87歳・里見浩太朗「引退という言葉はない」 反省なしの俳優人生「無責任でもいいから前を向く」

テレビの地上波では時代劇の影は薄くなってしまったが、BS放送では数々の懐かしい作品が放送され時代劇ファンを楽しませている。そのうちBS-TBS『水戸黄門』など放送中の多くの作品に出演しているのが俳優・里見浩太朗(87)。20歳から時代劇の魅力を伝え続けて11月には米寿を迎える。ミスター時代劇と言われる里見に“時代劇の精神”や佐々木助三郎と光圀を演じ今年放送55周年となる『水戸黄門』の舞台裏と魅力、そして自身の今後を語ってもらった。

時代劇への思いを語る里見浩太朗【写真:(C)BS-TBS】
時代劇への思いを語る里見浩太朗【写真:(C)BS-TBS】

8月11日にはBS-TBS『あゝ人生に水戸黄門あり』出演

 テレビの地上波では時代劇の影は薄くなってしまったが、BS放送では数々の懐かしい作品が放送され時代劇ファンを楽しませている。そのうちBS-TBS『水戸黄門』など放送中の多くの作品に出演しているのが俳優・里見浩太朗(87)。20歳から時代劇の魅力を伝え続けて11月には米寿を迎える。ミスター時代劇と言われる里見に“時代劇の精神”や佐々木助三郎と光圀を演じ今年放送55周年となる『水戸黄門』の舞台裏と魅力、そして自身の今後を語ってもらった。(取材・文=中野由喜)

 以前、「時代劇の精神を若い世代に伝えたい」と話していた記事を読んだことがある。ズバリ「時代劇の精神」とは?

「時代劇の精神とは子どもの時の夢です。我々も子どものときに漫画の本を読みましたが内容はチャンバラでした。チャンバラの漫画しかありませんでした。チャンバラに魅力を感じ、遊びもチャンバラで、それに夢を抱いていました。大人になってその夢をかなえてくれたのが時代劇映画。嵐寛寿郎さんの『鞍馬天狗』、大河内傳次郎さんの『丹下左膳』、市川右太衛門さんの『旗本退屈男』、それから片岡千恵蔵先生、長谷川一夫先生、そういう方たちが映画で子どものころの夢をかなえてくれました。夢をその方たちに頂いて、夢の中に浸る時間を作ってもらいました」

 7月中だけでもBS放送で『大江戸捜査網』、『長七郎江戸日記』、『八百八町夢日記』、『水戸黄門』など里見自身が“夢を提供”してくれた出演作品がズラリと放送されていた。

「本当にうれしいです。視聴者の方に見ていただく機会を提供してくれる各テレビ局に感謝しています。時代劇ファンの方は喜んで見てくれていると思います。衛星放送で多くの時代劇が放送されるということは、時代劇を好きな人たちが相当数いるということ。すごくうれしいです。20歳ぐらい若くなってもう1回撮り直したい思いです(笑)」

 あふれ出る時代劇への熱い思いを感じる。

「日本人の娯楽の原点は時代劇にあるんです。自分たちの先祖が生きてきた、過ごしてきた時代を再現し、そこに夢を盛り込んでくれています。それが時代劇です。僕は来年、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』に出演しますが、町人の世界を描く作品がどう評価されるかとっても楽しみです。時代劇の好きな人なら聞いたことのある名前がたくさん出てきます。皆さんの興味が広がり掘り下げてみたくなると思います」

 8月11日午後7時からBS-TBSで『水戸黄門』の放送55周年記念特別番組『あゝ人生に水戸黄門あり』が放送される。歴代出演者が撮影当時の思い出などを語る。里見は71年からあしかけ17年助さんを演じ、2002年からは五代目・光圀を9年間演じた。まず『水戸黄門』の魅力、長く愛されてきた理由を聞いてみた。

「日本人の心の教科書であり、日本人の心を『水戸黄門』の中で見てくださいという作品になっています。古い言葉で言えば道徳とか修身をもって作ってきました。人は道徳と修身に逆らってはおしまい。逆らえない人間でなければいけない。それを『水戸黄門』という番組を通して教えているんだと思います。物事が理解できる子どもから理解できなくなったお年寄りまで楽しめる番組です(笑)」

 十数年前、『水戸黄門』の地方ロケを取材した際、宿の大広間で出演者から若いスタッフまで制作陣の一体感を感じる光景を見たことがある。

「僕が助さんを演じ、東野英治郎さんや西村晃さんが光圀を演じていた時代も地方ロケではいつもスタッフ全員でご飯を食べていました。みんな仲が良かったですね」

 まさに同じ釜の飯を食う仲間。あらためて印象に残るエピソードを聞くと意外な言葉が返ってきた。

「僕は65歳で黄門を引き受けました。65歳は現実的にはいい年ですが、僕は、まだ自分は若い、まだ黄門をやる年ではないと思っていました。でも役者ですから引き受けました。すると監督から『浩ちゃん、若い。目が若い。歩き方が若い』と最初の5年間、70歳になるまで何度も言われました。確かに自分で見ても歩き方が若いんです。僕も東野さんの老練な“老い”が欲しかったのですが、なかなか出ませんでした。どうして東野さんのあの柔らかい“老い”が出ないのかと本当に悩みました。僕は88歳になりますが周りから歩くのが速いと言われます。振り向く動作1つにしても、黄門の衣裳を着てひげをつけても知らないうちに普段の動きが出るんです。最初の5年間はいかに“老い”を出すかに本当に苦労しました」

 11月8日に名古屋・御園座にて『水戸黄門』の初日を迎える。今年3月に上演した舞台が大好評につき再演が決まったものであり、原田龍二、合田雅吏のほか、水森かおり、市川由紀乃らも出演する。見どころを聞いてみた。

「お祭りですから。お祭りと思って見ていただけますと楽しいと思います(笑)」

 いつまでも里見の時代劇を見ていたいと願うファンは多いはず。

「新しい時代劇の作品を、僕でなくてもいいので誰かにやってほしいと思います。そこに僕も少しだけでも顔を出せたらうれしいです。里見浩太朗に引退という言葉はないです。生涯現役です」

 最後にこれまでの俳優人生を振り返ってもらおうとしたが……。

「僕の性格上、振り返って反省することはないです。過ぎたことは終わり。前しか向きません。僕は失敗を悔やみません。失敗して悔やんでも過ぎたことですし、時間は戻りませんから。これからのことを考えればいいんです。失敗したら二度と同じ失敗をしないように考えればいい。難しいことですが、それで、くよくよしない人生になるんです。人間くよくよしても仕方ない。過ぎ去ったことは戻りません。無責任かもしれませんが、無責任でもいいから前を向きましょう(笑)」

□里見浩太朗(さとみ・こうたろう) 1936年11月28日、静岡県富士宮市出身。56年に「東映第三期ニューフェイス」として芸能界入り。57年、『天狗街道』で俳優デビューし、『金獅子紋ゆくところ』で初主演。多くの東映時代劇に出演後テレビの時代劇に進出。71年からTBS系『水戸黄門』の佐々木助三郎を、83年から日本テレビ系『長七郎江戸日記』で松平長七郎を演じ、2002年からは『水戸黄門』の5代目光圀を演じて人気を得た。舞台は77年の御園座8月特別公演『大江戸捜査網』から座長公演を開始し毎年、東京、大阪、名古屋で『里見浩太朗特別公演』を上演。95年に発売した『花冷え』のヒットにより歌手活動も行っている。

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