IWGP防衛戦で右ヒジ脱臼→緊急搬送の藤本つかさ、5時間ハマらず悲鳴「でも陣痛よりは痛くない」
“アイスリボンの象徴”藤本つかさが、24日、後楽園ホールにて“スターダムのアイコン”王者・岩谷麻優に挑戦したIWGP女子戦が行われた。史上初となるスターダム以外の女子プロレス団体での防衛戦となったが、お互いの意地の張り合いがヒシヒシと伝わってくる壮絶な試合に。ハプニングが起こったのは15分すぎ。藤本が得意のビーナスシュート(三角跳び式延髄斬り)を繰り出した直後、着地の際に藤本が右ヒジを脱臼。結果的に岩谷が6度目の防衛を果たしたが、藤本は医務室に直行し、そのままタンカで緊急搬送される事態となった。一夜明け、病院で診察を待つ藤本を電話で直撃した。
右ヒジ脱臼も「大丈夫!」と、まさかの右腕を突き上げる
“アイスリボンの象徴”藤本つかさが、24日、後楽園ホールにて“スターダムのアイコン”王者・岩谷麻優に挑戦したIWGP女子戦が行われた。史上初となるスターダム以外の女子プロレス団体での防衛戦となったが、お互いの意地の張り合いがヒシヒシと伝わってくる壮絶な試合に。ハプニングが起こったのは15分すぎ。藤本が得意のビーナスシュート(三角跳び式延髄斬り)を繰り出した直後、着地の際に藤本が右ヒジを脱臼。結果的に岩谷が6度目の防衛を果たしたが、藤本は医務室に直行し、そのままタンカで緊急搬送される事態となった。一夜明け、病院で診察を待つ藤本を電話で直撃した。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
「脱臼でした。精密検査をして、脱臼以外に靭帯損傷と小さな骨が数ミリ削れてたみたいです。なので、安静か手術の二択でした。早く治るのはどちらか聞いたら、期間はどちらも同じでリハビリ次第だけど、安定感は圧倒的に手術だと。靭帯が緩くなっていたので、靭帯縫合術をします。シードリングの中島安里紗と南月(たいよう代表)さんにも相談して、この選択にしました」
まず藤本に現在の状態を確認すると、そんな声が返ってきた。現在の藤本は、8月23日の後楽園ホール大会で引退する、盟友の“悪魔”中島安里紗に合わせ、4月から8月まで限定復帰の真っ最中。また、1歳の子を持つママでもある。そういった最低限の情報を加味すると、本来であれば藤本の身に起こったことは、慌てふためくハプニングに他ならないが、決してそれを感じさせない“凄み”が感じられる。
――脱臼の話の前に、昨日の試合を振り返ってもらうと、全体的にはどんな感じでしたか。
「試合自体は、なんで今までこの人と関わってなかったんだろうって。なんでこんなにスイングするんだろうって、レスラーズハイな気持ちになってめちゃめちゃ楽しかったです」
――お互いに意地の張り合いで、お互いの背中を蹴り合う場面が何度もありました。
「楽しいんですよね、痛いとかじゃなくて。もちろん痛いんですけど……それを越えた楽しい……負けたくないみたいな感じですね」
――脱臼はビーナスシュートの着地の時に起こった感じでしたね。
「着地で、はい。実は過去にあの技で靭帯をやったこともあったんですけど、お客さんの前でああなったのは初めてです」
――それは危険な技ですねえ。
「そうですね、ちょっと考えなきゃなとは思います」
――着地した瞬間は、やっちゃった!と思ったんですか?
