がん闘病で風貌も一変…配信中に丸刈り告白したLiLuの思い「苦しむ人を一人でも減らしたい」

歌手でライバーのLiLu(リル)は、30代で乳がんが見つかり、左胸の全摘手術を受けた。それまでの人生は「生きている意味があるのだろうか」と度々思うほど幸せとは言えず、追い打ちをかけるような病気の告知に涙すら流れなかった。しかし、8クールに及ぶ抗がん剤治療で髪の毛も抜け落ちた後、生きる道を見つける。ウィッグをかぶってインターネットの生配信で歌ってみたところ話題になり、今年7月にはオリジナル曲のリリースも果たした。10月1日から始まった「乳がん啓発ピンクリボン月間」では、ピンクリボンアドバイザーとして乳がん検診の普及を訴えている。LiLuに詳しい話を聞いた。

歌手でライバーのLiLu
歌手でライバーのLiLu

セルフチェックで違和感 画像診断で表情曇った医師

 歌手でライバーのLiLu(リル)は、30代で乳がんが見つかり、左胸の全摘手術を受けた。それまでの人生は「生きている意味があるのだろうか」と度々思うほど幸せとは言えず、追い打ちをかけるような病気の告知に涙すら流れなかった。しかし、8クールに及ぶ抗がん剤治療で髪の毛も抜け落ちた後、生きる道を見つける。ウィッグをかぶってインターネットの生配信で歌ってみたところ話題になり、今年7月にはオリジナル曲のリリースも果たした。10月1日から始まった「乳がん啓発ピンクリボン月間」では、ピンクリボンアドバイザーとして乳がん検診の普及を訴えている。LiLuに詳しい話を聞いた。

 LiLuは、2014年に乳がん検診で、左右の乳房に一部石灰化が見つかった。医師からは半年に1回の検査を推奨されたが、良性の結果が続いたこともあり、だんだんと病院から遠ざかっていた。そして、21年コロナ禍に入ったある日、セルフチェックで胸の違和感に気づく。

「寝転がっているとき、ふと『最近、乳がん検診に行っていないな』と思い出して、何げなく触れてみたら、しこりがありました。立って触れても気づけないしこりでした」

 エコー検査をすると、画像を見た医師の表情は曇った。

「怪しいです。再検査をしましょう」

 がんかもしれないと思ったが、不思議と絶望的な気持ちにはならなかった。

 大学卒業後、就職してすぐに体調を崩し、アルバイトを転々とした。契約職員になったものの、なかなか正社員になれず、収入面でも将来への希望が見えない状態だった。職場ではハラスメントなど言葉に言い表せないような苦しみも味わってきていた。

「病気になる前は、もやもやと生きていました。生きている意味があるのだろうかと。独身の契約職員で将来の不安もすごくあって。私にやるべきことや使命がないだろうかと探していたんですけど見つかりませんでした。生きていくのは大変だなぁと思うことが多かったです。だから、再検査になってどうしようという不安はあまりなかったです」

 インターネットで調べると、エコー写真は乳がんの特徴と合致した。針生検を行い数日後にがんが確定。大きさは1.5センチだった(のちに手術で3センチと判明)。がんと告知されても、パニックになることはない。人生に悲観していたLiLuは、がんも不遇な運命の一つと受け止めた。

「死も頭をよぎりましたけど、生きていることもつらかったので……」

 帰り際にウィッグの値段を見にいくと、ここまで高額なのかと驚いた。非正規雇用で保険料を支払う余裕もなかったためにがん保険にも入っておらず、体の心配より、金銭的な不安がこみ上げた。

 告知を受けたクリニックでは手術ができず、大きな病院に転院することになった。どの病院にするかは自分で決めなければならなかった。「病院の選択は一番時間をかけて悩みました」。最終的に選んだ決め手は「通いやすさと病院の雰囲気」。手術後の抗がん剤治療は日帰りで、副作用がある中、自力で帰宅しなければならないからだ。

 がんのステージは2A。手術前、長い髪の姿を記録に残しておこうと遺影を撮影した。「私に何かあったときにお葬式に使いたいという気持ちで、カメラマンの友達に撮影を頼みました」。ステージ2Aは部分摘出で済む場合もあるが、LiLuのケースは小さながんが広がっており、左胸の全摘手術を9月に受ける。

 デリケートな部分だが、抵抗はなかったという。

「胸はもともとコンプレックスでしたし、部分摘出か全摘出か、こだわりはありませんでした。ただ、痛いのだけは嫌でした。全摘出のほうが痛くないとの説明も受け、『何も迷うことはありません』と全摘手術を受け入れました」

 手術後、女性にとって、もう一つの大きな決断があった。「卵子凍結はどうしますか?」。抗がん剤治療の影響で生理が来なくなり、妊孕性が低下する可能性があった。場合によっては将来子どもを持つことを諦めなければならない。

左胸の手術前に遺影用に撮影したロングヘア姿のLiLu
左胸の手術前に遺影用に撮影したロングヘア姿のLiLu

一変した風貌 「まゆげもまつげも全身の毛が抜ける」

 卵子を凍結するためには、卵が成長したタイミングで採卵手術を受けることが必要だが、LiLuはしなかった。

「未受精卵を凍結しても受精卵より妊娠出産の確率が低く、また、卵子1個につき年間結構な費用が年間でかかる。パートナーもいないし、そこまでして子どもがほしいという願望がありませんでした」。10月末から点滴による抗がん剤治療をスタート。2週間おきに計8クールで、翌年の2月までかかった。

