業界歴47年のマリーゴールド小川代表が排除してきたものと蘇らせたいもの「一番偉いのは客を呼んできた人」

年頭から物議を醸しつつ旗揚げした、新団体マリーゴールドは、常に何かしらの話題を提供しながら、ここまで運営を続けてきた。ロッシー小川代表は業界歴47年を数え、13日には両国国技館大会を開催したが、それは、日本武道館大会を開催したプロレスリングノアとの「興行戦争」でもあった。これはすなわち、かつてのマット界では登場回数が多かった「興行戦争」をよみがえらせたことになる。そこで小川代表に、改めて女子プロレス界によみがえらせたいものとなくしたいものを聞いた。

旗揚げから54日後には両国国技館大会を成功させたロッシー小川代表
旗揚げから54日後には両国国技館大会を成功させたロッシー小川代表

ジュリアとSareeeがタッグを結成

 年頭から物議を醸しつつ旗揚げした、新団体マリーゴールドは、常に何かしらの話題を提供しながら、ここまで運営を続けてきた。ロッシー小川代表は業界歴47年を数え、13日には両国国技館大会を開催したが、それは、日本武道館大会を開催したプロレスリングノアとの「興行戦争」でもあった。これはすなわち、かつてのマット界では登場回数が多かった「興行戦争」をよみがえらせたことになる。そこで小川代表に、改めて女子プロレス界によみがえらせたいものとなくしたいものを聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

「マリーゴールドだとそれ以上の絡みはたぶんないんじゃないかな。あんまり(ジュリアが日本にいる)期間もないから、こっちの選手ともやってもらわないといけないからね」

 まずSareeeがジュリアに勝利し、令和女子プロレス最大のキラーカードを使ったばかりにもかかわらず、今度は両者がタッグを結成する流れになっていることについて、展開が早すぎるのではないか、と小川代表に振ると、そんな答えが返ってきた。

 それにしても、タッグマッチながら旗揚げ戦でSareeeがジュリアに勝利し、一騎打ちでもSareeeが連勝を果たしたばかりか、新設されたワールド王座までSareeeが手に入れるなんて、まったく想像もできなかった。

「(ジュリアは)怪我から開けたばかりだから、なかなかSareeeに勝つのは難しいよね。ただ、Sareeeが勝ったことで、今度はマリーゴールドの誰が取りに行くのかっていうのが注目になるわけだから」

 そうは言っても、ジュリアに勝って新王者になったSareeeに対して、当日は誰も対戦の名乗りを上げる選手がいなかったのはなぜなのか。

「プロレスは次の展開を想像させることも大事な要素。ただ、メインのあの終わり方に割って入って、『次は私だ!』ってやるのはなかなか難しいよね。だってあの日は林下詩美だってボジラだって負けているわけだから」

 それでも結果的にジュリア対Sareee戦後に会場が大爆発という雰囲気にはならなかったのは、昨今のバッドエンドを嫌うプロレス界の風潮に一石を投じたのではないか、とも思えた。

 すると小川代表は、「大会全体がよかったから、そこはあんまり気にならないかな」と答えたが、さまざまな意味でマリーゴールドが注目されていくのも、それが昨今の業界の流れとはひと味違ったものを感じさせるからだろう。要は、マリーゴールドによって業界によみがえったものが、あちこちに散らばっているからに他ならない。

ロッシー代表(左)はジュリア戦に勝利し、初代ワールド王者となったSareee(中央)とその師匠・伊藤薫との記念写真に収まった
ロッシー代表(左)はジュリア戦に勝利し、初代ワールド王者となったSareee(中央)とその師匠・伊藤薫との記念写真に収まった

全女時代には、理不尽な話が数多くあった

 振り返ると、全日本女子プロレス(全女)からはじまった小川代表の業界歴は、前述通り47年を数えるが、その間、1997年にはアルシオンを立ち上げ、2011年にはスターダムを立ち上げた。そして「スターダムを作った時は、年功序列だったリング上を変えてきましたね」と語った。

「やっぱり普通に子どもの頃からプロレスを見ていて、全女を見た時に、斬新だなあとは思ったこともあったんだけど、見続けていくうちに、これはおかしいなって思ったこともあったんですよ。試合の上でのこともあるし、内部的なこともあるし。というか全女に入って思ったことは、おかしなことだらけだったなって。いらないものばっかりだったよ」

 だからこそ「全女時代には、理不尽な話が数多くあったから、そういうことは嫌だなと思いながら、新しい団体をつくりましたね。最初に作った団体、アルシオンはそうでしたよ。ここにいちゃダメだと思って。(全女は)理不尽極まりないんですよ」と話し、実際にあった具体例を明かした。

