青木真也はなぜ減量に反対なのか 解決されていない死亡事故「システムが殺した」【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動した。連載5回目のテーマは「減量」。加速する“減量競争”に警鐘を鳴らした。
連載「青木が斬る」vol.5 後編②
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動した。連載5回目のテーマは「減量」。加速する“減量競争”に警鐘を鳴らした。(取材・文=島田将斗)
◇ ◇ ◇
2000年代にはやり始めた急速な減量と大幅なリカバリー。成功させれば、当日相手よりも大きな体で戦える可能性が出てくる。いまの格闘技界では主流の考え方だ。一方で青木がキャリアで減量をしたのは1度きり。大好きなはずの格闘技が「楽しくなくなった」瞬間だった。
プロ格闘技では、計量後の体重の戻しに制限がないことがほとんどだ。数キロ体重を増やす(戻す)選手もいれば数十キロ増やす選手もいる。階級制に意味があるのか、そんな議論も生まれている。計量を試合直前にすればこの問題を解決するかのように思えるが、大幅な減量で契約体重に合わせる選手がいるとリング禍にもつながりかねないという現実もある。
「試合直前に70キロなら70キロにさせた方がいいですよね。結局まともにやってるやつがろくでもないこと、バカなことするやつのケツを拭いてるんです。それが腹立ちます。バカなことするやつ不正をするやつをなくすためのコストを消費者(ファン)だったり、まともにやってる人間(選手)が払っているんです。減量も無茶して死ぬやつとか出てきたからONEの尿比重が出来た。そこでコストを払ってきたのは俺らですよ」
こう話す青木の目つきが鋭くなる。「ドーピングも、本来みんななにもなくやってれば、ドーピングチェックすらもなかった。コストも労力も真面目な人が負担させられてるわけです。街のコンビニも本屋も万引きするやつがいるから値段が上がるわけでしょ。警察もそう、それがバカらしい」と不満を爆発させた。
生き方が問われているという。なんのために格闘技をやっているのか。練習しているジムにも大幅な減量をする選手はいるが、そんな相手にも忖度することなく「NO」を突きつけているそうだ。
「『減量してバカなんじゃないの?』って話を俺はジムで平気でする。申し訳ないですけど、生き方。自分で言うのもあれだけど、俺は勤勉なのよ。とにかくコツコツやり続けるから、いまのんびり好きにできているんですよ。みんな勤勉じゃないから後で付けが回るじゃん。減量してたら体にガタが来るだろうし、働かなければお金に困るだろうし……。結局生き方なんだよ」
水抜き(脱水)は医学の世界では「可逆的な状態」で水分補給をすれば元に戻る(完全回復までには2~3日)。それでも現実の場では明らかに体調が良くなさそうに見える。減量がうまくいっていない選手は耐久力に影響が出るのか。青木はいち選手としてこう説明した。
「医師は研究データがないって言うけど、明らかにコンディションが悪いと俺は思うんですよ。コンディション不良は、それすなわち打たれ弱かったり効きやすいということですよね」
「減量はなくならないし、ドーピングもなくならない」
「亡くなっていますよね」――。格闘技界の「当たり前」に警鐘を鳴らす理由、それは逆張りやカウンターではない。解決されていない問題が実際にあるからだ。
「減量のデメリットはメンタルの部分が一番でかいと思う。自分が減量したときにそうだったけど、抑うつ状態になっていきます。だって食えないんだもん。食べる、寝る、動くが生きていく上の基本だから。そのベースが弱くなるのは本当に気を付けたほうがいい」
減量中の死亡事故や関連した自死が実際に起きている。「俺は正直……システムが殺したと思っています」と静かだが力強く指摘した。
「問題なのは人が死んじゃうってことだよね。計量失敗した人に『ふざけるな』って叩いてた時期もあるんだけど、死んでしまったら終わりじゃん。だから、よくある計量失敗の反則金はマジで意味ないです。犯罪をペナルティーで取り締まろうってマインド自体が分かってないです。厳罰化したってなくならない。やる人はやるんです。厳罰化することで巧妙になっていくし、その分事故も起きる。『水抜きしたら罰金になるから無理にでも落とさないといけない』『罰金になるからもうここにいられない』って追い込まれていく。団体運営者はそこに対する教養がない」
さらに「殺人罪には問えないと思います。業務上過失致死にも問えない。刑事罰にはならないと思うんです。ただシステムが殺したものではありますよね。だから俺はそこに加担したくないし、関わりたくねぇと思っちゃいますよね」と続けた。
真っ当な知識なく減量をサポートするトレーナーもいるのが現実だ。「事故が起きた時に『俺だったら』って知識自慢をするじゃん。卑しい商売してるなって思います。本当に力のある人は発信しないから。魔裟斗のトレーナーだった土居(進)さんはそういう発信しないじゃん。やってる理論は大学の教科書にあるようなことだから一番まともなのに」と首をかしげた。
現在、減量時にトレーナーを利用している格闘家は多い。「俺は本当に微差だと思います。それで勝敗を分けるようなことはないです。このバンテージの巻き方だからKOできた、とかもないです」と斬った。
「減量はなくならないし、ドーピングもなくならない。ただ、それを忌み嫌う層は増えてくる」とうなずく。「僕は、勝ち負け以上に自分のライフスタイルを充実させるために格闘技をやっているのでって人たちは今後増えていくと思います」と願うように語った。
□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。