リーダーは東大卒 空中を歩く“鉄棒ダンスユニット”の目指す場所…日テレ特番で強烈インパクト

空中を歩いているかのように、重力を感じさせない鉄棒ダンスユニットが存在する。AIRFOOTWORKS(エアフットワークス、以下AFW)だ。5月27日放送の日本テレビ系『THE DANCE DAY』では、決勝ラウンドのファーストステージで大会史上最高得点を記録。審査員、観客、視聴者に大きなインパクトと感動をもたらした。ダンスの世界に新たなジャンルを生み出したメンバー4人に迫った。

鉄棒ダンスユニットのAIRFOOTWORKS、(左から)魚地菜緒、上西隆史、本多諒/RYO、古賀虎【写真:北野翔也】
鉄棒ダンスユニットのAIRFOOTWORKS、(左から)魚地菜緒、上西隆史、本多諒/RYO、古賀虎【写真:北野翔也】

AIRFOOTWORKS、懸垂ができなかった女性もメンバー

 空中を歩いているかのように、重力を感じさせない鉄棒ダンスユニットが存在する。AIRFOOTWORKS(エアフットワークス、以下AFW)だ。5月27日放送の日本テレビ系『THE DANCE DAY』では、決勝ラウンドのファーストステージで大会史上最高得点を記録。審査員、観客、視聴者に大きなインパクトと感動をもたらした。ダンスの世界に新たなジャンルを生み出したメンバー4人に迫った。(取材・文=よもつ)

 鉄棒ダンスの誕生は、東京大卒のリーダー・上西隆史のケガがきっかけだった。

上西「僕が(須藤元気率いる)WORLD ORDERに所属していた時に腰を痛めてしまったんです。それを機にトレーニングを始めて参考になる動画を見ていた中、鉄棒を使って歩く動きをする動画が目に入りました。その動きが不思議で、音楽に合わせて動いたら新しいエンターテインメントになると思いつきました。そして、仲間とAIRFOOTWORKSを結成しました」

 メンバーは結成時から入れ替わり、今の面々は上西の勧誘で集まった。

上西「(本多)諒君(以下RYO)とは以前に舞台で共演して、それを機に彼が所属するダンスチームのイベントにAFWが出演していました。彼はコンテストで優勝するなど、ダンスの世界では有名人。AFWがただの“鉄棒集団”ではなく、表現者としての強さを持つためにも必要だと感じて、半ば強引に引き入れました(笑)」

RYO「最初は軽いノリで自分のイベントに呼んで、その流れで一緒にトレーニングに参加するようになりました。既にこれだけダンスのジャンルがある中で、新しい表現を生み出す希少価値、実際のお客さんの反応も含めて『すごい』と思いました」

上西隆史【写真:北野翔也】
上西隆史【写真:北野翔也】

上西「次が(魚地)菜緒で、彼女はブレイクダンサーとしてトップクラスで活躍していました。最初は、床で踊る彼女と上で踊るAFWという対比が面白いと思って、一緒にやっていましたが、ある時に『私も鉄棒やりたい』と言い出したんです」

魚地「でも、最初は懸垂もできなかったんです」

上西「ブレイクダンスは(地面を腕で)押す力が必要で、逆さで踊る時に地面を押し返す力の入れ方が、懸垂とはまるで逆なんです。懸垂では背中と腕に力を入れて体を引く力が必要ですが、彼女の場合、ブレイクダンサーとして力の入れ方が体にしみついている分、懸垂しようとしても、肩や僧帽筋、三頭筋に力が入って逆に止まってしまう。その切り替えが大変そうでした。ただ、恵まれていたのは筋肉がつきやすい体質だったことので、気づいたら懸垂ができるようになっていました。そして、(古賀)虎君ですが、彼は自重トレーニング系(ストリートワークアウト)のアスリートで、ダンスは未経験でした。ただ、ショーを手伝ってもらっていた時に僕は『何事にも素直に取り組む人』だと感じていました。あとは、肩が外れた状態でショーをやり切ったのを見て、『こいつはやばい』と思ってケガが治るのを待って誘いました(笑)」