「昔ね、日帰りの大会にバスで行こうとしたら、たまたまその大会に行かないで残っていた選手が5、6人そこにいて。バスが到着する30分前から立って待っているんですよ。こんなことする必要があるのかなって。だから、そういうどうでもいい『圧』があったんですよ。それをどんどん自分たちは排除してきたから」

 もちろん、公にできる範囲の話がこの程度であって、他にも令和の今では考えられない、数多くの理不尽が横行していたに違いない。

「非常識でしたね。世の中では通じない話ばっかり。ただ、当時は(全女の経営陣だった)松永兄弟がいいって言えばいいんじゃないって思うしかなかった。我々は使われていただけだったからね。それと試合数も多かったから、選手にしても束縛が多かった。年間、ほぼ試合をやっているわけだから。たぶん松永兄弟が、興行が好きだったんでしょうね」

 たしかに、年頃の女子が数十人、不自由さを抱えている状況が続けば、時には、今では考えられないような理不尽さを常識としなければ、それを統率していくことは難しかったのかもしれない。

 とはいえ、過去に目撃してきた理不尽さを徐々に排除してきて今がある、と小川代表は証言した。

「いまだにあるんですよ、そういう上下関係が。でも、一番偉いのはお客さんを呼んでいる人なんですよ。偉いって言ったら変だけど……」

 ここまで話した小川代表は「じゃあウナギ・サヤカが一番偉いかっていったら偉くないですけどね」と、笑いながら付け加えると、 さらに「最近でもなくしてきたものもあるんだけどね」と、以下の例を挙げた。

よみがえらせるためには、まず思い描くこと

「たとえばムダなセコンドとか。選手がリングから外に飛ぶ時に、セコンドがサポートしたりするじゃん。あれは必要ないから。そんなことをやっているのは日本の女子プロレスだけ。ああいう世の中のプロレスにはないものが、普通に日本の女子プロレスにはあったりするんですよ。それはファンが見た時には違和感になるから、そういうものはなくしていきたいね」

 そうやって、なくしていきたいものがあるかと思うと、前述通り小川代表は「興行戦争」をよみがえらせてもいる。来年1月3日には大田区総合体育館での大会が発表されたが、これはスターダムの東京ガーデンシアター大会との「興行戦争」となる。双方とも開始時間を調整中のため、真っ向勝負の「興行戦争」になるかは現段階では不明だが、実際、「年末にもスターダムの両国大会の前日に両国大会やろうと思っていたけど、どっかが入っちゃった。もし実現していたら、両方とも注目されるんだけどね」と話していたことから、小川代表は「興行戦争」は業界全体にとって決して悪いことだとは思っていない。

 むしろ、「久々に聞くフレーズだから面白いでしょう」と考えているが、それ以外にも「よみがえらせたいこと」はなにがあるのか。

「子どもの頃、ワールドリーグ戦でタスキをつけているとワクワクしたもんですよ。だからマリーゴールドでもリーグ戦とかそういう時にはタスキをつけて入場するとか、そういうのは前の会社(スターダム)ではやれなかったのでやりたいなとは思うね。特別感があると思うんですよ」

 たしかに往年のファンにはとくに、タスキをかけた選手が前夜祭やリング上に揃った場面はたまらないが、興味深いのは小川代表が「それも全部思い描くことからはじまるんですよ」と話したことだ。

「たとえばこの、あいみょんの『マリーゴールド』って曲はいいなあとかね。両国をやれたらいいなあと思っても、常に実行しなければいけない。そうしないとタダの夢物語で終わっちゃうから。普通の人は思うだけだけど、我々はカタチにしないと思ったことにはならないんですよね」

 そう言って、小川代表は業界人とそれ以外の人の違いを口にしたが、現実論でいえば、なかなか思い描いたことを実現できる人間はそうそういない。そう思いながら話を聞き続けると、小川代表は意外な人物の名前をあげた。

「みちのくプロレスの新崎人生が俺が52歳の時に、『あと2回勝負できますね』って言ってくれたんですよ。その時は、勝負なんかしないよって思っていたけど、スターダムをやった時に、これが1回目の勝負なのかと思って、でも2回目はないなと思ったけど、これが2回目になっちゃって。この間、たまたま新崎人生と顔を合わしたら、そんな話で盛り上がって」

 そこまで話した小川代表は、新崎人生のことを。「預言者ですよ、彼は」と証言した。

 そして、まだ、2か月と少ししか経っていないマリーゴールドの旗揚げからの日々を回想し、小川代表はこう口にした。

「たった数か月足らずですけど、もう何年もやっているような心境ですね。それだけ濃い時間を過ごしているし、今のメンバーとも何年もやっているような気がしますね」

 その言葉には、小川代表が、これ以上ない生き甲斐を感じながら生きている雰囲気がガンガン伝わってきた。まるでその姿は、全身そのものが“凄み”の塊のように思える。業界歴47年を数える、御年67歳は伊達じゃない。

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