米韓にルーツのクリスタル・ケイ、米軍基地のそばで育った幼少期「『出る杭は打たれる』感覚を持って育った」

アーティストのクリスタル・ケイが、上演中のミュージカル『RENT』(東京・東急シアターオーブなど)でモーリーン役を演じている。1999年に13歳でデビュー以来、バイリンガルのシンガーとして活動し、演劇界でも注目されている。ブロードウェイと日本の俳優たちによる合作上演の同作への思い、ミュージカルの本場・ニューヨークでの思い出を語った。

『RENT』に出演するクリスタル ケイ【写真:ENCOUNT編集部】
『RENT』に出演するクリスタル ケイ【写真:ENCOUNT編集部】

ミュージカル『RENT』でバイセクシャルのアーティスト役

 アーティストのクリスタル・ケイが、上演中のミュージカル『RENT』(東京・東急シアターオーブなど)でモーリーン役を演じている。1999年に13歳でデビュー以来、バイリンガルのシンガーとして活動し、演劇界でも注目されている。ブロードウェイと日本の俳優たちによる合作上演の同作への思い、ミュージカルの本場・ニューヨークでの思い出を語った。(取材・文=大宮高史)

『RENT』は96年にニューヨークで産声を上げ、世界15か国で上演されてきた。日本では98年に初演され、今回は日米共同キャストが演じていく。主人公のマークには、初演以来26年ぶりに山本耕史が登板。ケイが演じるモーリーンは、マークと恋人関係にもあったバイセクシャルのアーティストという役どころだ。

 ケイは幼い日に、『Seasons of love』をはじめドラマチックな音楽に彩られたこのミュージカルの日本初演版を見ていた。

「まだ小学生でしたが、おぼろげながら見た記憶があります。その時に主演していた山本さんと同じ舞台に立てるのって、素敵です。チャンスをもらえたこともうれしいですし、アメリカのキャストと一緒に全編を英語で舞台を作っていくので刺激になります」

 ミュージカル出演は、2019年にブロードウェイミュージカル『ピピン』の日本版に出演して以来、2作目となる。『ピピン』ではリーディングプレイヤー役。持ち前の歌唱力と演技で、権威ある読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。

「『ピピン』は初めてのミュージカルだった上、リーディングプレイヤーは観客を物語にひき込む大事な役だったので必死でした。キャストもベテランの方々ばかりで、『皆でいいものを届けよう』という空気に満ちていました」

 ケイは13年から15年までニューヨークに拠点を置いて活動していた時、同作のブロードウェイ版を見ていた。

「ほとんど事前に知識もないままに、ふらりと友達と見に行ったミュージカルの中の一つが『ピピン』でした。演出もアクロバティックで、壮大な物語に圧倒されたままに劇場の外で友達を待っていたら、『写真を撮ってもらえませんか』と声をかけられたことがあります。黒い服を着ていて『ピピン』のリーディングプレイヤーの衣装にそっくりだったので、俳優に間違えられていたようです(笑)」

パワフルな歌唱力と演技で国際的にも活躍【写真:ENCOUNT編集部】
パワフルな歌唱力と演技で国際的にも活躍【写真:ENCOUNT編集部】

きっかけは城田優からのLINE

 ニューヨークでの日々は、ボイストレーニングやダンスレッスンも受けつつ、自身の生い立ちや、日本で当たり前だった習慣から解放された経験だったという。

「私は韓国とアメリカのミックスで、米軍基地の近くで育ちました。周りにも同じようなルーツの子どもはいましたが、日本をルーツに持たない子となると私だけでした。10代でデビューしてからも、日本的な『出る杭は打たれる』感覚を持って育ってきたので、ことさらに自分の個性を強調しようとはしてこなかったんです。自分の個性を掘り下げる経験がないまま20代を迎えて、『1度、海外を体感してみたい』という気持ちもあって渡米しました」

 多彩な人々が集まる都市での経験が、考え方を変えた。

「劇場にジャズクラブにライブハウスと、気軽に入れる空間がいくつもあって、表現者の街です。世界中からアメリカンドリームを抱いて若い人が集まっていました。皆、自分をしっかり持っている上に、実力以上に自分をアピールしようという姿勢がすごいんです。日本的な謙虚さは不要で、私も『日本でのキャリアがあるんだから、なぜそれを誇示しないの』と言われるほどでした。初めはこの習慣のギャップにすら悩んでいましたが、演技のアクティングクラスに通うなどして自信をつけました」

 15年の帰国前には「自分の力で形になるものを残したい」と考え、ゼロから自身で企画し、会場を抑えてライブを開催した。

「チケットもソールドアウトして、ニューヨークで私の手でライブを開催できたこと自体が力になりました。現地で知り合った方々は『20年近くも日本語と英語と2か国の言葉で歌を歌ってきたのだから、あなたの人生自体をもっと誇りに思って』と褒めてくださり、個性に自信を持てました」

 その後も音楽をメインに活動していたが、19年に日本版『ピピン』で主演した親友の城田優から届いたLINEをきっかけに、舞台俳優の道が開けた。

「優から『ミュージカルに出ない?』とLINEで誘いがありました。私は舞台に立つなんて、別世界のような話だと思っていたので『まさか』と思いながらタイトルを聞いたら、ニューヨークで見た『ピピン』だったので、『これも縁だ』と覚悟を決められた瞬間でした」
 
『RENT』は複雑なバックグラウンドを抱える若者たちの劇。それだけに、ニューヨークでの経験も生かす気概だ。

「人生を悔いなく生きようともがく若者たちからのメッセージが素敵です。私はアメリカと韓国をルーツに日本で育ち、渡米もして25年間歌を歌ってきました。舞台俳優一筋ではないからこその、等身大の若者らしい生きざまをお見せします。『リアル感』が私のモーリーンとしてのキーポイントです」

 多彩なカルチャーを体感してきたからこそ見せられるパフォーマンス。ケイは、『RENT』の歴史に名を刻んでいく。

□クリスタル ・ケイ 1986年2月26日、神奈川・横浜市生まれ。上智大卒。1999年『Eternal Memories』でデビュー。『Boyfriend -partⅡ-』『恋におちたら』などがヒット。2021年にはカバーアルバム『I SING』を発売する。19年にはミュージカル『ピピン』に出演し、読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。今年、歌手活動25周年を迎え、12月に地元横浜でライブ「CKニーゴー~25 TH ANNIVERSARY」を開催。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください