父は唐十郎、異母兄は大鶴義丹 演劇一家で育った30歳・大鶴佐助「自分が座長だという実感がありません」

俳優の大鶴佐助(30)が座長を務める劇団「ヒトハダ」の第2回公演『旅芸人の記録』(作・演出=鄭義信)が9月5日、東京・下北沢のザ・スズナリで開幕する。ヒトハダは22年に5人の演劇俳優と鄭氏で発足。2年ぶり2回目の公演に向け、けいこに臨む大鶴が苦労していることは……。

公演『旅芸人の記録』で座長を務める大鶴佐助【写真:ENCOUNT編集部】
公演『旅芸人の記録』で座長を務める大鶴佐助【写真:ENCOUNT編集部】

役作りのルーティンは?

 俳優の大鶴佐助(30)が座長を務める劇団「ヒトハダ」の第2回公演『旅芸人の記録』(作・演出=鄭義信)が9月5日、東京・下北沢のザ・スズナリで開幕する。ヒトハダは22年に5人の演劇俳優と鄭氏で発足。2年ぶり2回目の公演に向け、けいこに臨む大鶴が苦労していることは……。(取材・文=平辻哲也)

 ヒトハダは大鶴を始め、俳優の浅野雅博(52)、尾上寛之(39)、櫻井章喜(54)、梅沢昌代(71)、劇作家の鄭義信氏からなる劇団。大鶴は4人の先輩俳優からの指名を受けて、座長に就任した。

「僕自身いまだに、自分が座長だという実感がありません。『座長とはなんぞや』と毎日思います。旗揚げ公演の時も、カーテンコールで口上を述べることしかやっていません」と笑う。

 第2回公演は旗揚げ公演の終了時から、やることは決めていたが、おのおののスケジュールもあったことから、この日程になったのだという。

「最短で2年後だったんです。次は『ザ・スズナリ』でできたらいいねと言っていたので、本当にやることができてうれしいです。旗揚げの時は、このメンバーでの芝居は初めてで、手探りで作っていった感じでしたが、今回は2回目なので皆さんやりやすそうです」

 旗揚げ公演『僕は歌う、青空とコーラと君のために』(22年4・5月、浅草九劇)は進駐軍が支配する戦後間もない時代を舞台に、日劇アーニーパイルの舞台に立つことを夢見る4人組コーラス・グループの物語だった。

『旅芸人の記録』は太平洋戦争下、大衆演劇の旅芸人一家を描く。戦争の激化とともに、家族は次第にバラバラになってしまうというストーリー。大鶴の役は座長・蝶子(梅沢)の再婚相手、清治(浅野)の連れ子、冬生だ。

「僕の役は、幼少期の時に足の骨を折って舞台に立てなくなって、座付き作家になったんです。性格もすごい穏やかですし、よくけんかが起こる家庭で唯一なだめる側の人間になります。時代背景、戦争含めて、鄭さんらしい温かみのある話だな、と思いました」

 脚本はいわゆる当て書き。人物には共通する部分はあるのだろうか。

「自分のことは分からないんですが、他の方々は客観的にすごく役に合っていると思いました。鄭さんの本は、その人の個性に寄り添って書かれています。僕も演じる上での迷いは一切なかったです」

 役作りのルーティンは、台本のセリフを、素直に声を出して読むことだという。

「鄭さんのホンはすごくセリフがきれいでとても好きです。ただ今回はセリフが全部、関西弁。こないだも、けいこの時に、役者同士で『なんで、こんなに疲れるんだろう』と話したんですが、浅野さんが『関西弁だからね』と。関西弁の役は初めてで、イントネーションの正解が分からない。聴くと、話すとではまったく違うと実感しました。今回は大阪公演(9月26~29日、扇町ミュージアムキューブCUBE01)もあるので、下手な関西弁がバレてしまうんじゃないか、と」と苦笑を浮かべた。

『旅芸人の記録』は、時代、人々の記憶から消えていく名もない劇団の姿を描いている。

「僕のセリフに『ここに住んどったこととか、ここで芝居をやっとったこと、誰かの記憶にずっと残っていてほしい』というものがあるんですけど、多分、残らないんだろうなって。実際にも、誰の記憶にも残らず消えていった、こういう一座はたくさんあるんだろうな、と思います」

「小さい頃から劇団員が家にいた」環境で育つ

 大鶴は、「アングラ演劇の始祖」と言われる劇作家・演出家の唐十郎(24年5月4日死去)を父に持つ。異母兄は大鶴義丹(56)、姉は唐組所属の大鶴美仁音(みにおん、33)だ。

「大衆演技と違って寝泊まりする劇団員はいなかったのですが、小さい頃から劇団員が家にいました。夢を見て、演劇に入りながら、夢に破れて、やめていった人も無数に見てきました。死んだ親父は、劇団員たちにこんなことを言うんです。『100年後に何が残っていると思うか。……それはオレの名前だけだ』って。親父なりに劇団員にハッパをかけたのかもしれないのですが、生きてる間に名を残せよ、と」

 作・演出の鄭氏が大鶴に座付き作家の役を託したのは、まさに演劇の家に育った生い立ちも、理由の一つかもしれない。

「題名は『旅芸人の記録』ですが、この旅芸人たちは人々の記憶からは多分消えていくはかない存在かもしれないです。消えていった旅芸人の芝居を垣間見ることができるかもしれない。それによって、名もなき一座の人々が報われたらいいなと思っています」。演劇育ちの佐助が、万感の思いを込める。

■大鶴佐助(おおつる・さすけ) 1993年11月14日生まれ。東京都出身。劇団ヒトハダの座長を務める。近年の主な出演作に、舞台『ハムレットQ1』(演出:森新太郎)、『ジャズ大名』(演出:福原充則)、NODA・MAP『兎、波を走る』(演出:野田秀樹)、『サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男―』(演出:白井晃)、『パンドラの鐘』(演出:杉原邦生)、『ピサロ』(演出:ウィル・タケット)など多数。待機作に、12月6日から東京・外苑前の日本青年館ホールで開演する舞台『ヴェニスの商人』(演出:森新太郎)がある。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください