「13歳、真夏の大冒険」のフジ倉田大誠アナ パリ五輪で再びスケボー実況へ 大事にする「視聴者目線」、“スケボーらしさ”

パリ五輪が開幕し、選手たちによる真剣勝負への期待感が高まる中で、歴史に残る名場面を印象的なフレーズと共に伝える「スポーツ実況」も“五輪の楽しみ”の1つだ。3年前の夏、東京五輪で「13歳、真夏の大冒険」の流行語を生み出したフジテレビの倉田大誠アナウンサーが、再び、スケートボード競技の実況に臨む。しかも、プロスケートボーダーの瀬尻稜氏がテレビ解説を務めることが決まっており、“名コンビ”が再来となる。自身2度目の五輪で、スケートボード・ストリートとバレーボールを担当する倉田アナに、実況に懸ける思いと意気込みを、パリ五輪出発直前に聞いた。

パリ五輪でスポーツ実況に臨むフジテレビの倉田大誠アナウンサー【写真:(C)フジテレビ】
パリ五輪でスポーツ実況に臨むフジテレビの倉田大誠アナウンサー【写真:(C)フジテレビ】

東京五輪「13歳、真夏の大冒険」の名実況 パリ五輪ではスケートボードやバレーボールを担当する

 パリ五輪が開幕し、選手たちによる真剣勝負への期待感が高まる中で、歴史に残る名場面を印象的なフレーズと共に伝える「スポーツ実況」も“五輪の楽しみ”の1つだ。3年前の夏、東京五輪で「13歳、真夏の大冒険」の流行語を生み出したフジテレビの倉田大誠アナウンサーが、再び、スケートボード競技の実況に臨む。しかも、プロスケートボーダーの瀬尻稜氏がテレビ解説を務めることが決まっており、“名コンビ”が再来となる。自身2度目の五輪で、スケートボード・ストリートとバレーボールを担当する倉田アナに、実況に懸ける思いと意気込みを、パリ五輪出発直前に聞いた。(取材・文=吉原知也)

 2021年7月26日、東京五輪から採用されたスケートボードの女子ストリートで、当時13歳の西矢椛が金メダル、16歳の中山楓奈が銅メダルに輝き、日本中が歓喜に包まれた。決勝で西矢が技を見事に決めると、実況を担当した倉田アナが「決まったー! 13歳、真夏の大冒険!」と“絶叫”。X(ツイッター)のトレンド入りを果たすなど、メダル獲得の快挙と共に話題を集めた。同年の『ユーキャン新語・流行語大賞』にノミネートされ、倉田アナの代名詞の1つになった。

 一方で、瀬尻氏はフランクな解説スタイルが反響を呼び、技の完成度などを表現する「ゴン攻め/ビッタビタ」が新語・流行語のトップテン入りを果たした。冷静な倉田アナと自然体な瀬尻氏の、対照的ながらも絶妙なコンビネーションが、一世を風靡(ふうび)した。

 倉田アナにあの名実況を振り返ってもらった。背景には、いくつかの偶然やハプニングが重なったという。

「まず、前日に行われた男子の試合後、(有明の)会場に夏の空が広がっていて、印象が残っていました。選手たちが滑り出す冒頭で、何か枕詞を付けて紹介しようと決めていました。年少の西矢選手には『13歳の夏休みの冒険が始まる』。そんな趣旨のフレーズを事前に考えていました。新型コロナウイルス禍の影響で、夏休みなのに思うように外に行けず、若い皆さんは大変な苦労をされていました。そんな当時の世相も頭にありました」

 原稿に「冒険」の文字をメモして臨んだ試合当日。しかし、スケボーの試合は早いテンポで展開し、初めての五輪実況ということもあり、肝心の枕詞を言う機会を逃してしまった。

「メダル争いの中で、西矢選手が技をメイクしました。その瞬間、僕の中で、『冒険』のフレーズと、夏のイメージが混ざり合い、『真夏の大冒険』という言葉が出てきたんです」。こうして、五輪スポーツ実況に名を残す、奇跡のフレーズが生み出された。

 あれから3年。倉田アナは今回のパリ五輪でも、NHKと民放で構成するジャパンコンソーシアム(JC)の実況を任されることになった。五輪2大会連続の金メダルを狙う堀米雄斗らが出場を予定するスケートボード男子ストリートが、27日午後7時(日本時間)からスタート。倉田アナにとって“開幕戦”となる。28日午後7時(同)から競技開始となるスケートボード女子ストリートも担当。メダルへの期待が集まるバレーボールは、男女1次リーグに始まり、決勝トーナメントの重要な試合の実況も担う。

