「じれったい!」“パワハラ疑惑”兵庫県知事への証人尋問、弁護士が感じた物足りなさ

兵庫県・斎藤元彦知事のパワハラ・贈答品疑惑などを告発する文書をめぐり、今月30日、県議会の百条委員会で知事への証人尋問が行われた。斎藤知事は告発文書で指摘された言動は「必要な指導」などと主張した。しかし、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は斎藤知事の回答には「ごまかし」のおそれがあると指摘し、裁判で使われる効果的な尋問方法を明かした。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

西脇亨輔弁護士が明かす「敵性証人」の攻略法

 兵庫県・斎藤元彦知事のパワハラ・贈答品疑惑などを告発する文書をめぐり、今月30日、県議会の百条委員会で知事への証人尋問が行われた。斎藤知事は告発文書で指摘された言動は「必要な指導」などと主張した。しかし、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は斎藤知事の回答には「ごまかし」のおそれがあると指摘し、裁判で使われる効果的な尋問方法を明かした。

 約2時間半に渡る斎藤知事への証人尋問を聞き、私は何度か声を上げた。

「ああ! そこをもっと突っ込んで聞けばいいのに」

 そんなじれったさを覚えつつ、敵対する立場の証人、いわゆる「敵性証人」を尋問する難しさをあらめて実感した。

 斎藤知事への第1回証人尋問はパワハラ問題が主なテーマ。最初の質問は昨年11月、斎藤知事が出張先で施設入り口の20メートル手前で車を降ろされ、激怒したという疑惑だった。その後の報道で施設の前は車両通行禁止で、車止めがあったことも判明している。証人尋問では斎藤知事がこの件で職員に声をかけたことは認めた後、次のようなやり取りがあった。

質問者「職員に対しどういった発言をされたのでしょうか」

斎藤知事「『車止めをどけるのを失念していたのではないか』ということを申し上げたという風に記憶してます」

 そして、次の質問に移ったのだが、その前にやっておくべきことがあった。斎藤知事に自分が発した言葉を一言一句、覚えている限り再現させることだ。

 脅迫罪や名誉毀損罪と言った「言葉」が要素となる犯罪の裁判では、犯人の発言を一言ひとことを明確にする必要がある。それと同じく今回、パワハラの成否を判断するには、斎藤知事の発言内容を特定すべきだったと思う。

 さらに斎藤知事に言動を細かく説明させることは、「ごまかし」の防止にもなる。裁判では「敵性証人」によるウソやごまかしをあぶり出すため「3つのステップ」を踏むことが多い。

 それは(1)事前に証人の言い分を否定するような「証拠」を集める(2)証人には自分の言い分を詳しく、気持ちよく証言させる(3)そして、その証言に「証拠」との矛盾を見つけて最後に突き付ける……というものだ。そうすることによって「敵性証人」にウソやごまかしがあれば、あぶり出すことができる。

 今回の証人尋問でも、斎藤知事が具体的にどんな「言葉」を発したのかを逐一説明させ、県職員の証言など他の証拠と照らし合わせ、矛盾を見つけたら問い詰める……というステップを踏むことが効果的だったのではないか。

 しかし、斎藤知事は自身の発言を「『車止めをどけるのを失念していたのではないか』と申し上げた」とあいまいにしか説明せず、質問者もその先を問い詰めかった。その結果、斎藤知事は発言の「詳細な再現」から逃げることに成功し、具体的な発言内容をぼやかしたまま「合理的な指導だった」と主張し始めたのだ。

 斎藤知事は他にも「喫茶コーナーの営業時間が過ぎ、店員が退店を求めると『自分は知事なのに、なぜ出て行かないといけないのか』と怒鳴った」という疑惑について、店側から「早く出て行ってください」と言われてびっくりし、「すみません。あの、兵庫県知事です」と名乗っただけだと答えた。

 しかし、斎藤知事の発言は本当に「すみません。あの、兵庫県知事です」だけだったのか。ここでも斎藤知事に発言内容を一言一句再現させ、店員の説明と矛盾があれば「店員がウソをつく理由はありますか?」と問い詰められたかもしれない。しかし、そうした質問はなかった。

 斎藤知事の言動のディテールを詰めていく。そうした事実確認が今回の証人尋問では必要だったのではないだろうか。

 一方、今回の証人尋問で明らかになった斎藤知事の「ほころび」もあった。斎藤知事は20メートル手前で車から降ろされ叱責したことを「当時は車両進入禁止とは知らなかった」とし、自分の言動は「当時の認識としては合理的」と主張した。

ミスのない職員を思い込みで叱責は「パワハラ」

 しかし、この主張には決定的な弱点がある。斎藤知事は叱責の前に「車が20メートル手前で止まった理由」を聞いていなかったと認めた。つまり、斎藤知事は何も確認せず、勝手に職員のミスと思い込み、ミスのない職員「叱責」していたことを認めたのだ。

 業務上の正当な叱責はパワハラではないが、ミスもない部下に勝手な思い込みで怒声を飛ばすのはパワハラだ。しかも、こうした「思い込みの叱責」は何度も起きていたという。斎藤知事は今回の証人尋問で「パワハラを『自白』する証言をした」と私は考えた。

 そして、次回9月6日の斎藤知事への第2回証人尋問は、最重要の疑惑である元県民局長による内部告発の扱いなどがテーマだ。告発者の自死という悲劇はなぜ起きたのか。真相を明らかにするためにも、ステップを踏み、ごまかしの証言があれば問い詰めてほしい。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。今年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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