【超RIZIN】UFC殿堂入り果たした唯一の日本人・桜庭和志でも…関係者による“歴史”への啓蒙は急務

格闘技イベント「Yogibo presents 超RIZIN.3」(7月28日、さいたまスーパーアリーナスタジアムバージョン)が終わって6日が過ぎた。会場には過去最高となる4万8000人以上の大観衆を集めたほか、メインの朝倉未来VS平本蓮戦を含め、衝撃の結果が出たものも少なくなかったが、試合とは別に最も衝撃を受けたのは、“グレイシーハンター”桜庭和志がリング上にあいさつに現れたことだった! 今回はこれについて考えてみた。

久しぶりにRIZINリングに上がった桜庭和志(右)と息子の大世【写真:山口比佐夫】
久しぶりにRIZINリングに上がった桜庭和志(右)と息子の大世【写真:山口比佐夫】

「礼をして、相手を尊敬してやるのが格闘技」(桜庭)

 格闘技イベント「Yogibo presents 超RIZIN.3」(7月28日、さいたまスーパーアリーナスタジアムバージョン)が終わって6日が過ぎた。会場には過去最高となる4万8000人以上の大観衆を集めたほか、メインの朝倉未来VS平本蓮戦を含め、衝撃の結果が出たものも少なくなかったが、試合とは別に最も衝撃を受けたのは、“グレイシーハンター”桜庭和志がリング上にあいさつに現れたことだった! 今回はこれについて考えてみた。(文=“Show”大谷泰顕)

「最近のトラッシュトークみたいのはダメですよ。格闘技ははっきり言って喧嘩じゃない。そこら辺は興味ないっていうか、そっちの世界に入りたくない。やっぱりちゃんと礼をして、相手を尊敬してやるのが格闘技だと思ってるので、口で『てめぇこの野郎』とかはその辺の街の喧嘩で好きじゃない。そういうのもあるから最近の格闘技を見なくなったのはあるかもしれないです」

 昨年9月10日、横浜アリーナにて開催された「ReBOOT~QUINTET.4~」の直前、大会に向けた取材に桜庭和志はこう答えていた。

 この発言は賛否を呼んだが、こうしたスタンスにあった桜庭だけに、今回の「超RIZIN.3」に来場した桜庭にどんな心境の変化があったのかと驚いた。

 桜庭和志といえば、かつては「最強」との呼び声が高かった、グレイシー一族を次々と撃破した伝説のファイターである。

 とくにホイス・グレイシー戦(2000年5月1日、東京ドーム)では伝説に残る90分(15分6ラウンド)を闘い抜いてホイスから激勝し、その年にはプロレス大賞のMVPも獲得したばかりか、日本人として唯一のUFC殿堂入りを果たした男(2017年7月6日に米国での式典に参加)でもある。

 RIZINの旗揚げ戦(2015年12月29日、さいたまスーパーアリーナ)では青木真也戦でメインを務め、その後も、2回ほどグラップリングルールでRIZINに参戦。最後の参戦は「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2017 バンタム級トーナメント&女子スーパーアトム級トーナメント 1st ROUND -秋の陣-」(2017年10月15日、福岡マリンメッセ)で、この時はやはりレジェンドファイターであるフランク・シャムロックとのグラップリング戦だった。

 だがこれ以降、RIZINとは縁がなく、自身が立ち上げた5人1組でのチーム対抗戦によるグラップリングイベント「QUINTET」や、プロレスリング・ノアでの活躍が主となっている。

所英男の勝利を喜ぶ桜庭和志【写真:X(@KS_SAKU39)より】
所英男の勝利を喜ぶ桜庭和志【写真:X(@KS_SAKU39)より】

いちいちダメ出しする桜庭

 今回、桜庭がRIZINのリング上であいさつを行った理由は、年末にRIZINデビューに向けて練習を続けている、息子の大世(桜庭いわく「秘密兵器」)を紹介するのが目的だった。桜庭はその際、親子でSAKUマスクをかぶって現れたが、これまでの経緯を考えると、やはりこれは“事件”に相当するものだった。

 実は桜庭は、大会当日の午後10時13分、自身のSNSアカウントに「さいたま! 所英男の試合に間に合いました。英男、おめでとう! オー!!! オレも引退してないから、引退試合はオレとやろう!」と投稿していることから、目的は「QUINTET」でも共に活動している、所が引退をかけての試合だったことを聞きつけ、それが気になっての来場だったと思われた。