「2週間おきというのは体への負担が大きい分、効果も大きい。主治医いわく、がん細胞に回復の隙を与えないマシンガンのような治療だと。年齢やがん細胞の悪性度などから、一番効果の高いこの治療を勧められました」

 LiLuの風貌は一変した。

「髪の毛だけじゃなくて、まゆげもまつげも全身の毛が抜ける。まゆげとまつげがないことで人相が変わって鏡を見てショックでしたし、がん患者なんだなって実感がわきました」。ほかに副作用は食欲減退、味覚異常、手足のしびれなどで、つらかったときは「副作用を軽減する支持療法薬を飲んで寝込んでやりすごした」という。

 治療中、励みになったことがあった。同じ病を経験した女性人たちのSNS上のコミュニティーだ。

「乳がんを経験している人たちがたくさんいて、いろんなことを教えてもらいました。手術の日にみんなで応援してくれて、それがすごく励みになりました。抗がん剤中のつらいことを報告しながら、みんなからも同じような話があって、励まし合い、みんなで進んでいく。そこの仲間に本当に助けられましたね」

 抗がん剤治療を終えたLiLuは社会復帰の準備を始める。遅延性の副作用があり、慎重さが必要だった。しかし、休職中の職場に相談をすると、上司の対応は思いもよらないものだった。

「『今まで以上の仕事をしてほしい』と言われました。今までの仕事をやるだけでも精一杯で、できるかどうか分からないのに、さらに2倍以上の仕事量をと。仕事も体もどちらも破綻してしまうので無理です、と伝えました」

 LiLuの意見は上司に聞き届けられなかった。病気以前からハラスメントに苦しんでおり、これを機に「体と心を大切にしよう」と転職を決意した。病気のことを理解してくれる新しい職場に、念願の正社員として就職した。しかし、抗がん剤治療終了から間もない体に、慣れない仕事のフルタイム出勤は体力が続かず、すぐに行き詰った。そんなとき、友達の一言が転機になった。

自宅でスマホに向かってライブ配信している
自宅でスマホに向かってライブ配信している

「今となってみたらとんでもない初配信」 “ハプニング”も…

「歌うまいんだから、配信とかやってみたら?」

 大学までフルートを演奏し、楽器店で働いたこともある。1人カラオケが趣味で、友達から勧められたボイストレーニングに通っていたこともあった。ちょうどコロナ禍で自宅を拠点にした配信者が増えていたタイミングだった。「身バレしないようにウィッグかぶってカラコンカラーコンタクトして、自分と分からないような感じでちょっと配信してみようかな」。勇気を出して画面の前に立つと、初回から反響があった。

「たくさんの人が配信を見に来てくれて驚きました。最初から高い機材を買うのは怖かったので、エコー付の安いマイクだけ買ったんですよね。そしたら接続が悪くて配信を聞いてる人にはエコーが全くかかってなくて、生声で歌っていたことに後から気づきました。今となってみたらとんでもない初配信だったなと思うんですけど、それでもフォローしてくれる人が何人もいて、すごく楽しいなと思いました。仕事が終わってから夜少し配信してっていう生活が1か月ぐらい続きました」

 新しい職場でなんとか仕事を踏ん張るためにも頼りにしていたのは、抗がん剤治療中に処方された支持療法薬だった。しかし、早々に薬も底を尽き、体の限界が訪れた。もう配信一本でライバーとして生きていくしか道はない。日々配信内容に工夫を重ね、やがて、「自分だからこそできることは何か」と闘病経験を打ち明けるようになる。乳がん検診の大切さを知ってもらうためだった。「ウィッグのことも言ってなかったので、『実はこの下、坊主なんだ』と明かして、私がこういう経験をしたから乳がん定期検診に行ってくださいね、と伝えました」

 そして月に20日ほどの配信を続けていると、予期せぬ出会いがあった。銀座の老舗ライブバー「銀座バーブラ」のオーナーが、配信での歌を聴いてLiLuをスカウト。昨年2月からプロ歌手としてレギュラー出演している。今年7月には、自身で作詞・作曲したシングル『ソラの約束』を発表。同曲は闘病を含む自らの過去・現在・未来をつづったもので、共感を呼んでいる。

「病気、失業をきっかけにライブ配信を始めたら、私の歌が聴きたいと応援してくれる人たちと出会い、生きる力と夢をもらいました。これまでのこと、今のこと、これからのこと、そして皆様のことを思って詞を書きました」

 ライバーは人生をさらけ出すというのがLiLuの考えだ。

「歌だけやトークだけで判断されるというより、人間性全体を見られていると思っています。私は、素の自分や完璧じゃない自分も見せています。継続中のホルモン療法の副作用などで疲れやすく、計画どおりに配信できないこともあります。いろんな私のことを知ってもらって、人生を伴走しながら応援してくれる方たちが、本当に心の支えになってくれています」

 大病を患ったが、人生は前向きになった。

「今は本当に毎日を楽しみながら、しっかり自分を生きている感じがします。やりたいと思えること、幸せだと思えることをやらせてもらっているのは、すごくありがたいです。私の歌を聴いた方や、配信で話した方が喜んでくれる瞬間が幸せです。病気の時に支えてくれた家族を始め、関わった全ての方から生きる力をいただき、やっと道が見つかったなと感じています。今の私の生きる意味は、たくさんの方に歌を届けること、そして定期検診の大切さを伝えること。がんで苦しむ人を一人でも減らしていきたいです」とLiLuは結んだ。

LiLuの初オリジナル曲『ソラの約束』
https://linkco.re/cu3A99un?select=listen

LiLuのライブ配信やSNS
https://lit.link/liluliryu

LiLuが出演するライブバー「銀座バーブラ」
https://ginza-barbra.com

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