パリ五輪家族4人で観戦の会社員、円安で膨れ上がった旅費 フランス人からたたえられた“日本のよさ”とは?
日本勢がメダルラッシュを飾ったパリ五輪で、現地観戦に心血を注いだサラリーマンがいる。子どもたちに「この上ない、一生の体験をしてもらいたい」と、奮発。一家4人でパリ8日間の“五輪応援旅”に出た。「円安の影響をもろに受けて、かかっちゃいましたね」。旅費はチケット代や宿泊・交通費など総額約350万円に膨れ上がったという。実は自転車競技に取り組んだ経歴を持っており、筋金入りの自転車マニア。過去に自転車ロードレースの最高峰ツール・ド・フランスをはじめ、北京夏季五輪・平昌五輪・東京五輪の応援に赴いた“現地観戦のプロ”でもある。50代の男性会社員が、パリ五輪観戦記を教えてくれた。
卓球女子団体の準決勝は特等席 米バスケ“ドリームチーム”に圧倒
日本勢がメダルラッシュを飾ったパリ五輪で、現地観戦に心血を注いだサラリーマンがいる。子どもたちに「この上ない、一生の体験をしてもらいたい」と、奮発。一家4人でパリ8日間の“五輪応援旅”に出た。「円安の影響をもろに受けて、かかっちゃいましたね」。旅費はチケット代や宿泊・交通費など総額約350万円に膨れ上がったという。実は自転車競技に取り組んだ経歴を持っており、筋金入りの自転車マニア。過去に自転車ロードレースの最高峰ツール・ド・フランスをはじめ、北京夏季五輪・平昌五輪・東京五輪の応援に赴いた“現地観戦のプロ”でもある。50代の男性会社員が、パリ五輪観戦記を教えてくれた。
2008年北京五輪では野球を、18年平昌五輪では羽生結弦や高木菜那の金メダルの瞬間を、東京五輪では静岡で開催された自転車競技を、現地で目の当たりにしてきた男性。今回のパリ五輪は、約2年前から始まった予約争奪戦の末にチケットを購入。一部はギリギリまで探し、公式リセールで手に入れたという。
卓球女子団体の準決勝ドイツ戦の白熱した試合は、2列目の特等席。「会場のスタッフが顔にペインティングをしてくれました。頬に日の丸を描いてもらいました。東京五輪の時に買った日本代表のウエアを着て声援を送りました」。チケット代は4人で約18万円。日本の勝利の歓喜を分かち合った。試合後、早田ひな、平野美宇、張本美和の3選手が会場を一周して日本のファンに手を振ってくれたといい、「すごくうれしかったです。卓球の皆さんだけでなく、日本の選手たちの奮闘、頑張りに胸が熱くなりました」と振り返る。
お父さんイチオシの自転車競技の会場にも、もちろん足を運んだ。女子オムニアムの梶原悠未、男子マディソンの今村駿介ら選手たちにありったけのエールを送った。「僕自身、大学時代に自転車競技部に所属していて選手経験があります。だからこそ、苦しい時の声援が力になることは分かっています。苦しそうな時、大変そうな時は、なるべく選手の目に入るように、日の丸を振るんです。日本代表の選手たちはいろいろなものを犠牲にして、4年に1度の舞台に立っています。選手たちによる勝負や試合を通して僕たちは元気をもらっています。選手たちへの感謝の思いを込めて応援しています」と実感を込める。
バレーボール女子は日本チームの勝利を見込んで取っていたが、結果的には準々決勝の中国―トルコ戦になった。バスケットボールは、米国代表“ドリームチーム”の夢切符をゲット。「いやあ、会場の熱狂ぶりがすごかったです。レブロン・ジェームズと他のVIPが来場していたみたいで、会場のスクリーンに映し出されたらものすごいフィーバーになりました」。まさに得難い経験だ。
パリ中心部に宿泊 「ちなみに問題になったセーヌ川を何度も眺めてみましたが…」
実は他にもチケットを取っていたが、日程変更や時間調整の関係で断念した試合もあった。公式リセールシステムを使い、損失を抑えることに努めたという。「サッカーは男子のベスト4のチケットをおさえていました。パリから約460キロ離れたリヨンという都市での開催。高速鉄道TGVも始発、宿も予約していました。それでも体力やタイパを考えて泣く泣く取り止めました。TGVは返ってきましたが、宿のキャンセル代は戻らず。チケットはリセールが売れなくて、約10万円は払いっぱなしになりました」。卓球女子3位決定戦のチケットは最前列のものだったためかリセールに成功したが、女子ゴルフも売れ残ってしまった。
そもそも、卓球女子団体の準決勝ドイツ戦のチケットはリセールに出ていたものを、試合前日に買ったものだった。「18万円だったのですが、生で日本代表の試合を見る機会はそうそうない。この経験は今後の人生に必ずいい影響になる。そう信じて、ポチっと買いました。妻からは『アンタ、何その金銭感覚!』と怒られちゃいましたが(笑)」。そして、「旅はケチらない。これが僕の人生の考え方です。普段はかなりの節約生活を送っているので、思い切りました」と付け加える。プライスレスの人生経験を優先した。
