CKB横山剣「タイガー&ドラゴンのクレイジーケンバンドと言われるのも悪くない」20年かけて克服したジレンマ

横山剣(64)が率い、結成27年目を迎えたクレイジーケンバンド(CKB)が今月18日、通算24枚目となるアルバム『火星』をリリースした。地元(横浜市)愛にあふれた『ハマのビート』やドライブがテーマの『Rainbow Drive』など、CKBならではのバラエティーに富んだ楽曲がそろっている。アレンジを手掛けるgurasanpark(以下、パーク)と前作から白川玄大(ドラム)が加入。横山とは親子ほど離れたこの2人が、ベテランメンバーを刺激し、バンドに若さをもたらしているという。その状況で「曲作りと演奏が楽しくて仕方ない」と語る横山に、若い世代との出会いについて聞いた。

通算24枚目のアルバム『火星』をリリースしたCKB横山剣【写真:ENCOUNT編集部】
通算24枚目のアルバム『火星』をリリースしたCKB横山剣【写真:ENCOUNT編集部】

CKB通算24枚目のアルバム『火星』をリリース

 横山剣(64)が率い、結成27年目を迎えたクレイジーケンバンド(CKB)が今月18日、通算24枚目となるアルバム『火星』をリリースした。地元(横浜市)愛にあふれた『ハマのビート』やドライブがテーマの『Rainbow Drive』など、CKBならではのバラエティーに富んだ楽曲がそろっている。アレンジを手掛けるgurasanpark(以下、パーク)と前作から白川玄大(ドラム)が加入。横山とは親子ほど離れたこの2人が、ベテランメンバーを刺激し、バンドに若さをもたらしているという。その状況で「曲作りと演奏が楽しくて仕方ない」と語る横山に、若い世代との出会いについて聞いた。(取材・文=福嶋剛)

――『火星』というタイトルの由来から教えてください。

「CKBは、いつもツアーのタイトルがそのままアルバムのタイトルになります。今回は地元をドライブしていて、ゴム通りという戦前、横浜・鶴見区にあったゴム工場跡地周辺の道を走っていました。そしたら、大きなマンションを見つけて『そういえば、ここはワイルドブルーヨコハマ(※)だったな』と昔の記憶がよみがえり、ついでに向かいにあった焼肉店の名前を思い出しました。それが『火星』です。なぜ、焼肉店なのに火星なのか…。そんな摩訶不思議な世界にひかれてタイトルに決めました」

(※)2001年に閉演した大型の屋内温水プール施設。

――CKBは思い出の場所をタイトルにすることも多いですね。

「今まで『イタリアンガーデン』『FLYING SAUCER』『樹影』など僕やバンドの思い出の場所をアルバム名にしてきました。名前の響きが曲のインスピレーションを与えてくれるので、今回も次々と曲のアイデアが湧いてきました」

――収録曲は全16曲でバラエティーに富んだ内容です。

「曲に関しては突然に湧いてくるので作り方はさまざまです。今回は、ドライブ中に風景や思い出とセットで出てきた『Rainbow Drive』や『辻堂海岸』などもあれば、『ハマのビート』みたいにリズムから作り、メロディーや歌詞を後付けするものもありました。長い間飼っていたチワワ犬が今年亡くなり、ペットとの別れをメロディーに込めた『Sha na na na na』という曲もあります。数年前までは脳内で鳴っている音楽をブレなくアウトプットするのが大変だったんですけどね」

――アレンジャーのパークさんとの出会いがその悩みを解決してくれたと。

「その通りです。パークくんとは、かれこれ7年くらいの付き合いになりますが、彼は僕の頭の中の『音楽の設計図』を忠実に、いやそれ以上の形にしてくれる『音楽的な通訳』なんです。彼はまだ30代なのに64歳の僕がリアルタイムで聴いていた音楽にも詳しくて、もちろん、ヒップホップや今のサウンドにも精通しているので音楽知識が幅広いんです。だから、細かい説明抜きでも『○○のようなこういう音ですね』とすぐに形にしてくれます」

――パークさんのおかげで曲作りに対するストレスもなくなった。

「なくなりましたし、僕の理想形に近いものを出せるようになりました」

――剣さんの理想形とは。

「最先端よりもオリジナリティを重視した『時代の記憶や空気感を絶妙なスパイスとして効かせる音楽』です。パークくんと組み始めてから、世代間のギャップを越えたシンクロニシティが毎回生まれている感じです。今回はパークくんから『CKBにこんなバックトラックが合いそうですがどうですか』ってプレゼンしてくれたトラック(『Sha na na na na』)をアルバム最後に収録しました。後半のコーラス部分は彼の作曲で、今までの僕にはなかった“ビートルズ的展開”が導入され、良い刺激をもらいました」

ジャケット写真に使用した車は『火星』のイメージにピッタリなジャガー・Eタイプ
ジャケット写真に使用した車は『火星』のイメージにピッタリなジャガー・Eタイプ

元のキーで歌える「俺の話を聞け~♪」

――長年ドラムを担当していた廣石恵一さんに代わって、前作『世界』から新メンバーとして白川さんが加わりました。若いドラマーが入ったことで、バンドにも大きな影響があったそうですね。

「ゲンタ(白川)くんは、パークくんのソロ・プロジェクトの一員で2人ともまだ30代です。CKBは60代が5人もいるバンドなので親子ほど歳が離れていて、楽屋でそれぞれのアイドルの話になるとお互いにちんぷんかんぷんなんですけどね(笑)。でも、僕も含めてうちのメンバーはちょっと変わっていて、年上の言うことは聞かないけれど、年下の言うことなら素直に聞けるんです。だから、すぐに打ち解けました。ベースの(洞口)信也くんなんかは、若い2人に刺激されてどんどん腕を上げているんです」

