ALGS実況・平岩康佑氏、注目チームはFNATIC「世界一を獲るなら今回」 国内eスポーツ業界の課題も明かす
バトルロイヤルシューティングゲーム『Apex Legends』の世界大会「Apex Legends Global Series Year 4 Split 2 - Playoffs」(ALGS)がドイツ・マンハイムで29日から9月1日(日本時間)まで開催される。本大会には複数の日本チームも参加。配信も実施され、実況・解説陣が彩りを添える。見どころや国内eスポーツ業界の現状について、実況を務める元朝日放送アナウンサーで株式会社ODYSSEY代表取締役の平岩康佑氏に話を聞いた。
『Apex Legends』の世界大会「ALGS Playoffs」が開幕
バトルロイヤルシューティングゲーム『Apex Legends』の世界大会「Apex Legends Global Series Year 4 Split 2 – Playoffs」(ALGS)がドイツ・マンハイムで29日から9月1日(日本時間)まで開催される。本大会には複数の日本チームも参加。配信も実施され、実況・解説陣が彩りを添える。見どころや国内eスポーツ業界の現状について、実況を務める元朝日放送アナウンサーで株式会社ODYSSEY代表取締役の平岩康佑氏に話を聞いた。(取材・文=石井宗一朗)
――本大会の見どころを教えてください。
「前回初めてAPAC地域のREJECT WINNITY(韓国人選手3人で構成、経営母体は日本)が優勝しましたが、それまで北米チームがずっと世界大会で優勝していました。今回、日本チームが世界一を獲れるのかというところが最大の注目点だと思います」
――特に注目しているチーム、選手は。
「FNATICをはじめ、日本チームが候補にあがってくるのかなと思います。選手はやっぱりFNATICのYukaF選手。国際的にもかなり評価されていて、ここまでFPSプレイヤーで世界的に評価されている日本人は中々いない。ゲーム理解度みたいなところが高い評価を得ていますが、火力も出る選手です。チームメンバーには頭脳も火力も備えたsatuki選手とLykq選手もいますし、FNATICは日本の選抜チーム、オールスターと言っても過言ではないぐらい。世界一を獲るならこのタイミングなんじゃないかなと思います」
――Year4を迎えたALGS。初期と比べ、印象的な変化はありますか。
「最初はレベル感で言っても韓国の選手たちが引っ張ってくれていました。それこそREJECT WINNITYの選手たち(Obly・Karonpe・SangJoon)もそうですけど、T1とCrazy Raccoon(CR)の2チームが引っ張っていて、そこになんとか食らいついていく日本みたいな感じでした。そのバランスもこの1、2年で変わってきて、基本的にはAPAC NORTHの頂点に日本チームがいて、韓国チームと一緒に世界大会に出て活躍するという形が見えてきた。初期に韓国チームから教わったことも多かったように感じますし、数年経ってそれが花開いているのを見ると、すごく感慨深いなと思います」
国内eスポーツの盛り上がり「実績と人気、ともに世界に負けないものに」
――2022年のインタビューでは“実況前の準備の大切さ”について語っていただきました。あれから2年半、平岩さんご自身の考えに変化はありましたか。
「実況に関してはあまり変わらないかなっていうのはあるんですけど、会社の方針としてeスポーツのコミュニティーにどれだけ持続性を持たせられるか、みたいなところはすごく課題感持って取り組んでいます。大和と一緒に、競技シーンの選手にフォーカスした『APEX MASTERS』っていうYouTubeチャンネルを立ち上げて、選手たちが日の目を見る機会を増やしたりだとか。あとはプロ選手だけが出場する『IGL MASTERS』という大会を不定期で開催しています。
オフシーズン中、選手たちの露出がないと、コミュニティーの持続が難しくなる。生活がかかっている選手も多い中、大会を主催することによって、少しでも貢献できたらいいなと思っています。eスポーツの競技の持続性で言えば、一番長くてもリーグ・オブ・レジェンド(LoL)の10年ぐらい。なるべく長く強く持たせるためにどうするかを、個人として、会社として考えています」
――同インタビューでは国内eスポーツのこれからについても語っていただきました。改めて現在の国内eスポーツの盛り上がり、立ち位置について教えてください。
「盛り上がりとしては、もうこれ以上ないぐらい盛り上がったかなと正直思っています。ゲーム業界としてeスポーツが盛り上がっているのは間違いない事実だと思いますし、CRも単体で有料の大型オフラインイベント『CR FES』を埼玉スーパーアリーナで今年やって、2日間で観客5万人を集めました。世界でもそんなことをやっているチームはないですし、“世界一のチーム”になったなと思います。競技での活躍を見ても、格闘ゲームをはじめとして世界で上位に入る選手が多くなっていますし、実績と人気、ともに世界に負けないものになっているんじゃないかなと最近強く感じます」