「思いました。やったとは思ったんですけど、冷静でした。バレていないので、前受け身以外の自分の技で攻めようと思って、はい」
――岩谷選手が異変を察知して「もう終わりにしましょう」と伝えたら、「まだやれる」と藤本さんは答えたと、試合後に話していました。
「まだやれるって(岩谷に)張り手してましたね。そしたらレフェリーのバーブ佐々木さんに止められましたね」
――賢明な判断だったと思います。映像を見ると、ちょっと変な方向に藤本さんのヒジが曲がってますね。
「私も写真や映像で確認したんですけど、ちょっとエグい感じで曲がっていましたね」
――そんな状態で「まだやれる」っていうのは、何をどうやれると思っていたんでしょうか。
「気持ちがまだやれるって、こんな舞台の整ったシチュエーションでレフェリーストップはないだろう。勝ちか負けしかないって。あのベルトが欲しいっていう一心でしたね。でも、結果的にバーブさんがレフェリーストップの判断をしてくれたことで私は救われたし、続行していたら、たぶん腕が粉々になっていたと思うので、とても感謝しています」
――セコンドで盟友の“悪魔”中島安里紗選手も心配そうでした。
「無理だよ、無理だよってリング下から声が聞こえましたね」
――しかし藤本さんは脱臼しているにもかかわらず、「まだやれるのに…」って言っていたし、「大丈夫!」って右腕を上げていましたよ。
「あれなんですかね?(苦笑) 私も映像を見返して思ったんですけど、ただの意地ですよね」
岩谷麻優にIWGP王者としての器を感じた
――試合後、医務室に入ってからはなかなか出てきませんでした。
「脱臼だったので、まずは固定して、救急車を待っていたんですよ。そのなかで岩谷麻優も来てくれたので、謝りました。『ホントにごめん』って」
――まあ、しょうがないですもんね。
「悔しいです。私としては、しょうがないではまだ消化しきれないというか……。あんな、作っても作れないような舞台、対抗戦だったし、なおかつIWGPっていう、女子で1番にしていかなきゃいけないベルトだと思っているので。あの状況のなか、岩谷麻優がマイクでああいう言葉選びをしてくれたセンスというか、岩谷麻優のIWGPのチャンピオンとしての器を感じました」
ここで岩谷の言葉を書き記すと、6度目の防衛を果たした岩谷は、リング上で藤本に対し以下の言葉を投げかけ、挑戦者をねぎらった。
「藤本つかさ、痛いよね。自分も赤いベルト(ワールド王座)、開始2分30秒でヒジを脱臼してチャンピオンを剥奪されたことがあって。あなた、よく今、リングに立ってられるね。すごいね。やっぱ、とんでもねえわ。あなたはやっぱりアイスリボンの象徴。戦ってあなたの強さ、感じることができました」
さらに「正式にあなたから勝って女子プロレスのアイコンだと言いたかったけど、引退しちゃダメだよ。全然、まだまだ先。限定復帰とかじゃなく、またケガ治して。その時までチャンピオンでいるから、このベルトをかけてもう一度闘ってください」と呼びかけ、藤本の左手を握った。
――試合前には、IWGP女子王座がアントニオ猪木のつくったベルトの流れを汲むことから、藤本さんは猪木家の墓(横浜・鶴見にある大本山總持寺)に墓参りに行かれていたし、いつも以上にガッツリ試合をしなければ、という意識はあったんですかね。
「もちろんIWGPに権威はあります。ただこの闘いにはなんというか、“アイスリボンの象徴”VS“スターダムのアイコン”とか、お互いの誕生日(岩谷の誕生日の2月19日と藤本の誕生日である7月30日)がともに『プロレス記念日』だったとか、似た境遇の二人が対戦することとか、ともにデビューからずっと同じ団体にいて、背負ってる意地、そういう部分がすべてIWGPのなかに含まれていた気がしますね」
――変な言い方かもしれないですけど、最近のプロレス界はとくに、女子に目が行くことが増えた気がします。
「女子は感情と感情のぶつかり合いがエグいですよね。『女子プロレス』だから好きなんですけど、私は」
――最近は、男子より女子のほうが、リミッターをあっさり超えた、激しい感情のぶつかり合いが見えるような……。
「私の周りの女子レスラーは『プロレス』じゃなく、いつも『女子プロレス』って言うんです。『女子プロレス』は生き様とかリアル過ぎる感情が見える気がして。全部をさらけ出せるというか、出させられる。そういう意味では今回の悔しさもそうなのかな……。まだ受け入れられないけど、人間誰しも持っている、カッコつけて隠したがるところもさらけ出すのも『女子プロレス』なら、もうとことん人生さらけ出しますよ、女子レスラーになったからには(笑)」
――そんな藤本さんですけど、実は今、1歳のお子さんを絶賛子育て中のママさんじゃないですか。
「そうですね。家に帰ってきて、子どもを抱っこできなかったのがちょっとツラかったですね……」
“悪魔”中島安里紗に引退延期を要求!?
