姉の為に生体腎移植のドナー即決 異色のプロレスラー春日萌花の思い「姉が元気になるならそれでいい」
来年プロレスデビュー20周年を迎える、“闘うお天気お姉さん”こと春日萌花。気象予報士、ラジオパーソナリティなど多才な彼女は、昨年大きな人生の転機を迎えた。それが、生体腎移植のドナーになること。愛する実姉のために、大きな決断をし、そしてプロレスラーとして復帰した今の春日に話を聞いた。
プロスポーツ界初、現役選手が気象予報士に合格
来年プロレスデビュー20周年を迎える、“闘うお天気お姉さん”こと春日萌花。気象予報士、ラジオパーソナリティなど多才な彼女は、昨年大きな人生の転機を迎えた。それが、生体腎移植のドナーになること。愛する実姉のために、大きな決断をし、そしてプロレスラーとして復帰した今の春日に話を聞いた。(取材・文=橋場了吾)
数多くなる資格の中でも、最難関に分類される気象予報士の資格。その平均合格率は5.5%と、相当な狭き門だ。春日萌花は2014年に気象予報士に合格・登録しているが、7回チャレンジしてその夢が叶った。ではなぜ、気象予報士という難しい資格に挑戦し始めたのか。
「東日本大震災で被災した、これが理由ですね。私はその日(2011年3月11日)、全日本プロレスの石巻大会に出場するために、仙台にいたんです。仙台駅で仙石線への乗り換えの途中だったのですが、新幹線のホームから凄い長いエスカレーターを下っていると大きく揺れて。対戦予定だった桜花(由美)さんの携帯から緊急地震速報が聞こえて「宮城県沖で地震だって」という会話はあったんですが、そこまで大きな地震だとは地下だったのでわからなかったんです。でもエスカレーターが全部止まってしまったので、キャリーケースを抱えて上がっていったら……さっきまで自分たちがいた新幹線のホームがめちゃくちゃになっていて。実は仙石線は1時間に1本しかなく、もし1本ずれていたら唯一残った電車に乗っていたんです。
仙台駅で被災して3~4日仙台にいたんですが、土地勘のない中で、仙台の皆さんが本当に助けてくれて。皆家が壊れ物資もなく困っている中で、電気が一か所だけ復旧したところに集まって、携帯の充電をさせてもらって……このときに、何かいろいろな人の役に立ちたいという気持ちが強くなって、ちょっとだけ興味を持っていた気象予報士の資格の勉強を本格的に始めました。単純にいうと『恩返しをしたい』ということです。私は日本が大好きで、その一番のネックである災害が多いという部分を、知識を持つことで事前に知らせることができる、誰かの命を救うことができるのではないかと考えました」
生体腎移植のドナーになることを即決した理由
2005年に我闘姑娘でデビュー、その後プロレスリングWAVEに移籍し、18年からはフリーでさまざまな団体・プロモーションに参戦してきた春日。その春日に、実姉が生体腎移植を必要としているという知らせが入る。
「実は2018年の秋ぐらいに、姉の腎臓の数値が良くないという話は聞いていたんです。でもそのときは、まだ今の数値のままであれば移植は必要ないということでした。ただ、数値が悪化した場合は移植が必要とのことだったので、わかりましたと。それで実際に数値が悪化したのが2023年に入ってからで、(移植のドナーになるというのは)もう即決ですよね。最初に話を聞いたときから、数値が悪くなったら移植のタイミングが来るとわかっていたので。私が腎臓をあげることで、姉が元気になるならそれでいいじゃない、それだけでした」
実姉とはいえ、健康な自分の身体にメスを入れること、そして腎臓を移植することへの恐怖はなかったのだろうか。
「私は大きな怪我はほとんどなくて、脱臼ぐらいしか経験がなかったんですが……プロレスラーだから大丈夫だったんでしょうね。周りが皆”手術の先輩”ばかりなんですよ。皆さん本当に手術を受けている方が多いので『寝てればいいよ』ぐらいにいわれて。実際、全身麻酔で眠って終わりでした」
実は春日の手術は、執刀直前に一度延期になっている。しかも春日の数値の悪化が原因だった。
「姉は先に入院して待ち構えていたんですよ。それが手術前日の検査で私が引っかかってしまって。直前までラジオの仕事もプロレスの試合が入っていて、やっぱりそれは休みたくないので、痛み止めを過剰に飲んだところ腎臓の数値が一気に半分になってしまって。これはあくまで私の仮説であって、お医者さんがいうには風邪をひいたことによる脱水で腎臓にかなり負担をかかったのだと。いずれにしても、姉にはかわいそうなことをしました」
その3か月後の9月に手術は無事成功、今は春日も姉も以前と変わらぬ生活を送っている。
「変わったことは、体力が完全に戻り切っていないくらいだと思います。あと、食事は意識的に変えていますね。以前は食べ放題が大好きだったんですが、今は負担を考えて普通の量にしています。あと、お酒は飲んでいないですね」
(29日掲載の後編へ続く)