青木真也「伸びていない自分と向き合うのはきつい」 加齢との戦いで得た“強さ”【青木が斬る】

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動。連載3回目のテーマは「加齢」。

連載3回目のテーマは「加齢」【写真:山口比佐夫】
連載3回目のテーマは「加齢」【写真:山口比佐夫】

連載「青木が斬る」vol.3

 2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動。連載3回目のテーマは「加齢」。(取材・文=島田将斗)

 ◇ ◇ ◇

 世代交代はどの業界でも起きる。特に格闘技は1対1の対決であるため、年齢差やキャリア差が注目され、ベテランが若いファイターに敗れると「世代交代」の重さがより増す。

「社会と格闘技は別とは思わんよ。20代は徹夜できて朝から晩まで働けます。吸収もします。30代も同じくいけるでしょう。40代になってきて『あ、徹夜無理だ』って。『頭働かないな』って思うでしょ? 全くもって同じです。ただ、より俺たちの方が“結果”に出やすいですよね。それは年齢、経験関係なく同じルールで戦っているから」

 違うのは社会人は「働き方と競技を変えられる」ということ。

「社会人は役職が変わる。現場からマネジメントに変わるだとか、現場なんだけど、真打登場的にポイントで勝負することもありえる。それが嫌で競技を変えない人が独立してフリーのアナウンサーだとかライターになったりする。でも、MMAやスポーツ選手は競技が変えづらいんですよね」

 40代を超えてスポーツ選手を続けられるケースは少ない。なぜ青木は長く選手ができているのか。この問いに「競技を変えているからですよね。以上、終わり(笑)」とひとこと。さらにこう続けた。

「競技って文脈から、他の引き出しを作っている。生き方だったり、芸事っていう競技に変えたんですよね。俺のことを嫌いな人はそこみんな嫌うでしょ。『そんなこと言われても』ってね。でも俺は長く続けるために競技を変えたんだよ」

 アスリートの体内時計は一般人とは違う。コンタクトスポーツとなるとより体に負担がかかる。「競技だけをやり続ける選手がいる。でもそういう人は苦労するんだよ。俺は変えたんだよ。社会人と格闘技選手、まさに違いはあれど、実はやっていることは変わらないんですよ」と強調した。

最初に感じた衰えは「回復力」

 とはいえ「加齢」を無視しているわけではない。30代半ばに始まった体の変化を明かす。

「フィジカル的な加齢を感じたのは30代後半かな。徐々に感じていたのは30代半ばくらい。最初は『なにかおかしいな』って感じなんだよね。分かりやすいのは前、ABEMAのONEチャンピオンシップ中継の仕事が深夜にあったじゃない。あれをやると2日3日調子が悪いみたいな。疲れが抜けづらいとか大きなダメージを負ったときの回復が遅れるというのがありましたね」

 若いころのようなハードな練習をこなせなくなった。「反応とかも遅れてはいるんだろうけど、それを『遅れた』と感じる瞬間はあまりなくて。とにかく回復力ですね。だからドーピングをする人がいるんだよ」と振り返る。

 精神的にも変わった。若いころは目標のために「やるぞオラ」と体にムチを打ち、練習することができたが、その気持ちが段々と落ち着いてきてしまう。

「意欲が落ちているんだ。俺もバイタリティーがある方だけど落ちてるね。『ぶっ殺してやる』とは思わないね。前に行かないようになってる。それも怖いことだよ。意欲がなくなるってことは練習に行くのがつらいなって思うこと。体がきつくても昔はそれをかぶせる意欲があった。『取るためにやるぞオラ』ってね」

 抗いようのない壁だ。ここで加齢を無視することもできたが、青木の場合は一度立ち止まった。

「ドーピングを考えなかったのは、結局その時にある壁と向き合っていないと、人は後でそのツケが回ってくるのよ。“衰えていく”ってことと俺は向き合った。それによって自分自身がどう生きていくか、社会とどう向き合っていくかを学んだんですよ。ドーピングをするとその学びはない。結果は出るかもしれないけど、学びがないわけ。それは一番意味がないことだと俺は思う。ドーピングは加齢から目を背けることじゃん。目の前にあることを一生懸命にやらないんだよ。それがすごく問題」

