野口五郎、芸能界の経験が子育ての「邪魔になることも」 長男長女とは「自由に話し合える仲」
1970年代、西城秀樹、郷ひろみと「新御三家」と呼ばれた歌手・野口五郎が、芸能生活53年目を迎えた。お茶の間ではジョークを連発して周りを笑顔にさせるユニークさがある一方で、音楽に関してはスタジオミュージシャンとしてのストイックな一面を持っている。プライベートでは長女の佐藤文音さんがピアニストとして活動を始め、ステージ上で親子共演も実現。68歳になった野口は過去を振り返りながら今、何を思うのか。2回にわたるインタビューの後編は「子育て」と「追い求める永遠のテーマ」について。
休日も音楽「オンもオフも一緒なんです」
1970年代、西城秀樹、郷ひろみと「新御三家」と呼ばれた歌手・野口五郎が、芸能生活53年目を迎えた。お茶の間ではジョークを連発して周りを笑顔にさせるユニークさがある一方で、音楽に関してはスタジオミュージシャンとしてのストイックな一面を持っている。プライベートでは長女の佐藤文音さんがピアニストとして活動を始め、ステージ上で親子共演も実現。68歳になった野口は過去を振り返りながら今、何を思うのか。2回にわたるインタビューの後編は「子育て」と「追い求める永遠のテーマ」について。(取材・文=福嶋剛)
野口はタレントの妻・三井ゆりとの間に1男1女をもうけた。現在、音楽大に通う長女・文音さんについて、「最後に卒業試験があってね。学生は大変ですよ」と気遣った。長男は大学1年生。芸能界に興味があるかと聞くと「あんまりないんじゃないかな。楽器をやっていて個人的に音楽を楽しんでいるみたいですが」と答えた。
家族とのコミュニケーションで大切にしていることは、「楽しさ」と「子どもたちへの愛」だという。
「開けっ広げというか、自由に話し合える仲なので子どもたちも遠慮なく僕たちに言いたいことを言ってくれます。2人とも成人して全員で食卓を囲む機会も少なくなりましたが、4人が集まるとうれしくてね。そんな時は僕がずっと食事中に冗談を言っています(笑)。2人にはこういう楽しい時間を覚えていてほしいなって思います」
もちろん、親子でぶつかることもある。
「親子ゲンカはありますよ。他のご家庭でも、子どもに『分かってないな』とか『情けないな』なんて言ってしまうことって、あるかもしれませんよね。僕も子どもたちにそんなことを言ってしまうと、『言い過ぎだよ』って言い返してくることもあります。そんな時は『お父さんはもっとたくさん情けないことをやってきたんだよ』と伝えたうえで、『だからこそ君たちのことがよく分かるし、それをひっくるめていとおしいんだ』と真っすぐに伝えるようにしています。そして『どんなことがあっても、俺は君のことが大好きだから』って必ず子どもたちには伝えています。僕は家族のコミュニケーションで、子どもたちに『大切な存在なんだ』とちゃんとフォローできるかどうかが重要だと考えています」
芸能人という肩書きが邪魔になることもあるという。
「家族には僕の昔話をすることもよくあります。子どもたちが生まれた時、仕事が忙しくて会いたくてもなかなか会えなかったので、仕事がつらいと感じたことや子どもたちの存在が僕に勇気を与えてくれたという話をします。そして、『家族に感謝している』とちゃんと言葉で伝えるようにしています。反面、長い間(芸能界で)生きてきたという履歴が邪魔になることもあります。子どもたちが何かに挑戦しようとしている時も、『僕は半世紀以上、芸能界という世界でいろんな経験をしてきたから、その経験談がこれから挑戦しようとする君たちの邪魔になってしまうかもしれないけれど』と前置きを忘れないようにしています。そして、『挑戦した方が良いと思うよ』と後押しをしたり。そんなふうに年齢によって向き合い方も変わってきますよね。家族はかけがえのない存在です」
野口には、家庭も仕事も一貫して大切にしてきたテーマがある。『心の豊かさ』だ。