 だが、桜庭と会場で接触したと思われる、「巌流島」の谷川貞治プロデューサーが、大会翌々日の7月30日、午前9時10分に投稿した自身のXでのポストによると、「サクちゃん(桜庭和志)と超RIZINをしばらく見てて、平成のレジェンドにRIZINがどう見えるか、実に興味深かったが、いちいちダメ出しするのがめちゃくちゃ面白かったww」とあることからも、桜庭にとっては基本的なスタンスは変わらず、いろいろと気になることがあるようだ。

 また、同会場の客席にいた格闘技好きの編集者・箕輪厚介氏が大会の翌29日、午後3時すぎに投稿したポストによると、「昨日のRIZINで桜庭さんが出てきた時のリアクションの少なさに時代の流れを感じた。僕がPRIDE見てた時にUの選手とかが出てきて周りのおじさんが盛り上がっててポカンとしたが、もう僕はそっち側か」とあり、世界的にはMAXで評価されてきた桜庭が、それほどの大歓声で迎え入れられていなかったことがうかがえる。

 SNS上には、会場にいた人物の似たような書き込みも見かけたが、裏を返せば、それはいかに昨今の格闘技界の新陳代謝がうまく進んだか、という事実とは別に、“歴史”に関する啓蒙がなされていないことの証明でもある。言ってしまえば、“最強のメジャーリーガー”堀口恭司とは別の意味で、桜庭以上にMMAに対する貢献度の高い選手はいないにもかかわらず、それが目に見えるカタチで今のファンには認識されていなかったとしたら、とくに往年のファンには複雑な心境に陥る話でしかない。

年末の「出て来いや」を桜庭に!?

 そうかと思うと、前述の谷川氏は、やはり試合翌日7月29日、午前8時過ぎに「僕はPRIDEでこのマスクが出るだけでいつもウルウルしてたんだよ。ノゲイラや、ヴァンダレイなど、体重が20キロ以上差があり、しかもドーピング全然アリの時代にボロボロになりながら、闘っていた姿は今のファイターにもぜひ見てほしいよ~!! 大晦日『出てこいや!!』やって」とポストし、桜庭がかぶってきたマスクを片手にした写真を添付している。

 ドーピングに関してここまで赤裸々に公にしてしまう谷川氏も驚きだが、たしかに昨年、高田延彦キャプテンがRIZINを卒業してしまったため、その代わりを桜庭が務めるのは面白いかもしれない。

 かといって「出てこいや!!」はあくまで高田キャプテンがかつて口にした言葉をそのまま使ったもの。それだけに、もし桜庭が同じ役割を担うとしても、桜庭らしい言葉を用いたほうがよいとは思うが、昨年あった桜庭の言動の真意を考えると、そもそも論として、桜庭のような唯一無二のレジェンドが、当たり前のように格闘技を見たいと思わせない業界の流れには、一抹の寂しさを禁じ得ない。

 これがプロ野球や大相撲なら、記録を乗り換える度にそれまでの記録保持者にスポットが当たるし、もう少しファンの間にも“歴史”に対するリスペクトや興味関心が備わっているはず。

 だからこそ、できうることならRIZINに限らず、他の格闘技に関しても、関係者が再度、“歴史”を活用できるよう再考を願えることを望んでやまない。というのは、桜庭が息子を「秘密兵器」と評すると期待度が高まるのは、桜庭にそれだけの想いを託したファンが数多く存在したからだ。

 ならば、関係者が“歴史”をつなぐ努力をさらに強化し、これ以降も怠らなければ、今よりももっと多面的に格闘技を幅広い層に届けることができる。たしかに地上波での中継が途絶えた今、そうやって各世代に格闘技を届けることが難しくなってきたものの、それでも過去最高の観客動員を果たしたのだから、それは必要ないという考え方もあるだろう。

 だからといって、中長期的に考えれば、さまざまな層を取り込んだほうがより大きなビジネスにつながる可能性はあるはず。何より最低限の“歴史”の流れを顧みずして、当該ジャンルが栄えるとは到底思えない。その意味でも、さらなる“歴史”への啓蒙は急務と考える。

 もう一歩踏み込むと、RIZINでの桜庭のあいさつは、息子である大世を使って、桜庭がRIZINと現在の格闘技界の流れに対する“宣戦布告”を行ったと考えると、また違った視点で興味が湧くが、果たしてどうなるのか。年末までの動向が注目される。

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