伊勢谷友介「日本の正義は浅はか」 復帰映画で見せた本当の気持ち「僕にとってはなかなか厳しい」

俳優の若葉竜也(34)主演の『ペナルティループ』(3月22日公開)は、最愛の恋人を殺された男が復讐(ふくしゅう)のループを10度繰り返すという異色作。『街の上で』(2021年)に続く映画主演2作目となる若葉と、俳優復帰作となる伊勢谷友介(47)が本作について語り合った。

インタビューに応じた若葉竜也(左)と伊勢谷友介【写真:冨田味我】
インタビューに応じた若葉竜也(左)と伊勢谷友介【写真:冨田味我】

3月22日公開の映画『ペナルティループ』に出演

 俳優の若葉竜也(34)主演の『ペナルティループ』(3月22日公開)は、最愛の恋人を殺された男が復讐(ふくしゅう)のループを10度繰り返すという異色作。『街の上で』(2021年)に続く映画主演2作目となる若葉と、俳優復帰作となる伊勢谷友介(47)が本作について語り合った。(取材・構成=平辻哲也)

 本作は、復讐する男・岩森(若葉)と復讐される男・溝口(伊勢谷)の物語。中村倫也主演のディストピア『人数の町』(20年)の鬼才・荒木伸二監督がメガホンを取った。工場の片隅で繰り返される復讐のループの中で、立場の違う男2人の間に、友情にも似た感情が芽生えていく。復讐の原因は? 復讐のループは何のために起こっているのか?

伊勢谷「オレはここでも罰せられるのか、と思いました(笑)。殺されるシーンはまとめて撮ったので、2、3日のうちに何度も殺された。映画の撮影って、こんなにきつかったっけ、と。いい気分ではなかったかな(笑)。ナイフを刺されないようにしようとするから、力が入る。ただ、結局死ぬんですが(笑)」

若葉「本気で抵抗する人を殺すのは並大抵なことじゃないので、肉体的な疲弊がすごかったです。血のりつけたら、全部きれいに落としてから次のループの撮影をする。作業着を何回着替えたのか分からない」

 殺す側も殺される側も大変な思いだったが、オファーをもらった気持ちはどうだったのか。

若葉「コロナ禍真っただ中で、映画業界もコンプライアンスを気にしていて、保守的な空気感がありました。何かを言えば、揚げ足をとられるような状態で、自分の中でも、破壊衝動みたいなものが蓄積していました。そんな時に監督から『一緒にこんな変な映画を作りませんか』と手を差し伸べられたような気持ちになって、『やります』と即決させていただきました」

 若葉はごく初期の台本から関わり、監督とセッションを重ね、その後、伊勢谷も同様にシナリオ段階から関わった。

若葉「『人数の町』はウェルメイドな作品でしたが、この映画は監督の無自覚な凶暴性が出ているなと思いました。それがうまい具合に残っていればと思いました。変な娯楽作になってもイヤだ、核の部分は残したいという思いがあって、監督といっぱい喋りました」

伊勢谷「僕は普段、本にあまり関わらないんです。言葉が強いので、自分が入ることで余計な味付けになっても困るんで。今回は、監督が僕をインタビューしてくれ、僕という人間の感覚的な部分を探ってくれた。その結果、シナリオが大幅に変遷していたので、ちょっと怖かったです。僕はこの映画で何をしていくのかと不安感がいっぱいでした」

作品について語った若葉竜也(左)と伊勢谷友介【写真:冨田味我】
作品について語った若葉竜也(左)と伊勢谷友介【写真:冨田味我】

若葉竜也は今作を「フィルモグラフィーの分岐点にしたい」

 映画では復讐のループが何度も繰り返す中、2人の距離感も詰まっていき、共同体としての意識が芽生えていくという不思議な展開を見せる。そこに共鳴する部分はあったのか。

伊勢谷「僕には明確にありました。若葉君は、自分のキャラの芝居プランを聞いてくれるんです。昔の俳優さんなら、意地があるから、そんなことは全然喋らないと思うのですが、全然気にしない。僕が何か言ったら、『ちょっとそれやってみます』と。役者同士の超えられない部分を余裕で超えてきてくれて、シンパシーを感じてしまった。そのおかげで友達気分が盛り上がりすぎたこともありましたが(笑)」

若葉「最初に岩森と溝口がバディーのようになっていくという設定を見た時は、できるのか、と思ったんです。でも、人間と人間がコミュニケーション取って、ざっくばらんにいろんなことをしゃべっていき、毎日共有することで、自然に親しくなることは普通にあることだと思いました。伊勢谷さんは小学6年生がそのまま大きくなった方だなと思いました(笑)」

 映画は、正義とは何かを問いかけている部分もある。

伊勢谷「日本は、正義の根本がすごく浅はかな国と思っています。世界の先進国では大丈夫なことが日本では禁止されている。そこからはみ出したものの人生を奪うのが、この国の正義なら、僕にとってはなかなか厳しい状況だと打ちひしがれる部分もあります」

 二人にとって、本作はどんな作品になったのか。

若葉「話をもらった時点でフィルモグラフィーの分岐点にしたいとは思っていたし、荒木監督の代表作だと言われるものにしたいと思っていたんで、それはできたかなと思っています」

伊勢谷「たくさん殺されることを乗り越えて、皆さんに見ていただく最初の作品になった。僕は自身で立ち上がって、会社を興し、自分が望まないこともたくさんやってきた。そんな中でも、復帰の一歩目は自分がやりたいことに近かった。監督の鋭さ、演出の妙にすごく感心させられた時があって、クリエイティビティーが集まった作品になったと思っています。ただ、僕がいいと思ったものはなかなか世間には受け入れてもらえないので、心配しています(笑)」

若葉「僕も頑張るので、状況を変えていきたいと思います」

□若葉竜也(わかば・りゅうや)1989年6月10日生まれ、東京都出身。2016年、『葛城事件』(赤堀雅秋監督)で第8回TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。主な出演作に『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、『生きちゃった』(20/石井裕也監督)、『AWAKE』(20/山田篤宏監督)、『あの頃。』(21/今泉力哉監督)、初主演した『街の上で』(21/今泉力哉監督)、『くれなずめ』(21/松居大悟監督)、『前科者』(22/岸善幸監督)、『神は見返りを求める』(22/吉田恵輔監督)、『窓辺にて』(22/今泉力哉監督)、『ちひろさん』(23/今泉力哉監督)、『愛にイナズマ』(23/石井裕也監督)、『市子』(23/戸田彬弘監督)など。4月スタートのドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系・毎週月曜22時)が放送予定。

□伊勢谷友介(いせや・ゆうすけ)1976年5月29日生まれ、東京都出身。『ワンダフルライフ』(99)で俳優デビュー。『あしたのジョー』(2010)で第35回日本アカデミー賞・優秀助演男優賞を始め数々の賞に輝く。『CASSHERN』(04)、『雪に願うこと』(06)、『カイジ2 人生奪回ゲーム』(11)、『飛んで埼玉』(19)、『るろうに剣心 最終章 The Final』『いのちの停車場』(21)などに出演。

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