月の手取りは2万円…ブレイクした田淵累生も経験 「ご飯と納豆ともやしだけ」で過ごした日々

俳優・田淵累生(たぶち・るい)が、公開中の映画『威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~』(なるせゆうせい監督)に出演している。奨学金に苦しむ若者の姿を生々しく描いた社会派の作品。2.5次元舞台など、エンタメ性の高い作品に出演してきた田淵にとっても初めての経験となった。待望の公開に伴い、田淵が同作に懸けた思い、貧困と闘ってきた自身の過去などを語った。

インタビューに応じた田淵累生【写真:長谷英史】
インタビューに応じた田淵累生【写真:長谷英史】

田淵累生 『威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~』に出演

 俳優・田淵累生(たぶち・るい)が、公開中の映画『威風堂々~奨学金って言い方やめてもらっていいですか?~』(なるせゆうせい監督)に出演している。奨学金に苦しむ若者の姿を生々しく描いた社会派の作品。2.5次元舞台など、エンタメ性の高い作品に出演してきた田淵にとっても初めての経験となった。待望の公開に伴い、田淵が同作に懸けた思い、貧困と闘ってきた自身の過去などを語った。(取材・文=大宮高史)。

 大学入学とともに奨学金を背負った主人公・唯野空(池田朱那)は、彼氏との同棲生活も就職活動も上手くいかない。漠然とした不安の中で、闇バイト、すなわち“パパ活”に手を出す――。生々しい現実にフォーカスする『威風堂々』の中で、田淵は空と同じ大学に通う学生の水江聡太を演じている。奨学金制度そのものの廃止を主張する行動力ある学生だ。

「貧困は他人事ではありません。僕には、親が離婚して母子家庭で暮らして、母の収入が不安定で大変だった時期が10代にありました。大学時代には奨学金を借りていました。お金は貸与で返済を『当たり前だ』と思っていたのですが、海外では返済不要な給付型も一般的。こんな現実をもっと多くの人に知ってもらえる映画です」

 1995年生まれの田淵は、2018年にボーイズユニット『ハイスクールチルドレン』に選ばれ、芸能界デビューした。企業の内定を辞退しての芸能界入りだったが、ここでも貧困との闘いだった。

「月の手取りは2万円や3万円。お仕事とレッスンに集中していたので、アルバイトをする暇もありませんでした。ありがたいことに事務所からお米はもらえたので、ご飯と納豆ともやしだけで過ごした時期もあります。俳優の先輩にも助けてもらいながら、演技の経験を積んでいきました」

 19年に舞台『仮面ライダー斬月』、ロックオペラ『R&J』(ロミオ&ジュリエット)に出演。さらに舞台『刀剣乱舞 維伝 朧の志士たち』で人気キャラクターの和泉守兼定を演じてブレイク。その後も舞台活動が続いた。

「僕が観客として初めて見た舞台が『刀剣乱舞』でした。作品自体はもちろん、お客さんが皆、目をキラキラさせて芝居に見入っていたことを強烈に覚えています。2.5次元というカルチャーがあることも知らなかったので、『なぜ、こんなに熱狂できるんだ』と興味が湧いてきて、次第に『自分でやってみたい』と思えるようになりました」

 その後も『文豪ストレイドッグス』の舞台や映画での太宰治役など、マンガ人気キャラクターのビジュアルを作り上げて演じてきた。ただ、『威風堂々』はこれまでの出演歴からはかけはなれた作風だった。

「これほど社会へのメッセージ性の強い映画は初めてです。ゲームやマンガなど、想像の世界を現実にする作品に出演してきて、フィクションをリアルにするプロセスもとても面白いのですが、『威風堂々』では現実世界での自分の体験から役を作っていきました。歌舞伎町にたむろする立ちんぼやトー横(新宿東宝ビルの横)の若者の様子も街を歩いて記憶してきました」

『威風堂々』での水江聡太は、自身の窮状を訴えてネットで募った資金で奨学金を返済する。なるせ監督が求めた人物像は「チェ・ゲバラのような革命家」だったという。

「聡太は正論を訴えているんだけど、なかなか聞き入れてもらえない若者です。僕らの日常でも、正しいことを言う人ってちょっと変わっているイメージがあります。それでも主張だけは皆に聞いてもらないといけません。こう考えて、あえて鼻につく芝居をしてみて“ただものでないオーラ”を醸し出そうとしました」

「奨学金の現実も知りました」と自身にとっても発見が多かった【写真:長谷英史】
「奨学金の現実も知りました」と自身にとっても発見が多かった【写真:長谷英史】

退路を断って飛び込んだ芸能界「決断に報いるために」

 俳優としては「感情の引き出しはかなり多くなりました。役者にはロジカルに芝居をするタイプと感情のままに演じられるタイプがあると思っていて、僕は後者です。ですが、自分を客観的に見て、理詰めで演技をしていける俳優にもならなければと思っています」と分析。年齢を見据えた冷静な向上心も持っている。

「かつて先輩に『20代は感情だけの芝居でもやっていけるけど、30歳を超えると通用しなくなる』と聞きました。舞台上での振る舞いまで、細かく客観的に想像して動けるようになりたいと考えています」

『威風堂々』でも、自分なりの研究をもとにした若者像を大切にした。

「今回、なるせ監督に詳しく作品のコンセプトやアドバイスを聞くことはありませんでした。人の意見を聞きすぎてしまうと、僕の頭の中で勝手に想像がふくらんで、リアルな人物像にならないと思ったので。社会を生々しく描いた映画ですし、僕が目と耳で知った現実をベースにしました」

 退路を絶って芸能界に飛び込んだ。その時に抱いた覚悟は今も変わっていない。

「生活が苦しい時もありましたが、内定を蹴った過去の決断に報いるためにも外の世界には戻れないなと思っています。今はフリーランスでの俳優活動ゆえに、より不安定かもしれません。でも、(外の世界に)未練はありません」

 そして、心のよりどころになっているある思い出も明かした。

「5年前にロックオペラ『R&J』(原作は『ロミオとジュリエット』)という作品にマーキューシオとして出演した時、主演の佐藤流司くんや、ロレンス神父役の陣内孝則さんが僕のことを『お前は絶対売れるよ』と言ってくれたんです。当時は舞台出演2作目でしたが、その後から『刀剣乱舞』のお話があり、舞台の仕事がどんどんもらえるようになりました。出演自体で得たものは大きかったですし、『まず、目の前の作品をやりきろう』と近い未来だけを見据えて活動をしてきて、現在があります」

『刀剣乱舞』では2.5次元のキラキラ感を体験し、『威風堂々』では若者の現実も知った。役柄が広がるとともに、新たな知見を糧にしてきた。

「フリーランスという焦りもあるのか、生き急いでいるかもしれません(笑)。でも、ずっと好奇心をみなぎらせていきたいです。面白い作品に出会えるよう祈っています」

 28歳の田淵は、次なる飛躍の機会をうかがっている。

□田淵累生(たぶち・るい)  1995年9月12日、石川県生まれ。2018年、アイドルグループ・ハイスクールチルドレンのメンバーとして芸能界デビュー。19年に舞台『「仮面ライダー斬月」-鎧武外伝-』で俳優活動を開始。以降、舞台『弱虫ペダル』『文豪ストレイドッグス』 などに出演。今年6月からは舞台「『刀剣乱舞』心伝 つけたり奇譚の走馬灯」で再び和泉守兼定を演じ、9月には舞台『「あの春は、いつまでも青い」-永南高校バスケットボール部-』で主演を務める。180センチ。

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