朝倉未来―平本蓮に望む「もっともっと盛り上がって」 “余命10年”岸博幸氏が超RIZINに期待すること

朝倉未来と平本蓮がついに雌雄を決する格闘技イベント「超RIZIN.3」(28日・さいたまスーパーアリーナ)が迫ってきた。多くのファンが期待に胸を高鳴らせる中で、経済評論家の岸博幸氏もその一人だ。現在61歳の岸氏は昨年1月、血液のがんである「多発性骨髄腫」罹患が判明し、「余命10年」を宣告されたが、格闘技への強い思いは変わらず、会場に足を運び続けている。

朝倉未来、平本連の両者にかかる格闘技界の期待【写真:山口比佐夫】
朝倉未来、平本連の両者にかかる格闘技界の期待【写真:山口比佐夫】

RIZIN旗揚げ以来アドバイザーを務める岸氏の思いとは

 朝倉未来と平本蓮がついに雌雄を決する格闘技イベント「超RIZIN.3」(28日・さいたまスーパーアリーナ)が迫ってきた。多くのファンが期待に胸を高鳴らせる中で、経済評論家の岸博幸氏もその一人だ。現在61歳の岸氏は昨年1月、血液のがんである「多発性骨髄腫」罹患が判明し、「余命10年」を宣告されたが、格闘技への強い思いは変わらず、会場に足を運び続けている。(取材・文=角野敬介)

 岸氏は元通商産業省(現:経済産業省)官僚で、元総務大臣秘書官。現在は慶應義塾大学大学院教授として教鞭をとる傍ら、歯に衣着せぬ発言でメディアでも多方面に活躍している。一方で格闘技ファンであることも良く知られており、RIZIN会場でもその姿が度々目撃されている。そもそも格闘技にはまるきっかけは何だったのか。

「元々ガキの頃にプロレスが好きで。年齢からもわかる通り僕が高校、大学の頃はいわゆる全日、新日の全盛期。特に新日本プロレスが好きで、その延長でUWFとかリングスを見るようになっていった。プロレスも見ながら、そういう“真剣勝負系”のものが好きになっていく中で、今度はPRIDEが出てきた。そこまではファンとして見ていましたが、PRIDEの後にできたDREAMの経営陣と面識ができまして、そこからだんだんと団体そのものと関わりが出てきたんですよ。その延長でRIZINのアドバイザーを務めることになりました」

 RIZINとは2015年の旗揚げ以来、アドバイザーとして関わっている。PRIDE消滅後の“格闘技冬の時代”が過ぎ去り、現在のPPVが売れ、会場もぎっしりと埋まる“格闘技ブーム”とも言える状況を、岸氏はどう見ているのか。

「いい感じで盛り上がってきてるなと思ってますよ。もちろん批判をしたい人はいつの時代にもいっぱいいて、すぐに米国のUFCと比較したがる人もいるんですけどね。個人的にはやっぱり日本はPRIDE時代からの名残もあって、真剣勝負がベースとしてありながら、それにエンタメっぽい要素も加わってより盛り上がるんです。UFCともまた違う、RIZIN独自のものだと思います。超RIZIN.3に関しても、久々にさいたまスーパーアリーナのスタジアム仕様なのに、早い段階でソールドアウトですから」

 通常約2万人収容のさいたまスーパーアリーナだが、今回は約4万人収容のスタジアムバージョンで実施される。魔裟斗の引退試合が行われた、2009年の大みそか以来、実に15年ぶりとなる全面開放。その舞台を作ったのは朝倉未来と平本蓮という、新時代の2人の格闘家だ。

 格闘家としての実力だけではなく、インフルエンサーとして発信力にも長ける両者。数年にわたってネット上で舌戦を繰り広げ、ついに実現した対戦に格闘技ファンは沸いている。ヒョードル、ミルコ、ノゲイラ、桜庭和志vsホイス・グレイシー……かつて隆盛を誇ったPRIDE時代にファンの熱い支持を受けたカードとは、隔世の感がある。

「朝倉未来にしても平本にしても、実力はそれなりに上だけども、日本のトップオップトップかというと、そこはちょっとまだわからない。ただ彼らはソーシャルメディアで人気者なわけです。そしてそういうメディアで、彼らが好きな人たちがチケットを買っている。PRIDE時代はどちらかといえばコアなファンが多かったと思うんです。だから対照的ですよね。ライトなファンに格闘技が届いているということです。
 