チーター問題「努力している選手が不利益を被ることは絶対に避けなきゃいけない」
――若年層を中心にeスポーツへの理解は日に日に高まってきていると感じる一方で、上の世代からの理解が得られていないと感じるシーンもあります。業界として今後どのように取り組むべきでしょうか。
「若い人の間で盛り上がっているというのは、1つのゴールだと思っていますが、流行っているけど見てない若い人たちにアプローチしていくのか、上の世代に広げていくのかという部分は難しいところです。年齢層が上の人にアプローチするのはよりハードルが高い。来年サウジアラビアで開催されるオリンピックのイベントなどをきっかけに、eスポーツに偏見を持っている人にも“真剣にゲームやっていることのすばらしさ”みたいなものを伝えていければと思います。
私自身、大会の規模が大きくなればなるほど、“人”にフォーカスした実況をしようと心がけています。ゲームの上手さは中々すぐには伝わらないんですけど、この選手がどれだけ練習して、苦労してきたかといったストーリーは誰にでも伝わる。世界大会、特に決勝の最終日がいつも同接(配信のリアルタイム視聴者数)が多いんですけど、それは一番ライトユーザーが見ている日でもあります。熱は入りますが、難しすぎず、分かりやすい視点で話題を提供するように意識しています」
――『Apex Legends』をはじめ、さまざまなオンラインタイトルにおいてチーターの存在が問題視されています。チーターに対しての見解や、対応すべきだと言われている運営に対して考えていることはありますか。
「悪というか、排除すべき存在だと認識しています。ほかのプロスポーツを見ても、ドーピングなどの重大な違反を犯した選手には、半永久的な参加資格剥奪など厳しい罰則がありますし、eスポーツに同様の規則があって然るべきだと考えています。ただ自宅からオンライン参加となると、本当にチートを使っていたかどうかの判定が難しい部分もあるので、ゲーム会社もできる限りそこの透明性を担保するような、基準や声明みたいものがあると、より信頼感が生まれるのかなと。
ルールがある以上はそこを守った上で最大限手を尽くして勝負するのが面白いところですし、普通に遊ぶ上でもチートは絶対に許されない行為です。何よりチーターの存在によって一番努力しているプロ選手、生活がかかっている選手たちが不利益を被ることは絶対に避けなきゃいけないなと思います」
オフラインイベント急増も主催コストに課題「専用の場所があった方がいい」
――国内でのオフラインイベントもここ数年で急激に増加しました。eスポーツがより身近になった証拠とも言えますが、“変化”を求める声もあります。より発展していくために必要なことは何でしょうか。
「オフラインイベント開催のハードルの高さがかなり目立っていて、専用のスタジアムみたいな場所があった方がいいなと思っています。平場でステージから作って、照明もセットして……となるとすごいお金も日数もかかる。限られた人しか主催できないですし、1回1回の主催コストがすごく高いです。
韓国の『LoL Park』というRiot Gamesがやっている専門施設がすごくいいと思っていて、サイズ感で言うと500人入らないぐらい。『LoL』専用のスタジアムで、平日にもリーグ戦をやっているので、高校生とかが見に来るんです。カフェで宿題をしながら待って、試合が始まったらゾロゾロ入っていくみたいな。
本当にeスポーツ観戦が生活習慣に紐づいているというか、根付いていて、ああいう感じにしていかないと、ビジネス的に見ても1発1発の興行になって、今回赤字で今回黒字でっていう、そういう勝負になってしまう。なので主催ハードルを下げて、その大会のデジタル的なアセットをちょっと持っていけば本格的な大会ができる会場の存在が重要だなと。そういう施設があると、より定期的にイベントを開催するきっかけにもなりますし、ユーザー体験も上がると思います」
――限られた人といえば、最近ですと配信者の加藤純一さんやk4senさんの大型オフラインイベントが印象的でした。
「今はもう超小規模か超大規模の2択になっちゃってるので、その間のミドルサイズのイベントが気軽にできるようなところがあるといいなと思います。投資としてそんなにダメージがないというか……そういったイベントは幕張メッセではやっぱりできないと思うので。