ちなみに、現地事情に詳しい人からこんな興味深い話を聞いたという。「どうも、フランスの現地の皆さんは公式リセールをあまり利用せず、地元のネット売買でチケットを手に入れていたみたいです。確かに、サッカーのチケットは地元フランス代表の準決勝の試合で、『フランス代表戦だから、みんな応援に行きたいし売れるな』とたかをくくっていましたが、僕がリセールに出した時点で50件以上だぶついていました。実際どうだったのか分かりませんが、いずれにせよ公式リセールは便利でした」と話す。
現地の生活はどうだったのか。気になるのは予算だ。
実は、長男がそのまま1人でスイスのサマースクールに行ったため、五輪関係の旅費は350万円で、今回の夏の旅全体は450万円ほどになったという。なかなか驚きの資金投入ぶりだ。
日本―パリ往復の飛行機代は大人1人40万円、子ども1人35万円で、合計150万円ほど。8日間の宿泊料は1泊12万円で100万円ほどになった。ホテル代がやや高額だったのには理由がある。「アクセスや周辺のホスピタリティーを重視して、中心地のホテルを取りました。ルーブル美術館の近くで、日本で言うと表参道のような場所です。予約サイトで今年2~3月におさえましたが、直前の方が割安で出ていたので、キャンセル無料期間にキャンセルして直前に予約し直してなるべく浮かすように努力しました。日本のシティーホテルのようなレベルのホテルでした」。
iPhoneの翻訳機能や、Googleマップのリサーチ機能を駆使し、現地の人とのコミュニケーションやおいしい食べ物屋さん探しには苦労しなかったという。それに、警察や警備要員が至るところに配置されており、「自動小銃をかけて歩く姿にはやや緊張感がありましたが、それだけ安全・安心でした。窃盗が怖いなと不安に思っていましたが、我が家は幸い、何の被害にも遭うことはありませんでした。あっ、ちなみに問題になったセーヌ川を何度も眺めてみましたが、青くはないけど、あまり見ない深緑色ではありました……」。パリの街の様子について赤裸々に明かした。
アニメ・漫画が絶大人気 「日本をリスペクトしてくれていることをひしひしと感じました」
だが、ここでも“円安の壁”が立ちはだかった。「もともとフランスは物価高のようで、円安も相まってとにかく高かったです」。驚がくの値段だった。ラーメンを食べに行ったら、1杯約3000円。坦々麺のような味でおいしかったが、値段を見て一瞬言葉を失ったという。スーパーで買ったサーモン丼2200円、パスタ 1250円。スターバックスのカフェオレはべンティサイズで1250円。ビッグマックは単品で1400円ほどで、さらに街中で売られているおにぎり(具はごまとアボカド、照り焼きビーフ)は1個約600円の“高級品”だった。
どうしてこれほど時間と費用のかかるパリ五輪に、現地に赴いたのか。男性は改めて、「これは私の教育の理念ですが、子どもたちにはできる限り早くいろいろな経験をさせたいと考えています。10代前半の彼らが、五輪観戦、パリ旅行、スイス留学を通して世界を見聞することで、この貴重な経験が人生の豊かさにつながります。子どもたちは行く前は『テレビで見ていた方が見やすいし、解説も付いていて分かりやすい』なんて言っていましたが、こうして会場の熱量や空気に触れただけでも、人生の素晴らしい経験になったはずです。だから、父親として思い切りました」と強調する。
エッフェル塔や凱旋門、ルーブル美術館でレオナルド・ダビンチの名画「モナリザ」を鑑賞した。風格漂うビストロでフレンチも堪能した。「一流のもの、最高のものを、一度は経験するべき。これは僕の人生観です。今回、子どもたちに本物を体験させてあげることができたのは、親として本当によかったと思っています」と熱く語る。
家族の最高の思い出にもなった真夏のパリ五輪旅。五輪会場のボランティアスタッフは皆、フレンドリーで優しく、気持ちよく交流ができた。街中では困っていると、通りすがりの人が親切に道を教えてくれた。中には、地元タクシー運転手との料金トラブルが起きたり、「英語で話しかけられてもフランス語しか答えない」といったプライドの高い人に遭遇してしまうこともあった。
それでも、海外に出ることで、人間性豊かなフランスの人たちと触れ合うことで、日本のよさを再認識したという。
「会うフランス人、みんなに『日本は、安全、時間を守る、きれい、物価が安い、暮らしやすい』と言われました。フランスではやはりアニメ・漫画は絶大なる人気で、どこの本屋さんにも日本の漫画がたくさん置いてあります。フィギュアショップも大勢のお客さんが入っていました。日本をリスペクトしてくれていることをひしひしと感じました。こんなに歓迎されるなんてびっくりでした。確かに30年不況が続き、賃金も年収もあまり上がっていません。でも、日本も捨てたもんじゃないな。改めてそう思えました」と実感を込めた。