 それはすごくいいことだと思うんですよ。日本での総合格闘技ブームって終わって久しい感じがありましたけども、こうやってまた新しいライトファンがまた見に来る。それでメインだけじゃなくて他の試合を見て(格闘技に)ハマってくれればいいわけです。そういう意味ではこのカードの持つ意義って、非常に大きいですし、いいことなんじゃないかなって思います」

 メインの前にはボクシングの元世界6階級王者マニー・パッキャオ(フィリピン)も登場。RIZINフェザー級王者・鈴木千裕こそ怪我での欠場が決まったが、代役の安保瑠輝也とのマッチアップにも期待の声が上がっている。

 岸氏にとっても、どんな形であれ格闘技にスポットライトが当たることはファンとして誇らしいことだ。

「格闘技ってすごい魅力があります。今、ボクシングは十分盛り上がっているじゃないですか。やっぱり井上尚弥はすごいし、井上に限定しないでも、武居(由樹)くんとか(那須川)天心とか、若手でも非常にいい選手が揃っています。日本のボクシングってまさに今、黄金期だと思うんですよ。だから東京ドームでも試合ができました。総合格闘技はまだそこまでには至ってないけども、これだけワンマッチで盛り上がるわけですから。ボクシングに続く形で、もっともっと盛り上がってほしいなと思います」

岸氏が思う格闘技の魅力とは
岸氏が思う格闘技の魅力とは

格闘技の魅力は「真剣勝負」

「余命10年」を宣告された後も変わらず、精力的に格闘技を追い続けている。RIZINの会場に足を運び、RIZINとの繋がりの深いDEEPの生観戦も欠かさない。「やっぱり好きなものだから、病気になってより一層ちゃんと毎回見に行こうと思っていますよ」と笑う岸氏に格闘技の魅力について語ってもらった。

「やっぱり真剣勝負なとこですよね。今の時代、政治を見てもビジネスを見てもとことん真剣勝負をやってる人って少ないですよ。そういう中で年に数回しかない試合で、真剣勝負をやっている。それ自体がすごい魅力的ですよね。今の時代、なかなか他にないことをやってるっていうのは素晴らしいと思いますし。個人的にいろんな形で実際関わるようになると、仲良しになる選手も増えてくるんです。本当に真剣勝負やっているやつらって、その裏返しでいいやつが多いんですよ。

 本当にみんな真面目で頑張ってる立派なやつらばっかりで。でも格闘家ってRIZINに出られるような選手はともかく、そうじゃない選手もいっぱいいて、みんなファイトマネーが安いわけです。しかも年間で数試合しかできないわけですから、当然それだけで生活することができない。他に仕事なりアルバイトをやっている選手がほとんど。そんな状況で毎日一生懸命トレーニングをして、試合も頑張っていると。人間として、とことん頑張っているよなっていう面も僕は見ているんです。だから余計魅力に感じます」

 一方でRIZINは地上波での放送が消滅。誰でも見られたスポーツではなくなり、裾野が狭くなっていくのではという懸念の声も上がるが、岸氏はこれを一笑に付す。

「じゃあ地上波がないとダメなのか、というとあまりそういうふうには思っていなくて。実際に米国でも多くのスポーツは、スポーツ専門チャンネルかペイチャンネルでお金を払って見るようになっている。これだけネットも普及しているわけだから、地上波でなくても情報は拡散されていくわけです。個人的にはもう地上波があるから裾野が広がるという時代じゃないよねと。ネットで十分広がるよね、そう思っています。そこでまたネットならではのスターが生まれる。そこにライトなファンがつく。じゃあ会場に足を運んでみようかというファンも生まれてくる。こういうサイクルが出来上がると思います」

 まさにそのネットから生まれたスターである朝倉未来と平本蓮の激突にファンは熱狂している。最後にこの令和のビッグマッチの予想をしてもらった。

「わかんない。わかんないですね、はい。うん、わかんない」と笑いながら、「順当に行けば、ここまでの実績とかを見ていると朝倉未来のほうかなとは思いますけど、平本蓮も非常に成長しています。だから期待を込めての“わかんない”。ファンはみんなそうだと思うんですけど、面白い試合を見せてほしいですね」

■岸博幸(きし・ひろゆき)1962年9月1日、東京都生まれ。86年に一橋大学経済学部を卒業し、通商産業省(現経済産業省)入省。90年よりコロンビア大学経営大学院に留学しMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て、竹中平蔵大臣の秘書官に就任。2006年、経産省を退官。現在は、慶応義塾大学教授、エイベックス取締役、格闘技団体「RIZIN」アドバイザーなども務めている。今年3月に著書『余命10年 多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』(幻冬舎)を出版。

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