池上季実子、コロナ感染で死にかけた 今も欠かせない酸素ボンベ「苦しさを分かってなかった」
俳優の池上季実子(65)が松下奈緒主演映画『風の奏(かなで)の君へ』(6月7日公開、大谷健太郎監督)で初のおばあちゃん役に挑戦している。撮影直前の2022年2月には新型コロナウイルスに感染し、降板どころか、命の危険もあったと明かす。
衣装合わせに酸素ボンベつけたまま参加「みんなは『えっ』といった感じ」
俳優の池上季実子(65)が松下奈緒主演映画『風の奏(かなで)の君へ』(6月7日公開、大谷健太郎監督)で初のおばあちゃん役に挑戦している。撮影直前の2022年2月には新型コロナウイルスに感染し、降板どころか、命の危険もあったと明かす。(取材・文=平辻哲也)
「コロナになって、(天国の)お花畑を見ちゃったんですよ」。池上は明るくコロナ感染を振り返る。今も酸素ボンベは欠かせず、時折、咳き込むこともある。
感染したのは22年2月。仕事を控えていることもあり、コロナ対策は万全のはずだった。
「マスクを二重にしていましたし、買い物は、夜中に24時間営業のスーパーで済ませていました。なるべく人に会わないような生活していたのに、なんでコロナになるの、みたいな感じだった。ちょっと悔しかったです。しかも重症でしたから」と振り返る。
体温は毎日、40度前後だった。コロナだと分かったが、最初は自宅療養に務めた。
「熱には強いんで、自分でご飯を作れるほどだったんです。食べてから体温を測ると、39度6分。大丈夫かなと思っていました。それで1週間くらいたって、昼間は39度6分で、朝起きたら、37度を切っていたんです。1週間で治るんだと思っていたんです。お手洗いから戻ってきたら、酸素飽和度が80だったんです」
一般に酸素飽和度は96%以上が正常、93%以下は要注意、90%以下は呼吸不全が心配される。80%というのは異常値だ。
同じ時期にコロナに感染した友人が2人いた。その一人に報告すると、「オレは入院したぞ。80なんて、死ぬぞ。すぐに病院に電話しろ」と言われた。
池上は「考えますよ」と言って、LINEのコロナ相談に連絡を取った。状況を説明すると、ベテラン風の看護師が「大変! 私が変わるわ」と電話口に出てきた。
「今も80ですか。あなた死にますよ。すぐ救急車呼んでください」と看護師。
最初は「救急車を呼ばないとダメですか」と答えたが、看護師は「ダメです。とんでもないです。一番、最悪なパターンですから、すぐ病院に行ってください」と言われ、119番に電話した。
「それがお昼の12時半です。『混んでいるけど、すぐに行きますから』と言われ、救急車が到着したのは午後6時。すぐに酸素マスクをつけられました。なかなか病院が決まらなくて、相当遠い病院まで連れてから、到着したのは10時半過ぎ。着いたら、すぐに『ICUへ』と言われて、『(酸素を通すために)声帯を切らないといけないかも』と言われました。声が出なくなるなら、死んだ方がマシ。イヤと言いました」
医師は鼻から酸素を吸入させたが、鼻の粘膜が乾いて、痛みが激しく、これが一番苦痛だったという。
「それまでは動いてないから、肺の苦しさをあんまり分かってなかったんです。医師からは『今日が峠ですからね』と言われても、『峠なんだ』みたいな気持ちでした」
初挑戦のおばあちゃん役に「計6回ブリーチ」したこだわり
長い入院生活に入ったが、ずっと出演映画のことが気になっていた。3月末には東京・調布での衣装合わせも酸素ボンベをつけたまま参加した。
「私が中に入っていったら、みんなは『えっ』といった感じで顔面が引きつっていましたね。その後も、先生からは『5月のゴールデンウィーク明けるまでは退院はダメだ』と言われたんですが、私は言い出したらきかないので、強引に退院しました」
池上がそんな思いをしてまで出たいと思った本作は、茶の名産地である岡山県美作(みまさか)地域を舞台に、この地を訪れたピアニスト・青江里香(松下奈緒)と、茶葉屋を営む兄弟(杉野遥亮、flumpoolの山村隆太)をめぐる物語。池上は、兄弟の祖母役を演じた。
19年にオファーがあった時は舞台、映画が立て続けで、そんな中、今までの自分のイメージとは違った祖母役に大きな魅力を感じていたという。
「私はある意味、役に偏りがあったと思うんです。確立された池上季実子のイメージがあるのは分かっていたし、それには感謝だったんですけど、役者なんだから、いろんな役やりたいと思っていたんです。いっぱいいただいた役も(コロナ禍で)中止延期になってしまったんですが」
この祖母役の容姿にはこだわり抜いた。撮影中も、エキストラや地元の人が池上だと気が付かないほどだった。
「この映画は、3人が主役なので、私はつまらないことで目立ちたくないな、と思ったんです。特に髪は白く塗ってしまうと、大きな画面で見ると、バレてしまう。だから、これは自前の髪を染めないとダメだなと思いました」
最初に西麻布の美容院では2回ブリーチで色を抜いたが、満足できず、友人の息子が美容師を務める神奈川・藤沢の美容院にも足を伸ばした。
「もともとが黒かったので、うまくいかないんですよ。田舎のおばあちゃんなのだから、白くないと意味がないの、と言って、計6回抜いてもらいました。『もうこれ以上できない』と言われて、できたのがミルクティーみたいな色でした。現場には3日前に入ったので、本番まで洗わないでもっと白くすると言って、なじませたので、多分ナチュラルには見えたんじゃないかなと思うんです」
映画の出来栄えには満足している。
「プロデューサーに『私、おばあちゃんやっていたね』と言ったくらい、よかったなと思っています。映画は、若者3人の物語ですが、ピアノがミックスされ、オシャレ感も出ているし、過疎、跡継ぎ問題、伝統がなくなっていく現状などがさりげなく取り上げていて、押し付けがましい演出じゃないところも好きです。ジワジワっと入ってくる作品なんじゃないかなと思っています」。コロナを乗り越えて見せた自身の新境地がどう届けられるのか、楽しみにしている。
□池上季実子(いけがみ・きみこ)1959年1月16日生まれ、アメリカ出身。1974年、ドラマ『まぼろしのペンフレンド』でデビュー。映画『はだしの青春』(75年)、映画『太陽を盗んだ男』(79年)、ドラマ『男女7人夏物語』(86年)、ドラマ『ラジオびんびん物語』(87年)、ドラマ『苦い蜜』(10年)、ドラマ『科捜研の女 (第15期)』(15年)、映画『ミックス。』(17年)、NHK大河ドラマ『草燃える』(21年)など。『陽暉楼』(83年)で、第7回日本アカデミー賞主演女優賞、『華の乱』(88年)で第12回日本アカデミー賞助演女優賞を受賞している。