武田鉄矢が熱弁するジャッキー・チェンの魅力 “低予算作品こそがチャーミング”
今年、活動50周年を迎える香港アクションスター、ジャッキー・チェン(69)。BS松竹東急(全国無料放送)では、4~5月にレジェンド声優・石丸博也氏が新たに音声を吹き込んだ「吹替完全版」として『成龍拳』(1977年)、『蛇鶴八拳』(77年)など7作品を放送する。大ファンを公言する歌手・俳優の武田鉄矢(74)がジャッキー作品の魅力を語った。
「金はかけられない分、体に決意がある」
今年、活動50周年を迎える香港アクションスター、ジャッキー・チェン(69)。BS松竹東急(全国無料放送)では、4~5月にレジェンド声優・石丸博也氏が新たに音声を吹き込んだ「吹替完全版」として『成龍拳』(1977年)、『蛇鶴八拳』(77年)など7作品を放送する。大ファンを公言する歌手・俳優の武田鉄矢(74)がジャッキー作品の魅力を語った。(取材・文=平辻哲也)
武田は大のジャッキーファン。ドラマ『3年B組金八先生』(79年~)が大ヒットした後に製作した全5作の映画『刑事物語』シリーズ(82~87年)では、ハンガーをヌンチャクのように振り回すハンガーヌンチャクを披露しているが、これもジャッキーの影響だ。
最初の出会いは『ドランクモンキー 酔拳』(日本公開79年)だった。チンピラ崩れの若者がアルコール中毒の武術の達人に出会い、酔えば酔うほど強くなる酔拳の極意を手にして、暗黒街の敵・鉄心に立ち向かう痛快ストーリー。
「ブルース・リーの登場には、ひっくり返りましたが、孤高のアクションスターといった感じで、自分とは遠かった。そんな時にジャッキー・チェンが入ってきて、飛びついたんです」
ジャッキー作品は低予算こそがチャーミングだという。
「スクリプター(記録係)も雇えなかったんじゃないかな。言葉は悪いけど、やっつけ仕事なんです。一番分かりやすいのがラストシーン。ジャッキーは酒の入った瓢(ひさご)を捨てて、酔拳を見せるんです。最初は瓢が倒れているんですが、次の場面では瓢が取りやすい位置に立っている(笑)。映画作りの基本にもお金をかけられなかったんでしょう。では、何をするかとなると、体を使うしかない。そこに断固たる決意があるんです」
その体当たりアクションのすごさが垣間見られるのが『スネーキーモンキー 蛇拳』(日本公開79年)だという。
「決闘に勝って彼が勇んで帰ってくるところで、エンドマークが出るんですが、前歯2本がない。誰かの一発で前歯の差し歯が飛んでいるんです。きっと一番危ないシーンは最後に撮っているんでしょうね。僕も、『刑事物語』の時は最後の方でアクションを撮りました。アクションの一番の手本はジャッキー・チェンでした」
ジャッキーは70年代、低予算映画を立て続けに作り、80年代は予算をかけたアクション、さらにはハリウッド進出も果たすが、最高傑作は初期の『酔拳』と言い切る。そこには、日本人が理想とすべき師弟関係があるという。
「これはジャッキー・チェンも気づいていないんじゃないかな。金八先生をやった私だから、分かることですよ(笑)。道場の不良息子は酔っ払いの男を酔拳の達人だと思って弟子入りするんですが、付き合っていくうちに、ただのアル中じゃないか、とんでもない人間のクズかもしれないと思っちゃうんですよ。確かにクズなんです。それでも、なお、その人を師と仰いだ時に、奥義が流れ込んでいくものなんです。先生を殴った生徒は永遠に学べない」
ジャッキーとは30代後半、1度だけ会ったことがある。九州で開催されたアジア映画祭での会場だった。
「私は九州の芸能人の代表でゲスト席にいたんです。遠くから、ジャッキーさんを眺めていたんですが、主演男優賞で登壇する時に、私の方を向いて、『武田さん!』と手を振ってくれたんです。きっと、日本のコメディアンがハンガーを振り回しているということを知ってくれていたんでしょうね。うれしかった」
今回のジャッキー特集では、2023年3月に引退したレジェンド声優・石丸博也が限定復活。従来の放送ではカットされたシーンに、新たな吹き替えをしているのも見どころだ。
「石丸さんの吹き替えも見事でしたね。私も映画館で見た時は吹き替え版でした。日本語版の挿入歌は日本のグループ(四人囃子)の曲もセンスがよかった」
アクションの魅力は、攻撃の技ではなく、受けという。
「ブルース・リーは技をかける方。ジャッキー・チェンはそれに重なるまいと思ったんでしょう。殴られて派手に飛ぶのが天才的。武道の本質は受けだと思うんです。受ける方が巧みだと、技をかける方が際立つ。だから、ライバル役にはカンフーの達人を集めていました。『酔拳』の鉄心の蹴りの奥義には本当に素晴らしいものがありました」
作品のテーマは、どうやって極意を手にするか、ということだという。
「だから、彼は徹底してやっつけられるんですよね。そこから逆転して倒すまでの糧を描く。技術ではないんです。彼はその後、ワイヤーアクションの魅力に取り憑かれていきます。蹴ると、人が何メートルも飛んでいくというのは絵面がいいんです。でも、ジャッキー・チェン映画の本質は、派手にやられ続けるところにあるんじゃないかと思うんです。その戦いの中で新しい自分を創造していく。そこが鮮やか。最後に勝つところではなく、そんなアクションにこそ、見どころ、彼の思想のすべてが入っていると思います」と力説した。
◯放送スケジュール
・4月15日(月)午後8時『成龍拳』<吹替完全版>
・4月22日(月)午後8時『蛇鶴八拳』<吹替完全版>
・4月29日(月)午後8時『カンニング・モンキー/天中拳』<吹替完全版>
・5月6日(月)午後8時『拳精』<吹替完全版>
・5月13日(月)午後8時『龍拳』<吹替完全版>
・5月27日(月)午後8時『クレージー・モンキー/笑拳』<吹替完全版>
・5月30日(木)午後8時『少林寺木人拳』<吹替完全版>
■武田鉄矢(たけだ・てつや)1949年4月11日、福岡県福岡市生まれ。72年「海援隊」としてデビュー。73年に『母に捧げるバラード』が大ヒットし、翌年にはNHK紅白歌合戦に初出場。77年に高倉健主演の映画『幸福の黄色いハンカチ』に出演し、俳優としても注目。『3年B組金八先生』(79年)が当たり役になった。脚本家、作家、映画監督としても活躍。代表曲に『あんたが大将』『人として』『贈る言葉』『思えば遠くへ来たもんだ』。主な出演作に『101回目のプロポーズ』、映画『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』、『刑事物語』シリーズ、『プロゴルファー織部金次郎』シリーズ。血液型O型。身長165cm、体重69kg。趣味:読書・柔道・ゴルフ。
ヘアメイク&スタイリスト:川岸みさこ