中村時蔵「“いじめられ方”も大事」 嫉妬にかられる“お三輪”役のポイント語る

歌舞伎俳優の中村時蔵、中村梅枝、小川大晴(ひろはる)が13日、東京・中央区の歌舞伎座稽古場で行われた歌舞伎座『六月大歌舞伎』の合同取材会に出席。襲名披露の演目や役どころについて思いを語った。

取材会に出席した中村梅枝、小川大晴、中村時蔵(左から)
取材会に出席した中村梅枝、小川大晴、中村時蔵(左から)

女方最高峰・六代目中村歌右衛門の教え「“時代に”セリフを言いなさい」

 歌舞伎俳優の中村時蔵、中村梅枝、小川大晴(ひろはる)が13日、東京・中央区の歌舞伎座稽古場で行われた歌舞伎座『六月大歌舞伎』の合同取材会に出席。襲名披露の演目や役どころについて思いを語った。

 この六月大歌舞伎で、時蔵が初代中村萬壽(まんじゅ)を、時蔵の長男・梅枝が六代目中村時蔵を襲名する。また梅枝の長男で8歳の大晴が五代目中村梅枝として初舞台を踏む。時蔵は萬壽襲名披露狂言として夜の部『山姥』に山姥役で出演。孫の大晴も同演目で怪童丸(後の坂田金時)を演じる。梅枝は時蔵襲名披露狂言として、昼の部『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)三笠山御殿』で大役・お三輪を演じる。

『山姥』は、足軽山の金太郎(坂田金時)となる怪童丸を育てた母・山姥と、その力量が認められ都に召し抱えられることになった金太郎の姿が描かれる舞踊。時蔵は、「常磐津(三味線と語りで物語を節で語る)の『山姥』は名曲ですが、なかなか歌舞伎興行ではかからない。いい演目なんですけども、なかなか日の目を見ない」と語り、「なるべく、そういうものを世に出したいなと思って、選んだ次第でございます」と説明した。

『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿』は、大化の改新をモチーフにした物語の一部。恋人の烏帽子折求女(実は藤原淡海)を追う杉酒屋の娘・お三輪が、三笠山御殿に入っていくところからスタートする。求女が敵対する蘇我入鹿の妹・橘姫と祝言をあげると聞き驚いたお三輪は御殿に入るが、意地悪な官女たちからいじめられてしまう。最後は嫉妬に狂い刺されてしまい、“疑着の相”となる。入鹿を滅ぼそうと画策する鱶七から、「“疑着の相”となった女の生き血」があれば入鹿を倒せることを聞いたお三輪は、自分の死が求女の役に立つと聞きながら息絶える、という切ない物語。

 時蔵は、「梅枝が演じる妹背山は、わたくしも時蔵襲名の時にやりましたし、わたくしの父も襲名する時の襲名披露の演目で、我が家には大変縁がある」と説明。「今回、梅枝がどういう風に演じてくれるか楽しみ」と語った。梅枝も、「祖父、父と襲名狂言でお三輪を勤めさせていただいている。わたくしは、『お三輪、まだやってなかったんだ』と何人かの方におっしゃっていただいて、時蔵襲名の場で初役でお三輪に挑めるのは、巡り合わせなのかな」と語った。「お三輪は、女方なら誰もが憧れる役。妹背山婦女庭訓という世界観、ファンタジックなところを、存分にお客様に楽しんでいただけるように演じるのが目標。その第一歩として丁寧に演じたい」と意気込んだ。

 時蔵は、お三輪を演じる上での大事なポイントとして、「最後は“疑着の相”といわれる、嫉妬が凝り固まった表情になります。それによって、その女の血を笛に仕込んで、蘇我入鹿の魔力が失せるという大事なところ。そこに行きつくまでの“いじめられ方”も大事だと思います」と説明。三笠山御殿で、お三輪は「いじめの官女」たちに次々と嫌がらせをされてしまう。時蔵は、時蔵襲名時に戦後最高峰の女方と呼ばれた六代目中村歌右衛門からお三輪役を教わったといい、「当時、歌右衛門のおじさまは、わたくしを指導するよりも、“いじめの官女”たちにダメ出しをしておりました。『こうしてやんないさい』『こういう風にいじめてあげてよ』と言っていたのを覚えています」と明かした。

 また「歌右衛門のおじさまには、いろんな役を教わりました」と語り、「おじさま自身は、お三輪のような娘役、片はずし(毅然とした武家の女性。片はずしというかつらの種類から付けられた呼称)など、なんでもお出来になりました。『役になりきることが大事』『役になりきりなさい』と厳しくおっしゃっていた」と振り返った。

 また「歌舞伎は古典だと思うんです」と語り、「おじさんたちから教わった時によく言われたのが、『もっと“時代に”セリフを言いなさない』と。“時代に”って、どんなセリフって……分からなった。でも、試しに次の時にやってみて、(注意を)言われなくなると、『こういう感じなのか』と(感覚で学んでいた)」と懐かしんだ。「未だに、『こういうふうに言えば“時代なセリフ”になる』というのは、掴めておりません」とその難しさも吐露。「“時代なセリフ”を言うことが、古典を演じる上で大事なことなんだと思います。リアルな芝居ではあるんだけれど、そこに“時代のセリフ、古典み”がないと、歌舞伎としての面白みや、本来の姿がなくなるような気がしております」と語った。

 梅枝は、「『歌舞伎とはなんぞや』と考えると、歌舞伎には古典の演目に要素が多く含まれている。こういう時代ですので、新しいもの、面白い娯楽がたくさんございますが、“愚直に古いものを守っていく人”が1人くらいいてもいいかなと、思っております」と語った。また「父も国立劇場の養成所の講師を務めていますが、僕も時蔵になる以上は後進の育成も改めて考えていかないとと思います」と役割を語り、「なるべく古典をつきつめて、その中で、お客様の心に残る芝居を模索していければ」と意気込んだ。

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