 そして、花の都で名コンビが“再結成”。瀬尻氏とのタッグが今回も実現だ。

 東京五輪では、2人の不思議なバランスが、視聴者をくぎ付けにした。それまでほとんどスケボーに触れる機会のなかった倉田アナ。世界大会などの試合や選手のパフォーマンス映像を何度も見返し、瀬尻氏から技の難易度や仕組みなどのレクチャーを受け、勉強を重ねた。迎えた五輪本番で2人の個性が融合し、花開いた格好となった。

「正直、いまだにスケートボードは“分からない”です。何百回、何十時間も映像をチェックしてきても、分からないことがたくさんあります。スケートボード、スノーボード、サーフィンを総称して『3S』と呼び、『横ノリ』とも表現します。独自のカルチャーが存在します。仲間と一緒に街中で滑り始めたというのがスケボーの原点。大会で競い合うことが出発点ではありません。それでも、選手たちは世界の人々が注目する舞台で、スケボーをもっと知ってもらいたいという思いを持って五輪の試合に臨んでいます。決してふざけているのではなく自然体で楽しむ。そんなスケボーのカルチャーを壊してはいけないと考えています」

 倉田アナはスケボーへのリスペクトの思いを熱く語る。フランクな雰囲気というスケボーのよさ。これをテレビ実況にどう落とし込むのか。たどり着いたのが、“役割分担”だった。

「いろいろ考えた末に、技の名前はすべて瀬尻さんにお任せで、ボードがどの方向に何回転したのかなどのポイントを私が説明するようにしたんです。私の実況は冷静でかっちり。瀬尻さんは、瀬尻さんの温度感を大事に解説していただく。こうすることで、一見融合しないように思える私と瀬尻さんのバランスがうまく組み合わさったのかなと思います」。こうして、見て聞いて楽しく分かりやすいスケボー実況が誕生したのだ。

フジテレビ倉田大誠アナウンサーが技を覚えるために東京五輪でも使用した小さなスケートボード【写真:本人提供】
フジテレビ倉田大誠アナウンサーが技を覚えるために東京五輪でも使用した小さなスケートボード【写真:本人提供】

「『調和』の願いが込められた会場のコンコルド広場で、最後はみんなで笑って終わる。その光景を僕自身が見てみたい」

 今回も、倉田アナは瀬尻氏とお台場のフジテレビで打ち合わせを重ね、スケボー競技の最新事情について理解を深めた。「瀬尻さんの言葉を借りれば、『この3年で、男子も女子も、スケボーは進化しています』。技の難易度、複雑性がさらに高まりました。競技レベルが上がっているだけに、私自身の実況のレベルが追い付くように頑張らないといけません」と、気を引き締める。

 スケボーの競技会場に設置されるセクション(構造物)をつぶさにチェック。階段の段数、レールの高さや幅など、パリ仕様の特徴を把握。できる限りのベストを尽くし、いよいよ本番を迎える。

 今回は有観客での五輪スケボー開催だ。「スケボーの選手たちは、誰かがいい技を繰り出すと、ボードをたたきながら『すげえ』とアクションをするんです。この観客の巻き込み方がうまく、会場全体で盛り上がるのがスケボーの魅力の1つでもあります。選手と観客のエネルギーが一体となって熱くなっていくという、本来の形が見られる五輪になりそうです。ここでも瀬尻さんの言葉を借りれば、『スケートボードはその日に一番調子のいい人を決めるだけ。コンテストの大小は正直ないっすね』ということです。その日にベストコンディションで、観客を味方に付けた選手は誰なのか。『調和』の願いが込められた会場のコンコルド広場で、最後はみんなで笑って終わる。その光景を僕自身が見てみたいし、楽しみにしています」と、思いの丈を語った。

 そして、今回の倉田&瀬尻スケボー実況解説はどうなるのか。「たぶん、前回と同じような感じになると思いますよ(笑)」。その“ゆるーい”回答を聞いて、視聴者としてさらに楽しみになった。

 入社21年目を迎えた42歳の中堅。スポーツ中継は競馬や柔道に加えて、バレーボールに強いフジテレビで、春高バレーをはじめ男女日本代表の世界大会を数多く担当してきた。とりわけバレーボールは、スポーツ記者たちの中に混ざり、ICレコーダーを片手に選手たちを取材。海外チームの分析を含めて緻密な情報を頭にたたきこんでいる。今回も、生命線である「取材ノート」をパリまで持ってきている。

「僕のような存在が言うのもおこがましいですが、実況アナウンサーとして、これほど名誉なことはないと思っています。すべては、主役であるアスリートの皆さんあってこそのことです。選手1人1人にターニングポイントがあって、東京五輪からの3年間、もっと言うとこれまでの競技人生、すべてをこの一瞬にかける。その努力や思いを、アナウンサーとしてフラットに伝えられればと考えています。それに、広く一般の方々がご覧になるのが五輪ですので、競技性やルールをよりかみ砕いて、より分かりやすく、視聴者目線に落とし込んで伝えていく。しっかりと心がけたいと思っています」と前を見据えた。

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