――車に例えると、リズム隊というエンジンがチューンナップされた感じでしょうか。

「まさにその通りで今は運転が楽しいんです。もちろん、今まで支えてくれた廣石さんは、ベテランならではの唯一無二のサウンドで感謝しかありませんが、『若い血を入れるってこういうことなんだ』って、2人が私たちに新鮮な風を運んできてくれました」

――楽しそうなレコーディング風景が想像できます。

「レコーディングやライブといった実演に対する向き合い方が変わりましたね。今まではほとんど音楽フェスに出ないでホームばかりでやってきましたけど、ゲンタくんが入って『アウェイ大歓迎!』になりました。これからはフェスにもどんどん出ていきたいと思います」

――ボーカリストとしても刺激をもらいましたか。

「もちろんです。リズム隊の音を聴いていると、『歌いたくて仕方がない』っていう気持ちにさせてくれるんです。実は、そのお陰なのか、『タイガー&ドラゴン』の『俺の話を聞け~♪』とか、ここ数年、キーを下げて歌っていたのですが、今では元のキーに戻してしっかり歌えるようになりました」

――CKBのアルバムの楽しみの1つでもあるギター小野瀬雅生さんの曲も、今回は摩訶不思議な世界観です。

「のっさん(小野瀬)らしい混沌とした曲です。アルバムタイトルを聞かれて火星と伝えたら、彼はSF好きだから焼肉店のことはともかくとして、ものすごくノッてくれました。できあがった曲はYMOみたいなテクノと韓国のポンチャックと北欧ギターインストのミクスチャーでした。そして、『友情出演してくれ』と言われて僕も相の手で参加しました」

――さまざまなジャンルを操るCKBのサウンド自体にも混とんさがありますね。

「それはバンドが始まって以来のテーマで、混とんっていうのはCKBの性質というか、焼肉店に例えたら『秘伝のタレ』なんでしょうね(笑)。スパイスが効いていて、世代や音楽ジャンルに関係なく『みなさんの好みの味(曲)がうちにはきっとありますよ』と」

癒しの瞬間はドライブ「近所の海まで出かけて景色を眺めるのが好きなんです」【写真:ENCOUNT編集部】
癒しの瞬間はドライブ「近所の海まで出かけて景色を眺めるのが好きなんです」【写真:ENCOUNT編集部】

ヒットする前に抱えていたジレンマ

――2005年にTBS系連続ドラマ『タイガー&ドラゴン』の主題歌として同曲がヒットしました。しかし、当時は「CKBは昭和歌謡を歌うバンドだ」と見られることに抵抗があったそうですね。

「昭和歌謡から多くのエッセンスを取り入れてはいますが、昭和歌謡そのものをやっているわけではなかったので、その辺りのジレンマはありました。でも、あれから自分たちがやりたかったことを20年やってきて『タイガー&ドラゴン』もCKBの混とんとした味の1つになりました。『こういう曲もやってるんだ』って思ってくれる若いファンもいて新鮮なんです。だから、今は『タイガー&ドラゴンのクレイジーケンバンド』と言われるのも悪くない。最近、車の中でラジオを聴いていたら『タイガー&ドラゴン』が流れてきてうれしかったですね。一緒に歌っちゃいました(笑)」

――9月28日から年をまたいで全国22公演の「火星ツアー」が始まります。

「27年やってきて曲もたくさん作ってきたので新曲が増える分、やれない曲もどんどん出てきました。でも代表曲は外せません。たまに絶対に聴きたかった曲を外すアーティストを見ると、『気持ちは分かるんだけどさ』と思ってしまう。僕らにもそんな時代があったから。でも、今は必ず『タイガー&ドラゴン』を演奏して、お客さんのうれしそうな顔を見る度で『これでいいのだ』という気持ちになれました」

――CKBのファンの皆さんは、座席があっても最初から立って声援を送る熱心な方ばかりです。

「お客さんにはいつも盛り上げていただき、本当に感謝しています。でも、自由に座っていただいても構わないですし、反対に立って楽しんでいる方に無理に『座って』とも言えないので最近は『途中で休憩時間を入れた方がいいかな』とかいろいろと考えています」

――剣さんがライブを続けるために健康面で気を付けていることは。

「車の中で大声で歌ったり、しっかり声を出すことですかね。あとはライブの日は、辛いものを食べない。メンバーもそれぞれの自己管理をしていますね」

――ちなみに他のアーティストのライブに足を運ぶことは。

「ありますよ。今度、子どもと一緒にライブに行きます。実は子どもからの影響って大きいんですよ。King Gnuさん、藤井風さん、ヨルシカさんも最初は子どもから教わりましたし、やっぱり、自分の作れないタイプの音楽をやっている方に出会うと世代関係なく、リスペクトしますし、刺激をもらえますよね。若い人との出会いは、これからの延命装置というか滋養強壮剤みたいなものかもしれませんね(笑)」

□クレイジーケンバンド クールスRCのボーカリストだった音楽家の横山剣が、1997年にバンドを結成。2002年、4thアルバム『Gran Turismo』で人気を博し、04年には、ベストアルバム『CKBB』が初のチャート9位にランクインし、2年連続で日本武道館公演を開催。05年、『タイガー&ドラゴン』(02年)がTBS系連続ドラマ『タイガー&ドラゴン』の主題歌に起用され、再発盤がヒット。22年、結成25年を迎え、22枚目のアルバム『樹影』が9位にランクイン。

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