大鶴佐助が明かす亡き父・唐十郎の晩年「酒、タバコをやめて、本名に戻って人生を生き直した」
座長を務める劇団「ヒトハダ」の第2回公演『旅芸人の記録』(脚本・演出=鄭義信)が9月5日、東京・下北沢のザ・スズナリで開幕する俳優の大鶴佐助(30)。同舞台は大衆演劇一家の物語だが、自身も演劇一家で育った。大鶴が5月4日に84歳で亡くなった劇作家・演出家の父・唐十郎さんについて語った。
中学時代は反発「『僕は、演劇はやりません』と言っていました」
座長を務める劇団「ヒトハダ」の第2回公演『旅芸人の記録』(脚本・演出=鄭義信)が9月5日、東京・下北沢のザ・スズナリで開幕する俳優の大鶴佐助(30)。同舞台は大衆演劇一家の物語だが、自身も演劇一家で育った。大鶴が5月4日に84歳で亡くなった劇作家・演出家の父・唐十郎さんについて語った。(取材・文=平辻哲也)
『旅芸人の記録』は戦中の関西を舞台に、名もなき旅芸人一家の姿を描いたもの。劇中では、大衆演劇の女座長(梅沢昌代)の再婚相手(浅野雅博)の連れ子で、足が不自由な座付き作家の冬生を演じる。
「僕自身、物心ついたときから役者になるという感じだったんです。演劇が身近にあったので、気がついたら役者になっていた。最初に出たのはドラマ(07年、NHK『わたしが子供だったころ~劇作家・演出家 唐十郎~』唐十郎の幼少期役)。それもほとんど無意識でした。恐竜が好きだったんで、小学生の頃は考古学者になりたいと思ったことはありますけれど」
父は「アングラ演劇の始祖」と言われた唐さん。異母兄は大鶴義丹(56)、姉は唐組に所属する大鶴美仁音(みにおん、33)。演劇は日常の一つだったが、中学生時代は反抗期もあったという。
「中学生の頃は、『僕は、演劇はやりません』と言っていましたが、それは親父に対する反発でした。舞台をやらずに映画俳優になると言ったんですが、役者そのものをやめる選択肢はなかったです。今ではほぼほぼ演劇しかやっていないわけなんですが」
父はどんな人だったのか。
「父というより延々と“唐十郎”でした。家の中でもずっと“唐十郎”を生きていました。家には、いつも劇団員がいたということもあったかもしれません。お酒が入ると、酔っ払って大変でしたけど、理不尽な振る舞いは全くない人で、みんな楽しませながら、怒ったり……それこそ劇団の座長といった感じで、家でも座長のような振る舞いでした。僕は、そのような座長ではないですけど(笑)」
偉大な父は畏怖の対象だった。
「(異母兄の)義丹兄さんは『親父』と呼んでいたのがかっこよかったので、自分も『親父』と言いたかったのですが、いざ、親父を目の前にすると、やっぱり怖くて、『お父さん』と言っていました(笑)。学校から帰ると、テレビで唐組の演劇を怖い顔で見ているんです。自分が出てくると、大笑いして、ラストは泣く。それで、『オレの芝居が一番よかった』と言うんです。執筆中などは絶対に近づいちゃいけないと本能で思いました」
小学生の頃、家の中でビーグル犬を飼っていたことがある。
「かわいかったのですが、あまり頭が良くなく、言うことを聞かなかったんです。僕は“伏せ”を覚えさせようとしたんですけど、一つも言うことを聞かなかった。母親でもダメ。でも、親父が2階から降りてきた瞬間、伏せをするんです。動物って、本能的に見ているんですね。動物ですら、本能で怖いと感じる人でした(笑)」
芝居については、いろいろと指導も受けた。心に残っている言葉は「語りすぎていると思ったら、歌え。歌いすぎていると思ったら、語れ」というもの。
「リアリズムで語りすぎてもテンポがつまらなくなる。そういうところはポエム的に読むと、音が乗って、すごい気持ちよく長セリフも読める。そこで、やりすぎたと思ったら、語りに入るんです。野田秀樹さんの舞台でも同じことを思いました」
役者としての生き様、心構えも教えてもらった。「役者は奈落から出てくる。奈落は地獄。どうせ地獄から出てくんだったら、客の一人でも連れ去らないと意味がない」。
「そのくらいの気持ちで舞台上に出ろということです。言葉以上にも姿勢、生き様を学ばせてもらいました。開演前に父がナイフの肥後守の刃先をじっと見ているんです。『何やっているの?』と聞いたら、『これから舞台だから、鋭利なものを見て感覚を研ぎ澄ますんだ』って。ナルシズムの人でしたが、すごくハートの熱い人でした。手を挙げたりしない、優しい人でした」
唐氏は2012年5月に自宅で転倒し、脳挫傷の大けがを負い、以来、リハビリ生活を余儀無くされた。
「戯曲を書けなくなり、舞台に立てないことは辛かったと思うんですけど、家族としては『やれることをやった』と思いましたね。酒も、タバコもやめて、本名の大靏義英(おおつる・よしひで)に戻って、穏やかな人生を生き直している感じがしました。そんな中でも麿赤兒さんたちなど昔の仲間に会うと、テンションが上がったりするんです。よほど濃い時間を過ごしたんだなと思いました」
『旅芸人の記録』開幕へ向け、稽古に臨んでいるが、「僕は稽古の時間が好きなんです。一つのセリフ、一つのシーンにすごくこだわる過程が好きなんです。だから、これからも演劇を中心にやっていきたい」と佐助。亡き父の教えを胸に舞台に立ち続ける。
■大鶴佐助(おおつる・さすけ)1993年11月14日生まれ。東京都出身。劇団ヒトハダの座長を務める。近年の主な出演作に、舞台『ハムレットQ1』(演出:森新太郎)、『ジャズ大名』(演出:福原充則)、NODA・MAP『兎、波を走る』(演出:野田秀樹)、『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』(演出:白井晃)、『パンドラの鐘』(演出:杉原邦生)、『ピサロ』(演出:ウィル・タケット)など多数。待機作に、12月6日から東京・外苑前の日本青年館ホールで開演する舞台『ヴェニスの商人』(演出:森新太郎)がある。