知事訓示を聞いて「辞めようと決意」 元公務員女性、行政組織は「時代に取り残されている」

採用初日、知事訓示を聞いて、「県職員を辞めようと決意しました」。ある女性が、約10年間の公務員勤務経験を糧に、フリーランスとして新しい道を歩み始めている。世間がうらやむような安定職から自分のスキルで勝負する世界へのジョブチェンジ。公務員からの転職2年目を迎えた30代女性は、大学院でのリスキリング(学び直し)も検討しているという。新年度が始まり、働き方や職場について考えることが多くなる時期。“どう生きるか”を見つめ直すタイミングでもあるだろう。元公務員の女性にライフステージに対する考えを聞いた。

新生活が始まって働き方や生き方を考える機会は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】
新生活が始まって働き方や生き方を考える機会は多い(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「帰りに本屋に寄って、参考書を購入した4月1日を私は忘れない」

 採用初日、知事訓示を聞いて、「県職員を辞めようと決意しました」。ある女性が、約10年間の公務員勤務経験を糧に、フリーランスとして新しい道を歩み始めている。世間がうらやむような安定職から自分のスキルで勝負する世界へのジョブチェンジ。公務員からの転職2年目を迎えた30代女性は、大学院でのリスキリング(学び直し)も検討しているという。新年度が始まり、働き方や職場について考えることが多くなる時期。“どう生きるか”を見つめ直すタイミングでもあるだろう。元公務員の女性にライフステージに対する考えを聞いた。

 女性は東京農業大と信州大を卒業後、ある自治体の県庁に入職。約10年間の勤務を経て、現在はフリーランスに加え、実家の不動産賃貸業などに従事している。農学部と栄養学部で2つの大学を卒業した実績から、もともと持っていた管理栄養士の資格を活用し、行政や民間の仕事を受けている。米農家を中心とした新規就農者の支援にも取り組んでいる。新しい道を切り開くというパワフルなライフスタイルだ。

 女性は今回、自身のXアカウント、あさか主任(@yopamegu)で発信を行った。

「公務員を辞めようと思ったのはいつ?
よく聞かれますが、知事訓示を聞いた採用1日目です 知事訓示を聞いて、県職員を辞めようと決意しました。
 帰りに本屋に寄って、参考書を購入した4月1日を私は忘れない」

 約10年前のことで、詳細をはっきり記録して覚えているわけではない。あからさまではないが、“公務員は特別だ”といった趣旨の発言があったように記憶しているという。「職場の雰囲気なども含めて、いずれにせよ定年退職までいるような組織ではないなと直感した瞬間でした」と振り返る。

 頭を切り替え、「退職に向けて」勉強したことは3つ。

 まずは、投資の勉強だ。「それまで現金派・貯金派でしたが、書籍等で投資の勉強を始めました。NISAで投資信託を中心に資産形成。たまに個別株の売買もしますが、趣味とお小遣い稼ぎの範囲です」。次に、個人事業になるための準備だ。「私の場合は、退職後すぐに転職して組織に属するということは考えていなかったので、個人事業主になる準備を開始しました」。そして、現在、注目されている社会人の学び直しだ。「いずれは大学院への進学を、と思っていたので、大学院進学の準備もスタートさせました」と話す。地方公務員として職責を全うし、新型コロナウイルス禍対応などにも奔走。“10年ひと区切り”で退職、新たな旅立ちを果たした。

 公務員の職業は、給与待遇面での安定がイメージとして浮かぶ。実際のメリット・デメリットのリアルを聞いてみた。

「公務員になってよかったことについてです。福利厚生・社会的信用度(ローンを組みやすい等)と、毎月支払われる給与・年2回の賞与ですね。休暇などの制度面は整っていると思います。産休育休制度もきちんと取得でき、育休に関しては、男性職員も取得しています」。ただ、やりがいについては「問われてすぐに浮かびませんでした」と苦笑いを浮かべる。

行政の硬直人事の課題 「さらに現場がカオス化していくような気がします」

 デメリットは鋭い指摘が。「縦割り行政・年功序列・旧態依然としていることです。特にコロナ禍以降は、時代の変化についていけず、取り残されている感じがします」。硬直した人事制度にも問題があるといい、「人事異動も適材適所とは言い難く、若い人材がのびのびと活躍し、個々の能力を生かして働くことは難しいのかな、という感じます。定年延長や役職定年の導入で、さらに現場がカオス化していくような気がします」と言及する。

 そして、「事業を作ることは得意だけれど、スクラップすることが苦手なのが行政なので、これから先は、事業のスリム化と組織のスリム化が必要になると思います」ときっぱり。勤務経験者だからこその厳しい提言を示した。

 昨今の日本では、政治家や首長、企業人らトップに立つ人物による発言が社会ニュースになることが多い。「言葉には力があります。人の心を傷つけることもあれば、人を癒やし、励ますこともあります。社会的に影響力のある立場の方は、人を思い、ポジティブな言葉を発信していただきたいです」との見解を語る。

 なかなか脱却につながらない経済不況、物価高、上がらない賃金……。将来を考えると、頭が痛いことばかりだ。雇用の流動化が少しずつ進む中で、副業やダブルワークなど、働き方の選択肢が広がっていることも確かだ。

「少子高齢化、人口減少、外国人労働者の増加など、これからの日本が向かう未来は明るいとは言えない気がします。公務員・会社員として組織に属していれば安心、老後も困らないという時代ではなくなると思います。右肩上がりの経済成長の時代は終わり、規模の大きな経済圏から、地域で小さな経済圏を形成し、そこで経済を回していくようなしくみが今後は必要になってくると思います。個人の副業や兼業が、10年後のスタンダードになるのではないかと思います」。これが、女性が見通す新しい社会のかたちだ。

 とはいえ、公務員卒業組として、悩みながらも進んでいる最中。自分が得意な分野を生かしながら、最適解を探していく覚悟だ。

「公務員として勤務した約10年間で行政のしくみや政策・制度設計などを学ぶことができました。行政のしくみや独特の文化を知ることができたことはとても貴重で大きな財産になりました。行政と民間には文化や考え方にギャップがあります。小さな経済圏を形成していく際に、補助金の活用など、個人が新規にビジネスを始める際の行政との橋渡しのような役割を担えたらなと思っています」

 そのうえで、「とりわけ、食糧問題には興味があり、現在も米農家の方と一緒に仕事をさせていただいているので、農業者支援に力を入れていきたいです。公務員時代は、副業や兼業はもちろん大学院進学にも制限があったので、今はやってみたかったことをいろいろとやっているような状況です。大学院卒業後は、学術分野で研究者や教育者でもいいかなと思いますし、民間企業様に再就職でもいいですし、自分の個人事業が軌道に乗っていれば、それを成長させていくでもいいですし、戻りませんが古巣にジョブリターン制度で出戻りという選択肢もあるので、模索中です」と話している。

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