「“豊かさ”は人間にとって一番大切なことだと思います。今、世の中がデジタル社会になって便利になった分、心の豊かさをどんどん失っていると感じます。人間は本来、アナログ社会の中で生きてきたのでデジタルに頼る社会になった今、根本的にその流れに逆らうことはできませんが、その中で豊かさを保つことを考える必要があると感じました」
「音楽は情報じゃなくて芸術」大切なのは人間の思い
野口は情報分野でもさまざまな挑戦をしてきた。現在のようにサブスクが浸透する前の2014年、QRコードを使って音楽ライブの音声や映像をデジタル配信する仕組み(『テイクアウトライブ』)を考え、株式会社ティーオーエアを立ち上げた。これまでDREAMS COME TRUEをはじめ、さまざまなアーティストが野口のサービスを採用してきた。現在は配信データやCDでは感じることができないアナログの持つ響きをデジタルで再現する技術、DMV(Deep Micro Vibrotactile)を開発。2月に発売したセルフカバーアルバム『GOROes by my self 2~CITY POP~』でも採用されている。
「最新技術を追い求めているのではありません。『本質を忘れないで欲しい』という古い考えの人間が始めた事業なんです。これはハッキリお伝えしたいのですが、『音楽は情報じゃなくて芸術』なんです。きっとこれを読んでくださった方の中で、『ライブに行く』という方もいると思います。なぜ、配信やCDで満足せずにライブに行くのでしょう。どんなに良いメロディー、どんなにクリアな音でも、そこにはない『人間の思い』がほしくて会場に足を運ぶんじゃないのかなって。僕はAIが音楽で人間を癒やすなんて100%無理だと思うんです。だから、生きている間は『豊かさとは何なのか』を追い続けていきたいと思います」
休みの日の過ごし方を聞くと、「音楽」と言って笑みを浮かべた。
「僕はオンもオフも一緒なんです。結局、情報技術も音楽に思いを寄せてやってきたことなので、音楽関係者以外の人と話をする時も、根っこは音楽なんです。だから、予定がぽっかり空いてしまうと何をしたら良いのか分からないんです」
野口は昨年10月、ディナーショーでキャリア初となるNHK交響楽団のソリスト5人とのコラボに挑戦。今年2月、東京オペラシティで開催した『GORO NOGUCHI CONCERT TOUR 2024 Follow Your heart ~こころのままに~』ではバンドメンバーとN響ソリスト9人とのジョイントコンサートを成功させた。そして、5月19日に神奈川県民ホールで開催するコンサートでは再びN響メンバーとの共演が実現する。
「楽器の編成や会場によって、音の聴こえ方が全く異なるので、毎回アレンジからやり直しています。N響の皆さんはソリストや首席として活躍される精鋭ぞろいで、その都度メンバーが変わりますから、リハーサルの段階からいつも新鮮な刺激を受けていています。デビュー53年目で心躍る時間を持てていることに感謝ですね。当日は最新アルバムに収録したシティ・ポップもN響バージョンでお披露目しますし、日本最高峰の演奏を終演後にDMV入りでお届けするので、『豊かな音』を体験していただけたらうれしいです」
これからの希望を聞くと、「若い人たちともっと知り合える場が欲しいです。お互いに刺激的なコミュニケーションをまた取ってみたいです」と笑顔で答えた。その際も、野口は音楽をベースに話をすることだろう。ジョークも入れながら。
□野口五郎(のぐち・ごろう) 本名:佐藤靖。1956年2月23日、岐阜・美濃市生まれ。1971年、15歳で演歌『博多みれん』でデビュー。同年、ポップスに転向して『青いリンゴ』をヒット。西城秀樹、郷ひろみとともにトップアイドルの“新御三家”と呼ばれた。NHK紅白歌合戦は当時の最年少出場記録(16歳10か月)を樹立。代表曲は『甘い生活』『私鉄沿線』など多数。俳優としてはミュージカル『レ・ミゼラブル』日本版初演マリウスとして出演し、NHK大河ドラマ『功名が辻』、NHK連続テレビ小説『さくら』などに出演している。