 格闘家として新たな技術を手に入れるのか、練習量を変えるのか。考えた末にたどり着いたのは「量を減らす」ことと「自分に期待をしないこと」。

「みんな『まだ成長できる』って言うんだよ。統計的に見てできるわけねーじゃん。だって衰えていくんだから。『落ちていくんだ』と目をつむらずにしっかりと目の前のことに向き合う。(展開の)組み合わせでごまかしていくしかないな。作戦でごまかすしかないなってことを考える」

 無駄をそぎ落としシンプルに。「機能美」を求め、量を減らして質を上げていく方向にシフトした。

「自分でもめちゃくちゃ感じ悪いと思ってるんだけど、練習で若い子が『お願いします』って来て、自分勝手な練習をされたと思ったら露骨に嫌な顔をするし、その選手とはもう練習しない。これがなぜかというと、練習量を減らして例えば1日6本と決めたのならその1本は無駄遣いをしたくないんです。自分にとって良い練習っていうのは、攻防が生まれてお互いにトライの数があること。自分勝手に守り逃げるだけなことをされると運動になっちゃう。練習だから、PDCAが回らないとね」

「加齢」と戦い得た新しい引き出し【写真:山口比佐夫】
「加齢」と戦い得た新しい引き出し【写真:山口比佐夫】

無人で完結しつつある世の中も「ちゃんと人付き合いをした方がいい」

「手札と策略が圧倒的に増えましたね。だからどんなものでも形にできる自信がある」と胸を張るが「加齢」という現実は重たいものだった。「やっぱりキツイですよ。伸びていない自分と向き合うことはきつい。同じ実力、能力だったら若い方のチャンスが多い事実もあるわけで、やっぱりいかんともしがたい辛さはありますよね」とうつむく。

 どのように向き合ったのか。「座禅」を例に説明した。

「座禅って自分に集中することだけではなくて、他のものを感じることによって自分が浮き彫りになること。他を知って、多くのものに触れ、自分を浮きだたせることによって『俺は大丈夫だ、青木真也できてるな』って自信があるわけですよ。いろんなものに触ったが故のものですよね。本当に自身で多くのものに向き合うってことを大事にした方がいいですよね。それをうかつにすると絶対にツケがくるから」

 人との関わりも大切なことのひとつ。さまざまなサービスがネット上で完結し、人に触れないことこそが合理的だという風潮もある。

「本当に気持ち悪い話だけど、合理主義になりすぎず、ちゃんと人付き合いをした方がいい。人が好き、自分のものにしたいとか。うまくいかなかったらちゃんと向き合えていますか。そこにフタをしてきたやつらは苦労しますよ。都合がいいと思って、気持ちにフタをして2番手の女でいいって人は苦労してるもん。

 男だってそう。俺はちゃんと格闘技をやって、誰かを愛してきてる。それなりに失敗をしてきたが故に学びがある。そこで得た学びは自分の中で納得がいってる。俺は結婚して、最後までそれを完結できなかったことに対する負い目と諦観と諦め、全部を持っての今だから」

 さらに「格闘技でも俺はちゃんと自分で目指したものに対して夢破れてきているし、負けてきているし。そこに対する『俺はやることやったけど、かなわなかった』っていうのには向き合いがある。自己承認欲求をこじらせたみたいなことはないと思いたい。何か一生懸命、自分が思ったことを完遂して、結果なんてどうでもいいんだよ。振られようが失敗しようが、勝とうが負けようが、『やった』ってことが大事」と熱くなった。

 そしてもうひとつ「加齢」に向き合うために必要なこと。それは「余暇時間」だ。青木の場合は東京を離れ「地方に行く」ということ。普段感じられないものがあるという。

「休むのが効果的だね。なんで俺が最近地方に行く時間を増やしているのかというと、普段と違うところに行って何か違うものを見て感じることによって自分を浮き彫りにするんですよね。自分は何を感じていて、何をしたいのかが見えてくることもある。それがすごく強いです」

 誰しもが直面する老い。「とにかく一生懸命やりなさいって。やれるだけやって向き合って、ちゃんと負けなさい、ちゃんと勝ちなさい」。表情は穏やかだったが、その言葉の節々には力がこもっていた。

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スポーツ選手は競技を続けられる期間は限られている。ピークを過ぎれば能力は下降していく。「果たしてそれは幸せなのか?」が今回のテーマのスタートだった。しかし、それは一本槍で戦っている者の話で青木真也のように年齢を重ね、障壁にぶつかる度に武器を増やせるかどうか。自分はどうだ。まさに越えられなさそうな壁にぶつかっている今、考えることをやめてはいけない。

□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。

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