古賀「ダンスは(AFWに)入ってからです。最初は何とかできている風の構成を作ってもらっていました(苦笑)。菜緒ちゃんと同じで、力の入れ方が違う苦労はありました。トレーニングの時は『大きな力を出せればいい』という感じですが、今(ダンス)は細かい動きだったり、力を入れ過ぎてはいけなかったりで使い分けが難しい。頭では理解できても、体が動かなかったですね」

本多諒/RYO【写真:北野翔也】
本多諒/RYO【写真:北野翔也】

番組史上最高得点も…試行錯誤と課題に向き合う日々

 全く異なる経歴の4人。それぞれが新たな挑戦となった「鉄棒ダンス」の魅力は何か。

上西「全く新しいジャンルなので、大変なことが多いです。レファレンス(参考材料)がない中、いちから問題を解決しなければいけないけど、それらを一つひとつ乗り越えていくことが魅力ですし、表現者として自信につながっています。初めは『最初から完成形を見せないといけない』というデメリットもありました。例えば(既存の)ダンスなら、『後ろで準備をしている人は見ない』といったリテラシーが確立しています。しかし、僕らの場合には、そうした『見られ方』がないので、鉄棒のキューブ(立方体)前で踊っていても後ろで準備している人に目がいってしまう。だから、後ろの人の動線や動き方の細部まで作り込まないといけないのが苦労しました」

『THE DANCE DAY』で番組史上最高得点を記録した『M七八』のパフォーマンスでも、その苦労があり、各自の課題にも直面した。

上西「後ろで(RYOと古賀の)2人がダイヤ型のポーズを作る前後の流れをものすごく考えました。特にシンメトリー(左右対称)の構成は、上手くいけばきれいだけど、崩れるとストレスになる諸刃の剣でした。それを2人が完璧にやりこなしてくれた結果、ダンス経験者にも、そうでない人たちにも伝わったと思います。デメリットだった部分も、細部まで作り込んでやり遂げた時に『すごい魅力になる』とあらためて感じました」

RYO「2人(上西や古賀)と比べたら鉄棒の上に一気に上がったりするのが得意ではないのですが、最後のサビの部分で虎君とシンメトリーでやらないといけない。そこが、『前日はできたけど今日はできない』ということもあり、全然(鉄棒に)上がれない夢も見ました」

古賀「僕はパワーの部分は大丈夫だったんですが、ダンス的な部分で苦労しました。RYOさんとそろえる箇所も多いのですが、RYOさんはプロのダンサーなので動きのキレがすごい。僕は一瞬の動きのズレが他の3人より圧倒的に多かったです」

上西「普段はもっとビートが強い曲を使ったり、はっきりした音にはっきり合わせることが多いのですが、『M七八』はビートより弦楽器等の質感が強く出ていて(ある種)ダンスっぽくない曲。その分、一つひとつの音に対してよりシビアにダンス的な表現をしたり、細かい部分の立ち回りまで意識しないといけないので、余計に苦労しました」

魚地「私は元々エアダンスの可動域がみんなと比べて小さいので、そこを広げるのが難しかったです」

上西「彼女は他の仕事もあり、練習時間が3人より短かったんです。『M七八』では最後、彼女が1人で鉄棒にぶら下がって浮いて終わるのですが、そこは彼女がいない時に思いついて作ったので、(魚地としては)ある日、練習に来たら浮くことになってた感じです(笑)」

古賀虎【写真:北野翔也】
古賀虎【写真:北野翔也】

 鉄棒のキューブもパフォーマンスの重要な要素だ。『M七八』のラストでは、キューブを45度傾ける演出で、「固定されたキューブの中で踊る」という先入観を覆した。

上西「スライドさせて横方向に回すことはやったことがあり、より3D的な動きを考えて、傾ける方法も数年前から思いついてはいました。ただ、どう取り入れるかピンとくるものがなかったのですが、今回は『M七八』でやっとやることができました。『M七八』を作る時も、最初はキューブの周囲を走りながら回してみたりしていました。走るのは最終的に無しになりましたが(笑)」

