兵庫・斎藤知事の「通報者探し」は違法 専門家論破「真実相当性は関係ない」…弁護士解説「背景に法律改正」
兵庫県・斎藤元彦知事のパワハラ・贈答品疑惑などを告発する文書をめぐり、今月6日、県議会の百条委員会で知事への2回目の証人尋問が行われた。斎藤知事は告発者処分に問題はないという主張を繰り返したが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は尋問前に行われた参考人招致での専門家見解を重視。「指摘は決定的なものだった」と解説する。
元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が解説
兵庫県・斎藤元彦知事のパワハラ・贈答品疑惑などを告発する文書をめぐり、今月6日、県議会の百条委員会で知事への2回目の証人尋問が行われた。斎藤知事は告発者処分に問題はないという主張を繰り返したが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は尋問前に行われた参考人招致での専門家見解を重視。「指摘は決定的なものだった」と解説する。
2度目の証人尋問でも斎藤知事の主張はこれまでの繰り返しだった。しかし、その言葉が持つ意味は、尋問前に行われた専門家の意見陳述によって完全に変わった。斎藤知事のこれまでの「言い訳」が全く通用しなくなっていたのだ。
百条委員会での専門家の指摘は、これまでの堂々巡りの議論に終止符を打つものだった。斎藤知事は、亡くなった元西播磨県民局長による内部告発を「うわさ話を集めたもの」「真実相当性(真実と信ずるに足りる相当の理由)がない」として公益通報には当たらないと主張。これに対して「真実相当性はある」「そもそも告発された当人が真実かどうか決めつけること自体がおかしい」などの異論が出ていた。
こうした議論を受けて百条委員会は今月5日に上智大の奥山俊宏教授から、翌6日には消費者庁公益通報者保護制度検討会の委員である山口利昭弁護士から意見を聞いた。2人の専門家からは次々と鋭い指摘がなされたが、山口弁護士が特に強調した見解は議論を根底からひっくり返すものだった。その核心をひとことで言うとこうなる。
「告発に真実相当性があろうとなかろうと、関係ない」
「告発に真実相当性はない」と繰り返す斎藤知事に対して、山口弁護士は「真実相当性はある」と反論するだけでなく、さらに進んで「告発に真実相当性があろうとなかろうと、斎藤知事がしたことは違法だ」と指摘したのだ。
なぜ、そうなるのか。背景には2022年の大幅な法律改正がある。
実は改正前の古い法律の頃なら、斎藤知事の言い分にも意味があったかもしれない。06年の施行当初、公益通報者保護法は通報者をクビにするなどの「不利益取扱いの禁止」だけを決めた短い法律だった。そして、その適用条件として外部通報には「真実相当性」が求められていたため、斎藤知事らはしきりに「真実相当性なし」と連呼し、「法律の対象外」と主張したのだろう。
しかし、改正によって同法は「不利益取扱い禁止」だけではなく、新たに「公益通報の保護する措置」についての事業者の義務も規定することになり、その内容として内閣府指針は次のように定めた。
「やむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる」
つまり、余程のことがない限り「通報者探しは禁止」と決まったのだ。そして、ポイントとなるのが「通報者探し禁止」となる通報の範囲だ。同指針はその範囲を「公益通報者保護法2条の公益通報」と定めた。ここが重要だ。
公益通報者保護法「2条」は、金もうけや私怨などの「不正の目的」ではない限り、広く公益通報に当たるとしていて、そこに「真実相当性」という条件はない。斎藤知事がしきりに繰り返している「真実相当性」は同法の「3条」に初めて登場し、「2条」には出てこない。「通報者探し」は「真実相当性がない通報」の場合まで含めて、広く禁止されたのだ。
違反でも「罰則なし」…バドンは県議会、県民へ
「通報者探し」をこのように広く禁じたのは、権力者が「通報内容が真実とは思えなかった」という勝手な理由で通報者を探し、弾圧することを防ぐためであろう。百条委員会で山口弁護士が大々的に指摘したのは、正にこのポイントだった(前日に意見を述べた奥山教授も最後に同様の指摘を行っている)。
それにもかかわらず、県のトップである斎藤知事が率先し、県幹部が一緒になって「通報者探し」をした。それは明らかに「公益通報を保護する措置をとる義務」を無視した公益通報者保護法違反だ。斎藤知事がいくら「真実相当性」や「誹謗中傷性」を叫んでも、「通報者探し」をやってしまった以上、結論は変わらない。
これが百条委員会で専門家から出された決定的な指摘だった。
ただ、ここで1つ問題がある。それはこの点の法律違反には「罰則はない」ということだ(通報者の情報を漏らしたという点を追及できれば罰金刑がありうるが、立件にはハードルもあるだろう)。知事が違法行為をしているという異常事態でありながら、本人がこれを「恥」と感じなければ、知事を続けることもできてしまうのだ。
斎藤知事らの行いに対する法律上の見解は、今回の専門家の意見でほぼ固まったと思う。バトンは政治の世界に渡された。この先は兵庫県議会、県民が断を下すことになるが、亡くなった元西播磨県民局長による告発に託された思いだけは、「無」にされないでほしい。私はそう心から祈っている。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。