石丸伸二氏、選挙後相次ぐ炎上は計算ずく? 政治家としての“偏差値”を専門家がジャッジ
東京都知事選で政党の支援なく165万票余りを獲得、一躍“時の人”となった前広島安芸高田市長・石丸伸二氏の評価を巡り、議論が過熱している。開票後の選挙特番やその後の討論番組では、要領を得ない受け答えやインタビュアーへの冷笑的な態度が物議を醸した。国政進出の可能性も示唆する石丸氏だが、政治家としての“偏差値”はどの程度なのか。政治ジャーナリストの角谷浩一氏に石丸氏の現時点での政治家評を聞いた。
要領を得ない受け答えやインタビュアーへの冷笑的な態度で物議も
東京都知事選で政党の支援なく165万票余りを獲得、一躍“時の人”となった前広島安芸高田市長・石丸伸二氏の評価を巡り、議論が過熱している。開票後の選挙特番やその後の討論番組では、要領を得ない受け答えやインタビュアーへの冷笑的な態度が物議を醸した。国政進出の可能性も示唆する石丸氏だが、政治家としての“偏差値”はどの程度なのか。政治ジャーナリストの角谷浩一氏に石丸氏の現時点での政治家評を聞いた。
今回の都知事選には史上最多となる56人が立候補。石丸氏は3選を果たした現職の小池百合子氏に次ぐ得票率で、当初小池氏の対抗馬と目されていた前参議院議員の蓮舫氏を抜き、旋風を巻き起こした。今回の都知事選では、候補者同士による事前のテレビ討論がほとんどなく、ネットを中心とした選挙活動が行われた。その中でネット選挙の仕組みを逆手に取り、大きく票を伸ばしたのが石丸氏だった。
「ここまでネットで完結した選挙はおそらく初めてのこと。石丸さんの演説はおおよそ5分以内とすごく短く、演説というよりもキャッチーな発言の繰り返し。具体的な政策など深い話はない一方で、短い発言の連続なのでどこを切り取っても成立し、それを聴衆が動画に撮って拡散する。20秒ほどのTikTokに特化した演説で、ネットで拡散してもらうというやり方は非常に効率的。結果的に選挙戦術としては大正解でした。
一方、蓮舫さんなどは3~4人も応援演説が長々と話し、盛り上がったところで本人登場というオーソドックスな演説スタイルでしたが、あの暑さの中では聴衆も待っている間に疲れてしまう。選挙のやり方は石丸、蓮舫陣営で根本的に違っていました」
ネット時代に合った演説手法で若者の支持を集めた石丸氏だが、選挙後のテレビ番組ではその振る舞いに疑問の声が噴出。日本テレビ系の開票速報特番は、社会学者の古市憲寿氏との答弁がかみ合わず、ネット上で「石丸構文」と揶揄(やゆ)された。また、フジテレビ系の選挙特番では元乃木坂46・山崎怜奈の質問を「前提の下りが全く正しくない」などと“全否定”。高圧的な態度に批判の声が寄せられると、その後テレビ朝日系のインタビューで「女、子どもに容赦するっていうのは優しさじゃないと思っている」「(頭を)ポンポンってやってあげる感じが良かったのかな?」と発言、なおも炎上が続いている。
「20秒で主張を言い切るのはある意味テレビの手法なんですが、石丸さんは自分一人で完結するネットの扱いは達者な一方、他の人とのキャッチボールはほとんどうまくいかなかった。これまでの安芸高田市議会やメディアとのやり合いで、既得権益と闘うという姿勢で若い人の心はつかんだが、攻撃だけでは有権者の理解は得られない。選挙期間中は他流試合の場がありませんでしたが、考えが違う相手をいかに議論のテーブルに上げるかも政治家の資質のひとつ。自身が掲げる『政治屋の一掃』という理念から、有権者にこびてはいけないという思いがあるのかもしれませんが、お茶の間では石丸さんの政策や人となりをよく知らない人もたくさんいる。『分からない人とは話しても無駄』というあの態度は政治家としていささか丁寧さに欠けると言わざるを得ません。
相手を論破するあのスタイルが彼の本質なのか、何か意図があっての演出なのかはまだ分かりませんが、意図的に炎上させたにせよ、選挙後のこのタイミングでそれを仕掛けるメリットがあるのか私には分かりませんでした。岸田首相の広島一区から出馬の可能性をにおわせたことも、今後自民党とは組むつもりがないとけんかを売ってるようにも取られかねない。思いつきなのか計算ずくなのかは分かりませんが、今あれを言うことが得策とは思えません」
元大阪府知事の橋下徹氏を重ねる声も
政策の内容やメディアとの対決姿勢から、元大阪府知事の橋下徹氏を重ねる声も多いが、「橋下さんはもともと弁護士で、こう言えばこうなる、こんな反発が来るというのをしゃべりながら計算していた。また、橋下さんはテレビ出身。お茶の間から出てきて、どこまでは言ってもいいかというのをよく分かっていた」と角谷氏。“ネット出身”の石丸氏との違いに触れつつ、今回の選挙戦では大成功を収めたネット戦術が、今後はもろ刃の剣になる可能性も指摘する。
「ネット上で似たような意見の人が集まり、特定の思想が増幅するエコーチェンバー現象というものがあります。敵と味方、正義と悪という分かりやすい二項対立は単純で共感を集めやすい一方、日本人は気質的に過度な争いを好まない人も多い。政治に強いリーダーシップが求められている一方で、過ぎたリーダーシップは独裁、独断専行と批判されます。
石丸さんのやり方はこれまで政治に無関心だった多くの人を選挙に向かわせた一方、同じくらいそれがなじまない人もいる。今後、キャラクターや話し方を場面に合わせて細かく調整できるようになれば強いですが、あのままで固定してしまうと、言い方は悪いですが早々に飽きられてしまうのではないでしょうか」
ネットからテレビに活躍の場を移し、徐々に明らかになりつつある石丸氏の素顔。相次ぐ炎上は本質か演出か、石丸氏の次の一手に注目が高まる。