ゲーム会社がやるならプロモーション費として割り切って、コミュニティーとしてやるなら、みんなで集めたお金でできるサイズ感でっていうのが、大型施設だと難しい。だから比較的、気軽にできるような場所があればと。そういった場所を作れるのはRAGEさんだと思うので、ぜひ作ってもらえれば。商業施設の2フロアとかでいいと思うんです。『LoL Park』もそんな感じなんですけど、別にめちゃくちゃ大きくなくてもよくて、ああいうサイズ感のものがあるとすごくいいんじゃないかなと思います」
“会場が揺れる”ほど盛り上がったイベントでの実況「真価が問われる」
――実況をされる際、オンラインとオフラインで意識的に変えている部分はありますか。
「大会によって、どういう人が最終的に見るのかっていうのも含めて変えてはいるんですけど、オフラインだったらお客さんを見るようにしています。視聴者の方が目の前にいるのが一番の魅力でありアドバンテージ。最前列のお客さんを見て疲れているなと思ったら雑談を挟んだり、ちょっと眠そうにしているなと思ったら声を出してスクリーンに注目させたりだとか、そういうところは考えていますね。会場の雰囲気を感じながら実況できるというのは、オフラインのメリットでもありますし、楽しさでもあります。
やっぱりオフラインの方が楽しくて、お客さんが少なくてリアクションが薄い会場だとしても楽しいです。そこをどう盛り上げていけるかみたいなところは、僕らの腕にもかかってますし、『今日なんかお客さん声出てないな、なんでだろうな』と考えながらいつもやっています。でもオンラインだとそれが分からないんですよね。
コメントが盛り上がっていても、コメントしている人は全体で言ったら数%なので、残りの90%以上の人がどんなテンションで見てるのかを知ることはできません。面白がってくれているかどうかは、オンラインだと自分の感覚を信じるしかない……スベってても分からないんですよ(笑)。オフライン会場だったら、ちょっと狙って面白いことを言ってスベったら『反応ないな……』と思って肩を落とせるんですけど、それすらできないのがオンラインの難しさ。そことかはやっぱりオフラインの方が楽しいですし、やりがいもさらに感じます」
――これまで数々のオフラインイベントの実況を担当されています。印象的だった瞬間やイベントはありますか。
「格闘ゲームがここ1年ぐらいずっと流行っていて、会場の人が見てて白熱する瞬間の分かりやすさ……体力ケージが上にあって、今どっちが勝ちそうで、どっちがここから逆転したらすごいのかっていうのが、誰が見ても分かるワクワク感がある。1対1で、選手がよりチーム戦のプレッシャーを感じながら戦って、だからこそ勝った時の喜びとかも大きいですし、そういうのも含めて一番熱量が高いのは格闘ゲームだなって最近思います。
あとは『Apex Legends』も採用されていましたけど、加藤純一さんのイベントとかは純一さんのファンが来ているので、お客さんも一緒にいいものを作ろうっていう一体感がすごく強い。ああいう場はやっぱり実況していて楽しいし、本当に何を言っても反応がいいんで、正直すごく気持ちよくなれますね」
――加藤純一さん主催「配信者ハイパーゲーム大会」の格闘ゲームパートは、“会場が揺れる”ほど盛り上がっていました。
「ああいう時にどういう実況ができるかで、実況者としての底が見えるというか……すごいことが起きてるっていうのは、渦中にいるんで分かるんですけど、そこで何を言葉にして伝えたら、スマホやPCの前で見ている人にも熱量が伝わるのかといった判断ってかなり難しいんです。我々も舞い上がってしまうので。だからある種、ちょっと冷めて見なきゃいけない部分もありますね。ああいう時こそ真価が問われるので、語彙を増やしたりだとか、普段からの準備を大切にしています」
――最後に平岩さんご自身の今後の目標、展望について教えてください。
「それこそ加藤純一さんとか、CRオーナーのおじじとかと話してて思うんですけど、我々は自分でコンテンツを作っているわけではなく、誰かのコンテンツに彩りを添えさせてもらっている立場。なので自分でやって人を集めたいと最近すごく思うようになりました。大会を開くわけじゃないですけど、独自のコンテンツをやっていきたい。今まで実況がついてなかったものに実況をつけたり、いろいろやっていきたいなとは考えています」
□平岩康佑(ひらいわ・こうすけ)1987年9月2日、東京都出身。2009年に米ワシントン州の大学で経営学を学び、大学卒業後の11年に朝日放送にアナウンサーとして入社。プロ野球、高校野球、Jリーグ、箱根駅伝などを担当し、17年にはANNアナウンサー賞スポーツ実況部門で優秀賞を受賞した。報道番組や情報バラエティーにも出演し、ラジオのパーソナリティーも経験。18年に同社を退社し、株式会社ODYSSEYを設立した。国内最大級のeスポーツイベントRAGEなどの実況を担当しながら、eスポーツキャスターの育成にも取り組んでいる。