“暴走女王”堀田祐美子、全女時代に「あ、死んだ」と思った瞬間 レフェリーから「生きててよかった」
“暴走女王”の異名を持つ堀田祐美子は、今や伝説となった、全日本女子プロレス(全女)の出身者である。全女といえば、令和の今では考えられない“鉄の上下関係”があったことが知られている。今回は堀田に、全女時代のあり得ないエピソードと、堀田の考える、試合で「心を響かせる」ための極意について話を聞いた。
あってはならない悲劇
“暴走女王”の異名を持つ堀田祐美子は、今や伝説となった、全日本女子プロレス(全女)の出身者である。全女といえば、令和の今では考えられない“鉄の上下関係”があったことが知られている。今回は堀田に、全女時代のあり得ないエピソードと、堀田の考える、試合で「心を響かせる」ための極意について話を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
堀田祐美子を、いや全女を語る上で避けては通れない試合が存在する。それは1987年、堀田が宇野久子(北斗晶)と組んで、WWWAタッグ王座の初防衛戦を行った際のこと。先輩だった挑戦者チームはロープ2段目から、まさかのツームストンパイルドライバーを見舞うと、宇野は首の骨を折る重傷に見舞われる。以後、宇野は長期欠場を余儀なくされた。宇野からすれば、デビューから2年足らずで堀田と二人でタッグ王座を巻いたことが、あってはならない悲劇を生んでしまった瞬間だった。
「ホントにヤるかヤられるかっていうか、なんでもそうじゃないですか。それこそ上を目指していくと、エスカレートしていくっていう。周りから望まれるし、自分も望んでいるし。その時は、その先輩たちも、後輩の私たちには絶対に負けたくないって気持ちがあってのことだったと思うんですね。その人も、わざとそれをやったわけじゃなくて、どうしてもベルトを取りたいし、あの子たちよりも私は先輩だしっていう意識が強かったんですよ。その当時の私たち、北斗と二人、注目されちゃったんですよ。ひとつ、ふたつ上の先輩たちよりも上に行っちゃったから、やっぱり悔しかったと思うし。それこそアクシデントだったと思うし。加減がわからなかったんでしょうね。あそこからやったら、重力でああなっちゃうって。だからこそエスカレートした時になってしまったことなのかなって……」
決してあってはならない試合の現場に立ち会った堀田は、当時を振り返りながらそう語ったが、リング上の激しさは、日増しにエスカレートしていくしかなかった。
「私たちも先輩がいなくなって、ブル中野さんがトップでアジャ・コングがいて、北斗がいて、豊田(真奈美)がいて。その時代に『もっとすごい技があれば、ファンがつく』とかって言われて、リング上がどんどん過激になってきたんですよね。でも、過激になった時に、みんな怪我が増えて来て。だって、頭から落とせば、それをお客さんが喜んで、みんながバンバンやってたから首、頚椎を損傷していくんです」
いまだにリングに上がり続ける理由とは
そしてある時期を境に、選手間でそういった危険度の高い技をなるべく控えるような流れが起きた。
「これ以上、過激になっていったら殺し合いになるよねってなって、そこからそれ以上できなくなって……。そしたら技にしてもストップするじゃないですか。でも、そこから低迷したと思います。だから、ずっと上に突き進むのは、プロレスではなかなか無理かなと思いますね」
当時の堀田には「あ、死んだ」と思ったことが何回かあったという。
「ありますね。それは頭から刺さるか、首からグキッていっちゃうとか。金網のトップからバーンて落ちた時に、私は走馬灯を見ましたもん。『ヤバい、私、死ぬー』って下に落ちた時に、重いものから落ちるから頭から落ちるんですけど、その時に足が頭のほうにボーンて行って。その時にレフェリーが『大丈夫か!』って言って、私が『……うん』って言ったら、レフェリーが『生きててよかった』って言ったんですよ。私も生きててよかったと思ったし。それが一番かな」
そう言いながら、さらに堀田は九死に一生を得た話を持ち出した。
「あとはコーナーから投げられた時に、一回転して頭っていうか、オデコのあたりから突き刺さったのかな。その時も『死んだかと思ったよ、お前』って言われて。『お前、丈夫だな』みたいな」
この後、堀田は「何回もあります」とサラッと答えた。そんな危険な場面を何度も経験しながら、いまだにリングに上がり続けている。なぜ辞めたいと思わなかったのか。
「思わなかったですね。リングに上がったら、そういう気持ちはなくなるんですよ。会場にテーマ曲が流れて入場したら、自分のスイッチが入っちゃうんですよね。もしそこで怖いと思ったら怪我をしちゃうでしょうね」
たしかに、試合前に気持ちで負けていたら、リング上での勝利が転がり込むことはないだろう。それは十分理解ができる。
「心でプロレスをしろ」
「だから『気持ちを強く』っていうのは、そこから芽生えたというか。私はよく『心でプロレスをしろ』って言うんですけど、それはすべてが心と連動しているからなんです。『ハートさえ強く持っていたら怖いものはないんだよ』って。それが出せる子は、技なんてなくたって、若いうちから『いい試合をしたね』って周りから認めてもらえる。『何もできていなかったけど、すごく気持ちが伝わったよ』って。それが一番必要なことじゃないですかね」
堀田のリングに向ける心構えが伝わってくる話だ。
「私がよくみんなに伝えることは、一番大切なのは心を響かせることだよって。心が響かせるってなんですか? って言ったら、食べ物でもそうだけど、作る人が本当にこれは美味しいと思って作るかどうか。そういうことって、言葉以上に伝わるんですよね」
さらに堀田は、心を響かせるための方法を説く。
「私は選手には『気持ちを強く持て』と言っていますね。気持ちさえ強く持てば、上の選手にも立ち向かっていけるんだよって。その立ち向かう姿が感動を呼ぶと。そしてその気持ちの強さは何で作れるかって言ったら、練習しかないんですよ。自分をいじめる。自分との闘いにまずは勝つこと。その時に初めて他人との闘いに向かえるんです。だけど自分との闘いをやらずにリングに上がるから、結果は見えているんですよ。つまらない。何も伝わるものがない。それが分かっていない選手がリングに上がったらお客さんも分からない。だから自分を鍛えるんですよね」
そして堀田は、改めて強い気持ちを持つことの必要性を声高に叫んだ。
「私はよく、楽しいっていう言葉を使うんですね。例えば、後輩と試合をした後に、『楽しかったよ、ありがとう』って言うんですよ。楽しいって、遊びの楽しいとかチャラチャラした楽しさじゃなくて、厳しさや激しさも全部含めて、今日の試合は楽しかったと心から言える。言葉の表現は難しいけど、勝っても負けても『楽しかったね』って、そう思えるのがプロだと思うんですよね。だからこそ、まずは自分が強い気持ちを持つこと。それが一番大事だと思いますね」