いとうあさこ、転機になった“ババアいじり” コンプラ意識の芸能界で「年齢イジり減ってきた」
いとうあさこが、劇団山田ジャパン公演『愛称⇆蔑称』(今月7日開幕、東京・六行会ホール)に出演する。作品のテーマである「あだ名」を通じて、いとうが考えるコミュニケーション、時代の変化に思うことを語った。
中学時代のあだ名はウーパールーパー
いとうあさこが、劇団山田ジャパン公演『愛称⇆蔑称』(今月7日開幕、東京・六行会ホール)に出演する。作品のテーマである「あだ名」を通じて、いとうが考えるコミュニケーション、時代の変化に思うことを語った。(取材・文=大宮高史)
『愛称⇆蔑称』は、Netlflixドラマ『全裸監督』、映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』などの脚本家・山田能龍氏が作・演出を担っている。
舞台は長野県の中学校で、いとうはベテラン教頭の大山佳奈を演じる。田舎のこの学校では生徒たちは気軽にあだ名で呼び合っていたが、東京からの転入生の母親が「あだ名を禁止にしてください」とクレームをつける。東京ではいじめを防ぐためにあだ名を禁止し、生徒同士が“さん付け”で呼び合っているのが当たり前だという。あだ名は時代錯誤の習慣なのか……。大山や主人公の畑中忠平(原嘉孝)ら教師と親が舞台上で激論を交わしていく。いとうは自身の中学時代を振り返って言った。
「私たちの世代にとっては、学校ではあだ名で呼ばれるのが当たり前でした。でも、あだ名で呼ばれて嫌な思いをしてきた人も当然たくさんいますし、現代のさん付けで呼ぶ感覚も理解できます。コメディーですが、『どこまでが許されるのか、線引きが難しいな』と考えながら稽古をしています」
いとう自身は、中学校で初めてあだ名で呼ばれたことがうれしかったという。
「本名から『あーちゃん』としか呼ばれていなかったんです。ただ、中学3年の頃、ウーパールーパーのブームがありまして、その影響で私は目が離れているから『ウーパールーパー』ってあだ名がつきました。誕生日にも同級生からウーパールーパーのグッズをたくさんもらったり。イジられていたんでしょうけど、私は深刻に捉えるどころか、いっぱいグッズをもらえてうれしかったです(笑)」
いとうは40代に入り、ピン芸人としてブレイクした。
「『イッテQ!』で『ババア』といじられるようになって私、むしろ『やった!』と思いました。初めて個性らしい個性がついたなと(笑)。でも、そう受け取れるのも日頃の関係性から、『愛がある』と分かるからですね。道で知らない人から『ババア!』って言われたら、当然怒ります(笑)」
『愛称⇆蔑称』では、身近なテーマを俳優陣が台詞の応酬を通じて観客に考えさせる。
「『朝まで生テレビ!』のようにみんなでとにかく議論します。『人からどう呼ばれたいか』はすごく難しいテーマですし、一生考えても正解にたどりつかないかもしれません。そこをお客さんと一緒に考えながら『こんな意見もありだな』と思ってもらえるといいですね」
コンプライアンスにハラスメント対策……。芸能界もますます表現に敏感にならざるを得ない世の中。芸人としては何を思うだろうか。
「年齢イジりも減ってきましたね。笑っている人がいても、不愉快や悲しさを感じる人が少しでもいれば、それはもう“笑い”とは言えないのも確かですね。でも、時代の流れを息苦しく思っても仕方がありません。私たちだって、子どもの頃にいろんなアニメや映画などで、かなり過激なシーンやセリフを普通に見聞きして何も思わなかったのに、今見ると『あり得ない』と自然に思ってしまいます。そうやって価値観は変わっていくものですよね」
芸人・タレントという職業を選んだおかげで、「無茶もできるし、人生のたいていのことは笑い飛ばせますが、そう捉えない人もいるでしょう」と考えている。
「ウーパールーパーのあだ名も笑い話にしていますが、見た目が似ているからという良くも悪くも子どもらしい発想で、愛情があったかどうか。この舞台を離れても考えていくテーマです」
今の風潮が続けば、この先はどうなっていくのだろうか。
「皆、言葉で笑いを取るのが怖くなって、チャップリンのサイレント映画のような、無言のお笑いの時代が来るかもしれませんね(笑)」
だが、いとう自身はこれからも“愛のあるイジり”は受け入れていくつもりだ。
「『イッテQ!』でフリーフォールに乗った時、急降下の時の変顔を『ジジイ』と言われたこともあります。でも、映像を見ると私でも『見事な例えだな』と納得する顔でした(笑)。70歳、80歳になっても、愛あるあだ名で呼ばれたいですね。でも、その頃にはあだ名で呼ばれること自体が犯罪になって、『“ババア”って呼んでよぉ~』って言っただけで通報されてしまうかも(笑)」
今期話題のTBS系連続ドラマ『不適切にもほどがある!』も、いとうはしっかりチェックしている。同作は宮藤官九郎氏のオリジナル脚本によるコメディー作。昭和61年・1986年から2024年にタイムスリップした“昭和のおじさん”小川市郎(阿部サダヲ)が、コンプライアンスで縛られた令和の人々に考えるキッカケを与えていくストーリーが展開される。
「1986年という設定が絶妙ですね。私も思春期でしたが、もっと古い70年代だったら、いくら懐かしくてもマナーも風習も過激すぎて、ドラマにすらできないかも(笑)。『エンタメとしてちょうどいい時代だな』と細かな描写にゲラゲラ笑いながら拝見しております」
笑いでも芝居でも、表現に携わる者として、いとうには「どんな時代になっても、愛情あってのコミュニケーションを忘れずにいたい」の思いがある。さまざまな経験をネタに、たくましく昇華していく構えだ。
□いとうあさこ 1970年6月10日、東京都生まれ。1997年にお笑いコンビ・ネギねこ調査隊を結成し、2003年まで活動。以降はピン芸人として活動。現在のレギュラー番組は日本テレビ系『ヒルナンデス!』『世界の果てまでイッテQ !』『上田と女が吠える夜』、フジテレビ系『トークィーンズ』。特技はタップダンス、フィギュアスケート、素もぐり。162センチ。血液型AB。