アニサキス被害 報道・SNS拡散のインパクト 懸念される買い控え 業界関係者が漏らした“本音

魚を食べる際に鮮度や傷みといった気を付けたいポイントはあるが、寄生虫アニサキスの存在もリスクの1つだ。激しい腹痛に見舞われるアニサキスの食中毒の発生事例は後を絶たない。著名人のアニサキス被害が報道されたり、スーパー店舗の魚パック商品からアニサキスを発見したとするSNS投稿がニュースになることもある。こうしたアニサキスに関連する情報発信によって業界への影響はあるのか。魚介類を取り扱う機関や小売り事業者はどのように考えているのか。“本音”を聞いた。

魚類のアニサキス被害には気を付けたいところだ(写真はイメージ)【写真:写真AC】
魚類のアニサキス被害には気を付けたいところだ(写真はイメージ)【写真:写真AC】

2017年の「10大ニュース」にも…「正しく恐れることが重要だと考えています」

 魚を食べる際に鮮度や傷みといった気を付けたいポイントはあるが、寄生虫アニサキスの存在もリスクの1つだ。激しい腹痛に見舞われるアニサキスの食中毒の発生事例は後を絶たない。著名人のアニサキス被害が報道されたり、スーパー店舗の魚パック商品からアニサキスを発見したとするSNS投稿がニュースになることもある。こうしたアニサキスに関連する情報発信によって業界への影響はあるのか。魚介類を取り扱う機関や小売り事業者はどのように考えているのか。“本音”を聞いた。

「超絶きっしょい」「アニサキスの食中毒でほんと死ぬ思いした」「本当にいるんだね…」。SNS上では、恐怖体験の投稿が次々と流れてくる。

 白い糸のような見た目で、寄生虫(線虫)の一種である、アニサキス。国立感染症研究所の資料によると、「海産魚介類の生食を原因とする寄生虫症の中でも、我が国で最も多発するものがアニサキス症である。日本人の食習慣からみて、アニサキス症は我が国でかなり古くからあった病気と考えられるが、原因となる虫種が確定されたのは1960年代である」と解説されている。

 厚生労働省の公式サイトなどの説明では、アニサキスの幼虫は、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類の主に内臓表面に寄生。宿主の魚介類が死んで時間が経過すると、内臓から筋肉に移動する。「アニサキス幼虫が寄生している生鮮魚介類を生(不十分な冷凍または加熱のものを含みます)で食べることで、アニサキス幼虫が胃壁や腸壁に刺入して食中毒(アニサキス症)を引き起こします」と説明している。また、魚介類の生食後に起きるじんましんを主な症状とする「アニサキスアレルギー」についても報告されている。

 予防策には、魚を購入する際に、新鮮な魚を選ぶこと、速やかに内臓を取り除くこと、内臓を生で食べないことなどが挙げられる。調理する場合は、目視確認による幼虫の除去に加えて、「マイナス20度で24時間以上の冷凍」「70度以上、または60度なら1分の加熱」といった対処法が紹介されている。また、「一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、しょうゆやわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません」と注意喚起されている。

 一方で、店舗で購入したとする魚商品からわき出るアニサキスのSNS画像は強烈なインパクトをもたらす。新聞、テレビ、ウェブによるアニサキス食中毒被害のニュースが繰り返されることで、生魚は必要以上に“怖い”というイメージが強くなってしまう懸念もある。

 水産庁の担当者は、報道やSNSによる売り上げへの影響を示す明確なデータはないと答えた上で、「一時期の報道などによって、企業側が魚を生で売るのをやめて冷凍に切り替えたという事例は聞いています」と実情について明かした。

 全国のスーパーなどが加盟する業界団体・日本チェーンストア協会は、「2017年チェーンストア10大ニュース」として、「アニサキス、O-157報道(ポテトサラダ食中毒)の影響で売上げに大きな影響」を1位に挙げたこともある。発表後、水産庁が「流通関係者からも魚の売上げが減少したとの声が多く聞かれました」と指摘するなど、波紋が広がった。同協会の担当者は、現状について「各店舗でできる範囲のアニサキス予防の対応に取り組んでいます。お客様への周知に関しては継続して注意を促しています」と語り、引き続き、緊張感を維持しているという。

 23年度の水産白書によると、「食用魚介類の国民1人1年当たりの消費量(純食料ベース)」は、2001年度の40.2キロをピークに減少傾向で、11年度から「肉類」を下回り、22年度は22.0キロ(概算値)となっている。23年の生鮮魚介類の1人1年当たりの購入量は、前年より4%減少。消費者が魚介類をあまり購入しない要因として「価格の高さや調理の手間等。食の簡便化志向が強まっており、消費者の食の志向が変化」との分析結果が出されている。

 魚の生食自体、一定のリスクはある。しかし、むやみに怖がって、伝統ある食文化が敬遠される事態になってしまうことは避けたい。水産庁の担当者は「正しく恐れることが重要だと考えています。過度に魚を恐れるのではなく、正しい知識を得ながら付き合っていくという意識が大事だと思います。目視による除去、冷凍・加熱などの方法を取っていただき、気を付けていただければ」と話している。

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