パブリックシアター)で、初の一人二役に挑戦している。原作は、幸福や人の善悪を問う寓意劇(ぐういげき)。稽古を目前に控えた8月某日、人のいい貧しいヒロインと、冷酷な男を演じていく抱負や、舞台出演ならではのやりがいを語った。

『セツアンの善人』で正反対の男女を演じる葵わかな【写真:舛元清香】
『セツアンの善人』で正反対の男女を演じる葵わかな【写真:舛元清香】

舞台『セツアンの善人』で初の一人二役

 俳優・葵わかなが、今月16日に開幕した舞台『セツアンの善人』(白井晃演出、東京・世田谷パブリックシアター)で、初の一人二役に挑戦している。原作は、幸福や人の善悪を問う寓意劇(ぐういげき)。稽古を目前に控えた8月某日、人のいい貧しいヒロインと、冷酷な男を演じていく抱負や、舞台出演ならではのやりがいを語った(取材・文=大宮高史)。

『セツアンの善人』の舞台はアジアのとある都市の貧民窟。葵が扮するのは貧しい娼婦のシェン・テだ。この街に善人を探して3人の神がやって来て、優しいシェン・テは彼らを泊めてやり、お礼に大金をもらう。ところが、そのお金を元手に商売を始めたシェン・テを巡って、騒動が起きて行く。葵は初めて作品に触れた時のことを振り返りつつ、作品の雰囲気、内容を説明した。

「ポスター撮影で宣伝用の衣装に袖を通した時に、『無国籍なファッションショー?』とも思いました。アジアチックなのに古さも近未来な要素も感じて、いつの時代のどこの国のお話なのか、想像してみると面白いですね。お金や幸福など、答えの出ない難しいことがテーマなのですが、お芝居自体はポップで明るい音楽劇です。重苦しさもなくて、神様を演じる俳優の皆さん(ラサール石井、小宮孝泰、松澤一之)も面白く、いい意味で神様らしくなくて。稽古している私たちも、気構えずに人生を考えることができます。歌もあり、どんなメロディーの曲を歌えるのかも楽しみにしています」

 葵が演じるもう一つの役が、シェン・テが架空に作り出した従兄のシュイ・タ。お人よしで他人にNOと言えないシェン・テが、シュイ・タに変装して弁舌巧みにトラブルを乗り切ろうとする。

「男性の役も、2人の人物を演じるのも初めてなので挑戦づくしです。しかも、背の高い男性という設定なので、聞いた時は『小柄な私がどうすればできるんだろう』とドキドキしました」

 本作はもともと、ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトが書き下ろして1943年にスイスで初演された。世界各国で上演されてきた寓意劇が、白井晃氏の上演台本、演出で葵の個性も生かした劇になる。

「舞台俳優として、1度は白井さんと作品を作りたいと思っていました。演者の新しい一面を開拓してくれる人という印象があるので、私がどんな風に映っているかも楽しみです。今作では、私のことを想像しながらシェン・テの人物像をアレンジし、セリフの箇所も歌に新たに書き換えたお聞きしているので、とてもありがたく思います」

 舞台出演では「先入観を持ちすぎないようにしています」と言い、役作りのルーティーンを変えていることを明かした。

「あれこれ想像して稽古に入ると、たいていイメージとのギャップが起きて、考えてきたことが振り出しに戻ってしまうんです。1か月の稽古を経ただけでも全く違うお芝居ができ上がります。何も考えないで現場に入るのって個人的には怖さもありますが、変化を楽しみたいです」

役作りへの期待を口にした【写真:舛元清香】
役作りへの期待を口にした【写真:舛元清香】

意外な二面性「面倒くさがりで真面目」

 2019年のミュージカル『ロミオ&ジュリエット』以来7作目の舞台出演だが、まだまだ分からないことが多いので」と謙虚でいる。

「舞台の良さって、長い稽古期間に想像もしていなかったお芝居になっていくことや、知らなかった私の一面に出会えることです。自分の考えに凝り固まっていると、そういった新しい発見もありません。稽古始まりは毎回自信がなくてドキドキしているのですが、その場で考えたこと、感じたことをベースに役を作っていった方が得られるものが多いです」

 貧しいが人柄のよいシェン・テが、冷徹なビジネスマンのシュイ・タに変装する。それに絡め、葵に「自分の“二面性”を実感したことは」と問うと「ありますね」と即答した。

「面倒くさがりでもあり、真面目でもあり(笑)。以前はもっと生真面目だったかも。10代で芸能活動を始めて、学校にも通っていたのでハードなスケジュールでしたし、精神的にも気を張っていて肩の力が抜けませんでした。26歳になりましたが、20代に入ってからは少しずつ肩の力を抜いてメリハリをつけられるようになってきたと思います」

 人は貧しくても幸福になれるか、善人でい続けることができるか…。“シェン・テの物語”は普遍的なテーマを問うてもいるが、葵自身はどう考えているだろうか。

「シェン・テのような優しすぎる人って、他人にとっては都合がいい人でしかなくて、本当に人のためになることをしてくれる人ではないなと思います。人が良くても彼女のように損ばかりしていたら本末転倒といえるのかもしれません。シュイ・タは合理的で冷たそうですが、“ダメなものはダメ”とやってはいけないことをきっぱり指摘してくれる人でもあり、100%嫌な人でもありませんよね。どちらの性格にも共感できます」

 インタビュー中、葵は何度も「現場に入ったら、作品に今と違うイメージが生まれそうです」と役作りへの期待を口にした。

「大いに感動をしたり、人生観が揺さぶられるような体験をした時って、たいていフィクション、エンタメに触れた時です。実生活の中ではなくて。これこそが演劇の意義だと思っていて、『ふとした瞬間に皆さんそれぞれの心に響く体験になれば』と思って演じます。脚本にブレヒトが込めた意図も推しはかりつつ、私が感じたこともお芝居に込めていきます」

 葵は自分自身にも、観客にも「発見」をくれる演劇の力を信じて今回も舞台に立つ。

□葵わかな(あおい・わかな) 1998年6月30日、神奈川県生まれ。2009年に俳優デビューし、舞台、ドラマ、映画、CM、ナレーションなど幅広く活動。17年にはNHK連続テレビ小説『わろてんか』でヒロイン・藤岡てんを演じた。19年に『ロミオ&ジュリエット』でミュージカルに初出演し。20年と23年には『アナスタシア』でヒロイン・アーニャ役。今年9月から放送の NHK BS時代劇『おいち不思議がたり』にはおいち役で主演。158センチ。

ヘアメイク:masaki
スタイリスト:Marie Takehisa

公演情報
「セツアンの善人」
【作】ベルトルト・ブレヒト
【上演台本・演出】白井晃
【出演者】葵わかな 木村達成 渡部豪太 七瀬なつみ あめくみちこ 栗田桃子 粟野史浩 枝元萌 斉藤悠 小柳友 大場みなみ 小日向春平 佐々木春香 小林勝也 松澤一之 小宮孝泰 ラサール石井

2024年10月16日~ 2024年11月4日 世田谷パブリックシアター 
2024年11月9日、11月10日 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

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