――例えば「試合なんてしてないで、ちゃんと子育てをしろ」みたいな声はあるんですかね。
「全くないですね。たぶん、私がママさん感がないからなのか。『ホントに結婚してますか?』みたいに言われることは未だにありますけど(笑)」
――女性のカラダのことはよくわからないですけど、産後の不調みたいなものも含め、まったく問題はない感じですか?
「体調面は大丈夫ですね。寝不足もなかったし。まあ、家族の協力もあったからこその今があるとは思っています」
――正式な結論はまだ先なんでしょうけど、今後はどうなっていきますかね。
「術後の回復次第なのでなんともいえないんですけど、なんのために復帰したかっていうと、中島安里紗の引退試合(8月23日、後楽園ホール)のためなので、そこには間に合わせたい。あとは許されるなら岩谷麻優ともう1回、できたらなっていう思いは私のなかにはあります」
――岩谷選手との再戦はともかく、もし中島選手の引退試合に間に合わなかったら、中島選手に「あんたのために復帰してこうなったんだから、私が治るまでは引退を伸ばせ」って言うしかないですね。
「言おっかな。それも人間ドラマですよね」
――そう思います。だって「わざわざ中島安里紗のために限定復帰したのに、怪我したんだから復帰までくらい待てないのか!」っていう話じゃないかと。
「そうですよね(笑)」
――そしたらファンも喜んだりして(笑)。
「お互いに、安里紗のため、つっかのため、ですもんね」
――そうですよ! だって中島安里紗が引退するからって藤本つかさが限定復帰しなければ、今回の脱臼はなかったはずだから。
「ホントだ! ちょっと待って下さい。話が変な方向に!」
――中島安里紗本人も悩んで悩んで決めたんでしょうから、滅多なことは言えないですけど。
「ですねえ……」
――ちなみに岩谷麻優が脱臼した時は、復帰までに3か月かかったそうです。
「そうなんですか……。それじゃ間に合わない。でも私が12年前ヒジを脱臼した時には、試合を欠場しなかったです」
――休まなかった!?
「運良く骨と靭帯が切れていなくて、損傷だけだったので、1週間後に試合をしましたね。だから今回はちょっと違うかもしれませんが。そういうパターンもあったので祈るばかりです」
――すごい話をサラッと言いますねえ。
「それとこれ、書いてほしいんですけど、実は脱臼して、ヒジがハマるまで5時間かかったんです!」
――え! 5時間もハマらなかった!?
「なかなかハマらなくて地獄でした。それはちょっと書いてほしくて。でも陣痛よりは痛くないので…」
そう言って藤本は出産経験者らしい言葉を発したが、最後は「でも、悔しいです。ホントに…」と本音を漏らした。
藤本が言うように岩谷戦は、初の一騎打ちにもかかわらず、絶妙にスイングした緊張感のある一戦だった。
そんななか、新日本プロレスの管理するIWGP女子王座の防衛戦を、スターダムではなく、アイスリボンで実施すること。
そこにはメジャーもインディーもあっさり超えた、令和女子プロレスの新しいカタチが見えた。王者・岩谷VS藤本の激闘が記念すべき新たな扉を開いたのである。
しかも「一寸先はハプニング」というアントニオ猪木が口にしていた自体が起こったこともまた興味深かった。 いつかこの続きが見られる時は、さらなる激闘必至の展開がリング上で繰り広げられるだろう。それを見届けるためにも、まずは藤本の怪我からの完全復帰を心待ちにしたい――。