RYO「最初の3日間くらい、俺と虎君はずっと走り回っていました(笑)。人が鉄棒にぶら下がっている状態でどれだけ速くキューブを回せるか試したり」

上西「キューブ自体もパフォーマンスに合わせていろいろと工夫をしています。以前はキューブの四隅に20キロずつ、計80キロの重りを乗せていましたが、踊っている時に自分たちが重りになれば良いと気付きました。それからはキューブをなるべくシンプルにして、誰がどう動けば重りになるかも考えながら構成を作っています」

RYO「基本的には全体のイメージをジョニ(上西)さんが作って、それを練習しながら詰めていく。作り直しは多い印象で、練習の後半になった頃には全く変わることもよくあります」

上西「『できそう』と直感的に感じることは『大体できる』と思っているので、結果的にはクリアしています。これまでの経験値やメンバーのポテンシャルも知っているから、無意識レベルでできると判断しているんだと思います」

魚地菜緒【写真:北野翔也】
魚地菜緒【写真:北野翔也】

勝ちパターンを作らずに「このチームで世界に」

 グループとして、個人としてのビジョンを聞くと、それぞれが熱く語った。

魚地「ブレイクダンスでもAFWの活動の中でも『女なのにすごい』と言われることがあるけれど、そう言われないようにしたいです。『女として』ではなく、表現者として“本物の魚地菜緒”になりたいです」

古賀「自分はパフォーマンスをすることを始めたばかりなので、ちょっと歩くだけとか、何でもない部分の動きが決められていないし、振る舞いや顔つきがやっぱり違う。『振り付けができる、できない』じゃない部分の基礎や表現を身につけたいです」

RYO「僕はヒップホップやストリート系のダンスをやってきて、短所を見えないくらいに長所を見せるコツを持っています。でも、AFWでは4人しかいないので、長所だけをやる訳にはいかない。パワーを使う部分はまだ苦手で、毎回課題に直面します。だけど、その短所を一つひとつ消していって、AFWのパフォーマンスに淀みなく入って、質を底上げできるようにしたいです。あとは世界中でショーをしたいです。ダンスは非言語の表現なので、どの国の人にも伝わるパワーを持っている。このチームで世界にどんどん出ていきたいです」

上西「グループとしては作りたいものを作っていく。変にAIRFOOTWORKSの勝ちパターンを作りたくないです。『THE DANCE DAY』では、直接的に感動を与えにいくような表現を目指した訳ではないのに結果、『感動した』と言ってくれる人がたくさんいた。『見た人が自分の経験を作品に投影したり、感情移入したりして混ざり合う』。それが身体表現(非言語)の力だと思うので、それを追求したいです。そのためには、自分たちが本気で向き合っているものをぶつけないといけない。だからこそ、表現の幅をダンスに限定しないで、これだけバックグラウンドが違うメンバーがそろっているので、自分たちのパーソナリティーが見えるショーをして、いろんな表現ができるアーティストでありたいです」

 重力から解き放たれるようなダンスで、エンターテインメントの新たな可能性を開いたAIRFOOTWORKS。4人はここで立ち止まらず、挑み続ける。

□AIRFOOTWORKS(エアフットワークス) 2018年結成のダンスパフォーマンスグループ。メンバーはリーダーの上西隆史(じょうにし・たかし)、本多諒(ほんた・りょう/RYO)、魚地菜緒(うおち・なお)、古賀虎(こが・こう)。世界初の鉄棒を使ったエアダンスで注目を集める。日本テレビ系『THE DANCE DAY』に2年連続で出演。24年大会のファーストステージでは番組史上最高得点を記録。

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