『千と千尋』主演で見つけた舞台の魅力 挑戦続く26歳・福地桃子「“こうしていれば”がないように」

俳優の福地桃子が6日に東京・紀伊國屋ホールで開幕し、愛知、大阪へと巡演する舞台『夫婦パラダイス~街の灯はそこに~』に出演する。数々の映画、ドラマで活躍を続ける26歳に、本作への意気込みとともに舞台の魅力を聞いた。

インタビューに応じた福地桃子【写真:冨田味我】
インタビューに応じた福地桃子【写真:冨田味我】

出演舞台『夫婦パラダイス~街の灯はそこに~』が6日よりスタート

 俳優の福地桃子が6日に東京・紀伊國屋ホールで開幕し、愛知、大阪へと巡演する舞台『夫婦パラダイス~街の灯はそこに~』に出演する。数々の映画、ドラマで活躍を続ける26歳に、本作への意気込みとともに舞台の魅力を聞いた。(取材・文=猪俣創平)

 本作は、日本文学のレジェンドたちやその名作へのリスペクトを込め、オリジナル戯曲を創作する「日本文学シアター」シリーズの第7弾。無頼派作家・織田作之助の人気作『夫婦善哉』の主人公柳吉とお蝶をモチーフに、作・北村想氏、演出・寺十吾氏によるオリジナル戯曲となっている。

 川の向こうは「パラダイス」。でも、こちら側は人生の吹き溜まり……。そんな川辺のスナックに、ワケアリのカップル柳吉(尾上松也)と蝶子(瀧内公美)が流れ着く。店のママ信子(高田聖子)は蝶子の腹違いの姉で、失踪中の亭主藤吉(鈴木浩介)を待つ身の上。スナック2階の屋根裏部屋に転がり込んだ2人だったが、この店にもなにやらワケアリの雰囲気が……。

 そんなスナックの近所の出前持ち・静子を演じるのが福地だ。豪華俳優陣との共演に、「登場人物が少ない分、お1人おひとりとの時間が丁寧に作れるなと思っています」と語ると、稽古を前に「台本を読んで自分が想像したものがどうなるのか楽しみです。ここから稽古を重ねていく中でイメージしていたものがどう変化していくのか、登場人物が少ない分、自分の演じるキャラクターも育っていくと思うので、そこを楽しめたらいいなと思っています」と声を弾ませた。

 また、演じる静子については「これから稽古の中で輪郭が出来上がってきて、自分だけでは埋められなかったところが埋まっていきますから、チラシを見ても私はワクワクしています」と本番までの変化に胸を高鳴らせた。

 映画、ドラマなど映像作品への出演が続いてきたが、生の舞台ならではの醍醐味も俳優として実感している。

「稽古では時間をかけて変化していくことがすごくあります。決められたこととして受け取るのではなく、なるべく柔軟にいられたらいいなと思っています。舞台であれば、そのとき起きたハプニングに対して、とっさに出る動きのように、自分では想像もできないような動きとか、体ってこんなに柔らかかったんだ、みたいなことがあります。それは普段生活していても反射的に動いたときに『自分ってこんなに動けたんだ』という瞬間があるように、舞台上でも何か起きた時に、すごくかっこいい自分の一面が出てくる場面があります。そんな自分に出会えるのはうれしいですし、決まったやり取りの中にも、決まっていない瞬間が出てくるのが“生の魅力”だなと思っています」

舞台『千と千尋の神隠し』についても語った【写真:冨田味我】
舞台『千と千尋の神隠し』についても語った【写真:冨田味我】

舞台『千と千尋の神隠し』の海外公演は「すごく貴重な時間でした」

 福地といえば、俳優の橋本環奈、上白石萌音、川栄李奈と共にクワトロキャストで主演を務めた舞台『千と千尋の神隠し』が記憶に新しい。数々の公演に参加してきたが、舞台ならではの緊張感があったという。

「冒頭、演出部の方から『どうぞ』と合図をしていただくんですけど、昨日やったはずなのにまた同じような緊張感がありました。こんなに公演を重ねていても、なんでなんだろうと考えたときに、やっぱりその日に来るお客さんは毎回違うので、何十回やろうと、来てくださるお客さんの“初めて”ということには変わりはないんだと。それを考えたら初心に戻れて、稽古期間中のあのときの緊張感にすっと戻れるような気がします」

『千と千尋の神隠し』ではロンドン公演にも臨んだ。日本公演とは観客の反応が異なったものの「どちらもいいんだよなというのが感想です」と振り返り、その違いを考察した。

「お客さんの反応は本当に違いがありました。でも、環境がそうさせているような気がしました。劇場のルールも全く違う中で、反応が変わるのはすごく自然なことだと思っています。飲食ができるできないでもお客さんの気持ちのほぐれ方も違うし、その場にいる人たちの放っている空気が劇場の空間作りに繋がってくると思います。その違いを経験できたことはすごく貴重な時間でした」

 反響も大きく、周囲から多くの感想も寄せられた。その中で演者と観客、双方の緊張感もまた、舞台ならではの感動につながると感じた。

「見る席によって変化がある舞台は、印象や声の届き方も違いますし、その日に観たものがずっと残り続けるすごさに時々はっとします。その時にしか生まれなかった笑み一つでも、作り手が思いもしなかったところで人は感動することがあるんだと、いただく感想から感じました」

 数々の話題作に出演してきた福地。俳優としての今後に話を向けると、「難しいですね」と悩みながらも「振り返ったときに『あのとき、こうしていればよかった』がないようにしたい」と前を向いた。

「やりたいことに対しては思い切って決断しながら、挑戦できることは自分にとっての喜びです。舞台は特にそうで、公演を積み重ねて変化していくように、導いてもらっている感覚があります」。大舞台での経験を糧に、一期一会の舞台でさらなる成長を誓う。

□福地桃子(ふくち・ももこ)1997年10月26日、東京都出身。2019年、NHK連続テレビ小説『なつぞら』の夕見子役が話題に。ドラマ『#リモラブ~普通の恋は邪道~』、『鎌倉殿の13人』、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』、『それってパクリじゃないですか?』、映画『あの日のオルガン』、『サバカン SABAKAN』、『あの娘は知らない』など幅広く出演。24年には舞台『千と千尋の神隠し』で主人公・千尋役を務め、ロンドン公演にも参加。

ヘアメイク:曵田萌恵
スタイリスト:梅田一秀

【公演情報】
シス・カンパニー公演/日本文学シアターVol.7
「夫婦バラダイス~街の灯はそこに~」
作:北村想
演出:寺十吾
出演:尾上松也 瀧内公美 鈴木浩介 福地桃子 高田聖子 段田安則
東京公演:2024年9月6日(金)~19日(木) 紀伊國屋ホール
愛知公演:2024年9月22日(日祝)・23日(月振休) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
大阪公演:2024年9月26日(木)~27日(金) 森ノ宮ピロティホール
お問合せ:シス・カンパニー https://www.siscompany.com/meoto/

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